睡眠中に何度も呼吸が止まる、いびきがひどい、朝起きても疲れが取れない。
これらの症状に心当たりがある方は、睡眠時無呼吸症候群の可能性があります。
睡眠時無呼吸症候群は、単なる睡眠障害にとどまらず、心不全リスクを140%、脳卒中リスクを60%、冠動脈疾患リスクを30%高める重篤な合併症リスクを伴う病気として知られています。
治療法としてはCPAP(持続陽圧呼吸療法)が第一選択となることが多いですが、実は枕の高さや形状も症状に大きな影響を与えることが分かってきました。
- 枕の高さが合っていないと無呼吸が悪化
- 横向き寝をサポートする枕は気道確を保しやすくなる
- 高さ調整可能な枕は個人の体格に合わせて気道の開放性を保てる
- メモリーフォームなど適度な硬さの素材はいびき軽減に効果的
- スマート枕は自動で頭部位置を調整し症状改善をサポートする
適切な枕を選ぶことで、気道の確保がしやすくなり、睡眠の質の改善が期待できる可能性があります。
- 睡眠時無呼吸症候群における枕の重要性と選び方
- 症状改善に適した枕の高さと素材の特徴
- 枕以外の睡眠環境改善方法
- 医療機関での検査・治療の必要性と受診のタイミング
睡眠時無呼吸症候群における枕の重要性
睡眠時無呼吸症候群は、睡眠中に呼吸が止まったり浅くなったりすることを繰り返す病気です。
日本呼吸器学会によると、成人男性の約3〜7%、女性の約2〜5%にみられ、男性では40歳〜50歳代が半数以上を占める一方で、女性では閉経後に増加するとされています。
睡眠時無呼吸症候群は大きく分けて、上気道(空気の通り道)が塞がることで起こる閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSA)と、脳から呼吸をする指令が来なくなることで起こる中枢性睡眠時無呼吸症候群(CSA)の2種類があります。
全体の約85–95%以上を占めるのが閉塞性睡眠時無呼吸症候群です。
睡眠時の気道確保と枕の高さの関係
枕が高すぎると、首が前傾姿勢になり気道が狭くなる可能性があります。
これは、あごが引けて喉を圧迫するとされるためです。
逆に枕が低すぎると、頭が後ろに下がり口が開いた状態になりやすく、舌根が落ち込んで気道を塞ぐ恐れがあります。
小規模研究(12例)によると、閉塞性睡眠時無呼吸症候群の軽症患者において、適切な枕の使用により無呼吸低呼吸指数(AHI)が改善することが報告されています。
軽度OSAS患者は頸椎枕により、いびきの重症度が有意ではない改善を示し、呼吸障害指数が有意に改善したが、中等度OSAS患者ではこれらのパラメータに改善は見られなかった。
引用:PubMed Cervical positional effects on snoring and apneas
ある研究では、メモリーフォーム枕の使用により、いびきの回数が47.0±15.9%減少し、その持続時間も10.6±6.7%短縮したという結果が得られています。
ただし、同試験では無呼吸低呼吸指数(AHI)の改善は統計的に有意ではありませんでした。
横向き寝をサポートする枕の特徴
睡眠時無呼吸症候群の改善には、横向き寝(側臥位)が推奨されています。
仰向け寝(仰臥位)では重力により舌や軟口蓋が落ち込みやすく、気道が狭くなりやすいためです。
アメリカ睡眠医学会(AASM)のガイドラインでも、体位療法は睡眠時無呼吸症候群の有効な代替または補助治療法として認められています。
横向き寝をサポートする枕には、両サイドが高く設計されているものや、頭部と首をしっかり支える形状のものがあります。
これらの枕は、横向き寝でも頭が自然と持ち上がり、脊椎のアライメントを保ちながら気道を確保しやすくする特徴があります。
睡眠時無呼吸症候群の方に適した枕の選び方
睡眠時無呼吸症候群の改善を目指す場合、枕選びは重要な要素となります。
ただし、枕だけで病気が治るわけではないことを理解した上で、症状の軽減をサポートする適切な枕を選ぶことが大切です。
高さ調整ができる枕のメリット
人それぞれ体格や首の長さが異なるため、最適な枕の高さも個人差があります。
高さ調整可能な枕を選ぶことで、自分に合った高さを見つけやすくなります。
研究によると、枕の高さを個人に合わせて調整することで、頸椎の自然なカーブを維持し、気道の開放性を改善できることが示されています。
一般的に、横向き寝の場合は肩幅と同じくらいの高さ、仰向け寝の場合は後頭部と首の間にできる隙間を埋めるくらいの高さが推奨されています。
ただし、睡眠中は平均して一晩に約24回体位を変えるとされているため(年齢により幼児期の35回から高齢期の17回まで変動)、どちらの姿勢でも対応できる枕を選ぶことが重要です。
素材別の特徴と呼吸への影響
枕の素材選びも、睡眠時無呼吸症候群の症状に影響を与える可能性があります。
メモリーフォーム枕は、頭と首の形状に合わせて変形し、適切なサポートを提供します。
ある研究では、メモリーフォーム枕の使用により、軽症の睡眠時無呼吸症候群患者において従来の枕と比較していびきの頻度と強度が有意に減少したことが報告されています。
グループB(MFPあり)では、LPと比較して、いびきイベントで47.0 ± 15.9%の統計的に有意な減少(p <0.05)、いびき持続時間で10.6 ± 6.7%の統計的に有意な減少(p <0.05)が観察されました。
引用:PMC Memory Foam Pillow as an Intervention in Obstructive Sleep Apnea Syndrome: A Preliminary Randomized Study
ラテックス枕は、適度な弾力性があり、頭部の重みを均等に分散させる材料特性を持つため、理論的利点があるとされています
また、通気性に優れているため、睡眠中の温度調節にも役立ちます。
一方で、柔らかすぎる素材や、中身が容易に移動する枕は避けるべきとされています。
学的エビデンスは不足していますが、臨床的観察に基づき推奨されていません。
頭部と首をしっかり支える形状の重要性
睡眠時無呼吸症候群の方には、頭部と首をしっかり支える形状の枕が推奨されます。
特に、頸部をサポートし、気道を開放しやすくする設計の枕が有効とされています。
スマート枕と呼ばれる自動調整機能付きの枕も開発されており、いびきを感知すると自動的に枕の形状を変化させ、頭部の位置を調整することで気道を確保する仕組みになっています。
単群設計の小規模研究では、スマート枕の使用により、軽度から中等度の睡眠時無呼吸症候群患者(23例)のAHIが平均で21.8±15.7から16.5±17.8イベント/時間に有意に減少したことが報告されています。
ただし、重症患者では有意な改善は認められませんでした。
平均AHIも21.8 ± 15.7回/時間から16.5 ± 17.8回/時間(p = 0.001)に有意に減少した。
引用:PMC Efficacy of a Smart Antisnore Pillow in Patients with Obstructive Sleep Apnea Syndrome
枕以外の睡眠環境改善ポイント
睡眠時無呼吸症候群の改善には、枕だけでなく総合的な睡眠環境の見直しが重要です。
体位変換の工夫やマットレスとの相性など、様々な要素を考慮することで、より効果的な改善が期待できます。
寝姿勢の工夫と体位変換
体位療法(positional therapy)は、睡眠時無呼吸症候群の有効な治療法の一つとして認められています。
研究によると、睡眠時無呼吸症候群患者の約50%が体位依存性OSA(仰向けで症状が悪化するタイプ)を示すとされており、体位療法はこのタイプの患者に有効です。
横向き寝を維持するための工夫として、以下のような方法があります。
体位療法の種類と特徴
| 方法 | 特徴 |
|---|---|
| テニスボール固定法 | 背中にテニスボールを固定する古典的な方法 |
| 振動アラーム付きデバイス | 仰向けになると振動で知らせる |
| 体位療法用特殊枕 | 専用に設計された枕 |
| 体位療法用ベスト | 着用するタイプの器具 |
背中にテニスボールを固定する方法は古典的ですが、現在ではより快適な専用デバイスが開発されています。
振動アラーム付きのデバイスは、仰向けになると振動で知らせ、無意識のうちに横向きに戻るよう促します。
体位療法用の特殊な枕やベストなども利用可能です。
ただし、これらの新しいデバイスの長期的な利用継続(アドヒアランス)については、まだ十分な検証が進んでいません。
研究では、体位療法によりAHIが平均で7.38イベント/時間減少し、エプワース眠気尺度スコアも1.58ポイント改善したことが示されていますが、効果には個人差があります。
2つの研究データから、体位療法によりESSスコアが有意に改善したことがわかった(MD -1.58、95% CI -2.89~-0.29、エビデンスの確実性は中等度)。体位療法では、対照群と比較してAHIの減少が示された(MD -7.38イベント/時間、95% CI -10.06~-4.7、エビデンスの確実性は低い)
引用:PubMed Positional therapy for obstructive sleep apnoea
マットレスとの相性を考慮した睡眠環境づくり
枕とマットレスの相性も重要な要素です。
柔らかすぎるマットレスでは体が沈み込みやすく、その結果として枕の高さが相対的に低くなる可能性があると経験的に指摘されています。
逆に硬すぎるマットレスでは、肩や腰に負担がかかり、快適な横向き寝が維持しにくくなります。
睡眠時無呼吸症候群の方には、中程度の硬さで体圧分散性に優れたマットレスが推奨されることが多く、長時間の横向き寝でも体への負担軽減に役立つとされています。
マットレスの硬さと睡眠への影響
| マットレスの硬さ | 影響 |
|---|---|
| 柔らかすぎる | 体が沈み込みやすく、枕の高さが相対的に低くなりやすい |
| 硬すぎる | 肩や腰に負担がかかり、横向き寝の維持が難しくなる |
| 中程度の硬さ | 体圧分散性に優れ、長時間の横向き寝でも体への負担軽減に寄与しやすい |
ただし、無呼吸低呼吸指数(AHI)などの直接的な改善を示す研究は限られており、現時点では間接的なエビデンスとされています。
また、上半身を30–45度程度傾斜させることで、重力を利用して気道を開放しやすくする方法も有効とされています。
医療機関への相談が必要なケース
睡眠時無呼吸症候群は、適切な診断と治療が必要な病気です。
枕の改善だけでは根本的な解決にならない場合も多く、医療機関での検査と専門的な治療が不可欠です。
枕の改善だけでは解決しない症状
以下のような症状がある場合は、枕の変更だけでなく、必ず医療機関を受診することが推奨されます。
日中の強い眠気や集中力の低下、起床時の頭痛、夜間の頻尿、睡眠中の呼吸停止を指摘されるなどの症状は、中等度以上の睡眠時無呼吸症候群の可能性があります。
米国睡眠医学会(AASM)公式ジャーナルによると、1時間あたり5回以上(AHI≥5)の無呼吸または低呼吸が認められる場合、睡眠時無呼吸症候群と診断されます。
また、睡眠時無呼吸症候群は、高血圧、心房細動、心不全、脳卒中、2型糖尿病などの様々な合併症のリスクを高めることが知られています。
日本呼吸器学会のガイドラインでも、高血圧や心疾患などの生活習慣病患者の30~80%に睡眠時無呼吸症候群が合併していると報告されています。
CPAP治療と枕の併用について
CPAP(持続陽圧呼吸療法)は、睡眠時無呼吸症候群の標準的な治療法です。
鼻マスクから一定の圧力で空気を送り込むことで、気道の閉塞を防ぎます。
日本では、簡易検査でAHI40以上、または精密検査でAHI20以上の場合にCPAPの保険適用となります。
CPAP使用時も、適切な枕の選択は重要です。
CPAP専用枕は、マスクとホースを考慮した設計になっており、横向き寝でもマスクのずれや空気漏れを最小限に抑えることができます。
CPAP専用枕の使用により治療の快適性が向上させる可能性も示唆されており、一部の条件下ではマスクからの空気漏れが減少した例もあります。
よくある質問(FAQ)
- 睡眠時無呼吸症候群の場合、枕なしで寝る方が良いですか?
-
枕なしで寝ることは推奨されません。
枕なしで仰向けに寝ると、あごが引けて首がつまった状態になり、かえって呼吸がしづらくなる可能性があります。
自分の体格に合った適切な高さの枕を使用することが大切です。
- どのような枕の素材が睡眠時無呼吸症候群に適していますか?
-
メモリーフォームやラテックスなど、適度な硬さと弾力性を持つ素材が推奨されます。
研究では、メモリーフォーム枕の使用によりいびきが約47%減少したという報告があります。
ただし、AHI(無呼吸低呼吸指数)の有意な低下は認められておらず、個人差があるため、実際に試してみることが重要です。
- 枕を変えれば睡眠時無呼吸症候群は治りますか?
-
枕の変更だけで睡眠時無呼吸症候群が完治することはありません。
枕は症状の軽減をサポートする補助的な役割です。
根本的な治療には、医療機関での適切な診断と、CPAPなどの専門的な治療が必要です。
まとめ
睡眠時無呼吸症候群における枕の役割は、気道を確保しやすい姿勢を保つことで症状の軽減をサポートすることです。
適切な枕の選択により、睡眠の質が改善し、日中の生活の質向上につながる可能性があります。
枕選びのポイントとしては、高さ調整が可能で、適度な硬さを持ち、横向き寝をサポートする形状のものを選ぶことが重要です。
また、枕だけでなく、体位療法やマットレスとの相性なども含めた総合的な睡眠環境の改善が効果的です。
ただし、睡眠時無呼吸症候群は放置すると重篤な合併症のリスクがある病気です。
いびきや日中の眠気などの症状がある場合は、まず医療機関を受診し、適切な検査と診断を受けることが最も重要です。
その上で、医師の指導のもと、枕の改善も含めた包括的な治療アプローチを検討することをおすすめします。
一般社団法人 日本呼吸器学会 I-05 睡眠時無呼吸症候群(Sleep Apnea Syndrome:SAS)
PMC Complex Sleep Apnea Syndrome
PubMed Ergonomic Consideration in Pillow Height Determinants and Evaluation
PubMed Cervical positional effects on snoring and apneas
Journal of Clinical Sleep Medicine 「Clinical Guideline for the Evaluation, Management and Long4term Care of Obstructive Sleep Apnea in Adults」
PubMed Sleep positions and position shifts in five age groups: an ontogenetic picture
PMC Efficacy of a Smart Antisnore Pillow in Patients with Obstructive Sleep Apnea Syndrome
PubMed Positional therapy for obstructive sleep apnoea
Journal of Clinical Sleep Medicine When will we ditch the AHI?
Hypertension Research Obstructive sleep apnea -related hypertension: a review of the literature and clinical management strategy
American Heart Association Journals Obstructive Sleep Apnea and Cardiovascular Disease: A Scientific Statement From the American Heart Association | Circulation
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