小腸内細菌異常増殖(SIBO)とは
小腸内細菌異常増殖(SIBO)は、腸内に存在する細菌が過剰に増殖している状態のことを言います。腸内細菌は私たちが口にする食べ物を発酵させてガス(主に水素、メタンおよび硫化水素)を発生させることで、おなかが張って苦しい、げっぷがでる、胃酸が逆流する、下痢、便秘といった過敏性腸症候群(IBS)に特徴的な症状を引き起こします。
また、細菌が過剰に増殖すると、吸収不良から栄養不足になり、腸の透過性が亢進して(「リーキ-ガット」:異物が血管内に漏れやすい腸)、全身性炎症が起こりやすくなり、最終的には血管系に損傷を与える、より深刻な慢性疾患を発症するおそれがあります。実際に複数の研究で、SIBO陽性と判定された方は、狭心症や心筋梗塞などの冠動脈疾患と深部静脈血栓症を発症するリスクが高く、糖尿病や腎疾患から発症するより重い合併症が認められました。
IBS症例の50〜84%の症状の根本原因はSIBOである可能性が研究で実証されており、細菌の過剰な増殖を根絶することでこれらの症状は大幅に減少します。また、SIBOは現在、酒さ(酒皶・Rosacea)や胃食道逆流症(GERD)にはじまり線維筋痛症やパーキンソン病に至るまで、数えきれないほどの病態の原因であるか、または関連性があると認識されています。
小腸の細菌数は通常、次のメカニズムにより少ない状態に保たれています。
- 小腸上部:胃の中に含まれる塩酸が細菌の過剰な増殖を防ぎます
-
小腸内:
- 膵臓や小腸の刷子縁内に存在する酵素→複雑な炭水化物を分解・吸収促進→細菌による栄養素の消費を抑制
- 胆汁酸と膵臓内の酵素が細菌の過剰な増殖を防ぎます
- 胃腸の免疫機能が損傷のない状態で働きます(例:IgA)
- 小腸下部:回盲(IC)弁により小腸と結腸が区別されています
- 伝播性消化管収縮運動(MMC):神経筋活動が定期的に起こることで細菌が増殖する小腸を「洗浄」します
SIBOの兆候と症状、診断検査を実施するタイミングおよび個々の患者に合った治療の選択を把握できていることが重要です。
SIBOの原因
SIBOは、小腸の動きが止まって細菌が局所的に増殖しやすい環境になるときに発症します。SIBOの発症につながる可能性がある原因は多種多様です。
- 感染性胃腸炎:細菌毒素(急性)と感染後の自己免疫反応によって腸の内層とMMCがうまく働かなくなる可能性があります
- 消化不良:低塩酸症、膵臓酵素・胆汁の不足、ピロリ菌感染 など
- 神経障害:糖尿病の合併症やパーキンソン病、多発性硬化症 など
- 医原病:術後、アヘン剤(モルヒネ等)、プロトンポンプ阻害剤/制酸剤 など
- 機械的/構造的機能障害:狭窄、癒着、占拠性病変、先天性の解剖学的異常、憩室炎、婦人科系の症状(例:子宮内膜症、卵巣嚢胞)、回盲弁機能障害 など
- その他:甲状腺機能低下症、慢性的なストレス(交感神経優位)、IgA分泌能低下 など
SIBOと胃腸炎の関係
SIBOは、胃腸炎発症後に続いて発症することがよくあります。(胃腸炎感染患者の7〜31%がSIBOを発症すると推定されています)。
胃腸炎を起こす細菌(例:カンピロバクター、大腸菌、クロストリジウム属)は、神経伝導を阻害してMMCを不活性化する神経毒を分泌します。毒素の中には、分子模倣を介して自己免疫反応を誘発することによりMMCを損傷させるものも存在します。
その症状、あなたもSIBOかも知れません【SIBOチェックリスト】
あなたの症状を最もよく表す状況を選び、最後に合計得点を出してください。
- 19~73点:SIBOの可能性が高いです
- 8~18点:SIBOの可能性が高いものの、ほかの病気の可能性もあります
- 8点未満:症状はSIBOが原因のものではないと思われるため、ほかの病気について検討してください
SIBOの診断と検査
SIBOは直接検査と間接検査のどちらでも判定可能です。直接検査として内視鏡検査と培養、間接検査としてより一般的な呼気検査が挙げられます。
内視鏡検査および培養
内視鏡検査と培養は、小腸内の細菌の存在を直接検出するため、SIBO検査において最も信頼できる基準として広くみなされています。ただし、この検査方法にはいくつかの制限があります。
内視鏡検査は、高価で侵襲的な方法であることに加えて、小腸近辺のみの細菌を採取するため、小腸から離れた領域の細菌の過剰な増殖を見落とすおそれがあります。一部の研究者は、小腸遠方でより頻繁に細菌の過剰な増殖がみられると推測しています。さらに、嫌気性細菌は培養が容易ではなく、ほかの粘膜から汚染を受けるおそれもあります。
また、検査で陽性とされる際の限界値について国際的な合意を得られていません。大部分の研究では、105 cfu/mLの値を陽性としていますが、104~107 cfu/mLの範囲を限界値として検討している研究もあります。以上の理由から、内視鏡検査は臨床現場では一般的に採用されていません。
細菌性細胞毒素および細胞骨格タンパク質に対する抗体(自己免疫)
抗CdtB(細胞致死性膨張毒素B)や抗細胞骨格タンパク質(例:抗ビンキュリン)のような細菌性細胞毒素の存在を確認する検査は、感染後にSIBOの原因と関連している可能性を判断するのに役立ちます。
CdtBは、赤痢菌や大腸菌、カンピロバクター、サルモネラなどの病原菌によって分泌される強力な外毒素です。腸細胞の細胞骨格ポリマーを分解することにより、細胞間の接合部を分解します。また、CdtBは、DNAを直接損傷してその影響を受けた細胞に腫瘍を引き起こすことがあるデオキシリボヌクレアーゼでもあります。
細菌性細胞毒素と細胞骨格タンパク質間の分子模倣の結果として、細胞間の接合部に対して抗細胞骨格タンパク質の存在が自己免疫反応を示している可能性があります。
この検査はラクツロース呼気検査の代替手段にはなりませんが、SIBOが自己免疫性由来であるかどうかを確認して、治療の進捗とともに腸内層の働きを監視するために有益でしょう。
呼気検査
呼気検査は、最も一般的で費用対効果の高いSIBO診断方法です。細菌は発酵の副産物として水素とメタンガスを発生させますが、呼気を採取してこれらのガスを検出できます。呼気検査は間接検査にあたりますが、存在するガスの種類やその大まかな位置などの臨床的に有用な情報を得られます。そのため、SIBOには最良の臨床検査です。
検査の所要時間:2時間の検査を実施するところもありますが、小腸と大腸の全長を評価するために、当院では、3時間の検査を実施しています
検査対象のガス:呼気検査では、CO2(検体採取の検証用)とともに水素(H2)とメタンガス(CH4)も測定します。どのガスの値が上昇するかによって治療法が変わるため、水素の測定だけでは不十分です。
標準的な呼気検査室では現在、硫化水素ガスの検出は行っていません。
検査の準備:呼気検査では通常、12時間の準備食期間と12時間の断食期間が設けられます。準備食は、白米、鶏肉、肉、魚、卵、ハードチーズ、牛肉・鶏肉ブイヨンスープ、油、塩および胡椒に制限されます。野菜や果物、その他の炭水化物が豊富な食品は避けてください。準備食をとる理由は、明確なベースラインを得るために、発酵食品の存在を最小限にすることです。患者は翌朝にベースラインの検体となる呼気を採取してから、ラクツロース溶液を摂取します。以降、3時間の中で20分ごとに検体を採取します。
解釈:SIBO呼気検査中の120分までに20 ppm以上水素の値が上昇した場合に陽性とみなされます。メタン濃度が10 ppm以上でメタン陽性とされます。メタン陽性患者の場合、臨床医はメタン生成菌によって引き起こされる胃腸通過時間の遅延を考慮する必要があるため、120分以上の間、メタンと水素の両方の濃度を見ることを求められる場合があります。
制限:3時間のラクツロース呼気検査は最良の手段ですが、それでもなお制限があります。
- SIBOの間接検査であること
- 陽性の結果となる基準について国際的な合意が得られていないこと
- 偽陽性および偽陰性の結果が相当数認められること
- 水素やメタンを発生させる菌以外の存在を検出できない場合があること(例:硫化水素を発生させる菌)
- 検査前の準備に手間がかかること(12時間の準備食と12時間の絶食)
グルコースがラクツロースよりも感受性が高いのは本当ですか?
いくつかの研究では、SIBOの検出においてグルコースはラクツロースよりも感受性が高いと指摘されています。ただし、これは内視鏡検査と培養での理想的な標準と比較されたものです。内視鏡では小腸近辺のみを検知します。グルコースはすぐに吸収されて、小腸近辺に存在する細菌のみを検出するため、グルコースに高い感受性があると認識されるのです。
有機酸検査(OAT)の制限
有機酸検査(OAT)は、多くのバイオマーカーを用いて患者の全体的な健康状態を包括的に捉えることができます。
OATでは腸内の酵母と細菌を評価しますが、細菌の過剰な増殖があるかどうかは間接的にしかわかりません。発生箇所もわかりません。したがって、OATは健康状態を評価するための予備検査としてのみ使用でき、SIBOの診断には使用できません。
呼気検査 | 49,500円(税込) |
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治療費用の目安:月額1.1万円~2.2万円(税込) ※症状等によって異なります
SIBOの治療
当院では独自のアルゴリズムに従い、治療を行っています。(患者さん個々で治療法は異なるため、一般的な治療法を以下に羅列します)
- 食事療法(低FODMAP食 他)
- 抗生物質
- 植物性抗菌薬
- プロバイオティクス
- 消化管蠕動促進薬
SIBOの再発を予防するために
高い再発率:患者と医師双方にとっての課題
ある研究では、抗生物質による治療成功後、SIBOの再発率は3か月で12.6%、6か月で27.5%、および9か月で43.7%であることが示されました。臨床的には、一般的なSIBO再発期間は約2.5か月ですが、根本原因が治療されない限り再発までの期間はさらに短くなります。
SIBOが再発する根本原因は多々あります。高齢やプロトンポンプ阻害薬(PPI)の長期使用、メタボリックシンドローム、免疫機能障害(例:感染後自己免疫反応)、慢性神経変性疾患、それに食事の変化に適応できないなども挙げられます。
食事管理を徹底する
SIBO特有の食事(例:低FODMAP食)のいずれにおいても、特に患者がそのような食事を3か月以上続けなければいけない場合、管理を徹底できないことは共通する課題です。さらに、食事計画には多くの不安やストレスが伴うことが多く、ストレスと不安は私たちの消化機能と腸の運動を抑制するため、食事から得られるはずのあらゆる有益な効果がなくなってしまうおそれがあります。また、消化されていない炭水化物は、細菌の過剰な増殖をさらに促進してSIBOの症状をさらに悪化させる場合があります。
SIBOの再発を防ぐには、FODMAP食の頻度を減らすだけでなく、炭水化物の部分的な消化がさらに十二指腸と空腸近辺に存在する細菌の過剰な増殖を促進する可能性があるため、炭水化物を適切なタイミングで完全に消化する必要があります。
ほとんどの消化酵素サプリメントは、一般的なFODMAPの1日の推定摂取量の10〜20%しかカバーできません。これでは、SIBOの再発予防には不十分です。
細菌の生存を最小限に抑える
特に低塩酸症が疑われる患者において、塩酸ベタインを各食事に取り入れることで、胃と十二指腸で細菌が生存する確率を大幅に減らすことができます。
また、苦味のあるハーブも、消化液の分泌(胃酸、胆汁、および膵臓の酵素)を促して、小腸近辺の細菌の増殖を制限するために使用されることがあります。
SIBOによる精神面での症状を改善する
SIBOは「器質的」疾患であるという事実にもかかわらず、精神的な症状との関係も否定されていません。
私たちの気分と精神状態は、交感神経系(SNS)と副交感神経系(PNS)という自律神経系(ANS)を介して腸管神経系(ENS)の活動に影響を与えます。
PNSは、性的興奮や排尿、消化、排便といった「休息と消化」または「食事と繁殖」の活動を刺激する役割を担っています。ストレス/警告(例:闘争か逃走を選択する状況)が発生した際、SNSはPNSとENSに優先して働き、すべての胃腸活動(蠕動、MMC機能ならびに胃酸、粘液、酵素および胆汁の分泌)を抑制します。そのため、ストレスがかかった状態では、消化不良や吐き気/嘔吐、便秘/下痢の症状が現れるのです。
アダプトゲン(ストレスを抑えたり、不安を落ち着けたりする作用がある天然のハーブ)および鎮静剤は、腸のMMC機能の回復を助けるために、体をSNS優位からPNS優位に切り替えることに優れています。
瞑想やヨガ、呼吸法などのPNSを刺激する活動でも、PNS優位の状態を促すことができます。さらに、迷走神経を直接刺激できる特定の動きがあり、ANSをSNSからPNSに移すのに役立ちます。うがいをしたり、歌ったり、飲み込んだりする動きがこれにあたります。
<受診方法>
①当院の『オンライン診療』の予約をお取りいただく
②オンライン診療にて問診・診察を行いSIBOが疑われた場合、検査キットをご自宅へ郵送
③ご自宅で検査を行っていただき、キットを検査会社に返送いただく
④再度オンライン診療にて医師より検査結果のフィードバックを行い、今後の治療方針を決定
<費用>
上記①~④の診察料・検査費用・検査結果の解説・郵送料を含めて49,500円(税込)
※当項目は自費診療となります。各種医療保険は適用されません。
執筆・文責:伊藤 信久医師