筋トレは高血圧に良い?悪い?安全に運動するための知識と注意点

筋トレは高血圧に良い?悪い?安全に運動するための知識と注意点

高血圧と診断されて、これまで続けていた筋トレをやめるべきか迷っていませんか。

健康のために運動は大切だと分かっていても、血圧が高い状態で筋トレをして大丈夫なのか不安になるのは当然のことです。

インターネットで調べても「高血圧には運動が良い」という情報と「激しい運動は危険」という情報が混在していて、何を信じれば良いのか分からなくなってしまいます。

実は、高血圧の方でも適切な方法で行えば筋トレは可能です。

欧州などの高血圧ガイドラインでも、有酸素運動に加えて筋トレ(レジスタンス運動)を行うことが推奨されています

それどころか、正しく取り組めば長期的に血圧を下げる効果も期待できます。

研究によると、適切な筋トレを継続することで、血圧が数mmHg程度低くなることが報告されています。

ただし、やり方を間違えると血圧が急に上がってしまうリスクがあるため、安全に行うための知識が欠かせません。

筋トレが高血圧に与える影響
  • 適切な方法で行えば、長期的に血圧低下効果が期待できる
  • 軽めの重量で回数多めに行う方法が安全で効果的
  • 息を止めると血圧急上昇するため呼吸継続が必須
  • 重いバーベルや限界までの高負荷は血圧上昇リスクがある
  • 有酸素運動と組み合わせることでより効果的

重要なのは、ボディビルダーのような激しい筋トレではなく、軽めの重さで回数を多くする方法を選ぶことです。

特に「重い重量・息こらえ・限界までの反復」といった条件が重なると、運動中に血圧が200mmHg、場合によってはそれ以上に達することもあり、心臓や血管に大きな負担がかかります。

一方で、自分の体重を使ったスクワット(しゃがんで立つ動作)や腕立て伏せのような運動なら、負担を調整しやすく比較的安全に取り組みやすい種目です。

この記事では、高血圧の方が筋トレをする際に知っておくべきポイントをわかりやすく解説します。

医師の視点から、科学的な根拠に基づいた情報をお届けしますので、安心して読み進めてください。

この記事でわかること
  • 高血圧でも筋トレができるかどうかの基準
  • 筋トレが血圧に与える影響としくみ
  • 安全に筋トレを行うための具体的な方法
  • 避けるべきトレーニングと推奨される運動
  • 筋トレと組み合わせると効果的な運動習慣
はじめに(免責・注意事項)

本記事は、高血圧に関する一般的な医学情報の提供を目的として作成されたものであり、特定の診断・治療を推奨するものではありません。

血圧の状態や治療方針は、年齢・体質・基礎疾患・服薬状況などにより個人差があります。降圧薬を含む医薬品の使用や生活習慣の改善を検討される場合は、必ず医師などの医療専門職にご相談のうえ、十分な説明を受けてからご自身の判断で行ってください。

また、本記事で紹介する内容の一部は、一般診療のほか自由診療に該当する可能性があります。保険適用の有無や費用、効果、副作用などについては、必ず受診先の医療機関で最新の情報をご確認ください。

本記事の情報は公開時点の医学的知見やガイドラインをもとにしていますが、今後の研究や法令改正により内容が変更となる場合があります。正確かつ最新の情報を得るために、公的機関(厚生労働省、日本高血圧学会など)や各医療機関の公式情報をあわせてご確認ください。

目次

高血圧の人でも筋トレはできる

結論から言えば、高血圧の方でも適切な方法で行えば筋トレは可能です。

むしろ、正しく取り組むことで血圧を管理しやすくなる可能性があります。

ただし、血圧の数値や健康状態によっては医師の許可が必要になるケースもあります。

特に上の血圧が160mmHg以上、または下の血圧が100mmHg以上の場合は、運動を始める前にかかりつけ医に相談することが望ましいです(特に合併症がある場合や運動強度を上げる場合)。

多くの方が誤解しているのは、高血圧だからすべての運動を避けなければならないという考え方です。

実際には、適切な運動は血圧を下げる効果があり、世界中の医療機関でも勧められています。

問題なのは運動そのものではなく、やり方や強さなのです。

ここでは筋トレが血圧にどんな影響を与えるのか、どのような条件なら筋トレを始められるのかについて詳しく見ていきましょう。

高血圧だからといって運動を諦める必要はありませんが、安全に行うための基礎知識を押さえることが大切です。

まずは筋トレ中に血圧が上がるしくみを理解し、その上で自分に合った運動方法を見つけていきましょう。

筋トレをすると血圧が上がる理由

筋トレ中に血圧が上がるのは、体の自然な反応です。

重いものを持ち上げたり、筋肉にグッと力を入れたりすると、心臓から送り出される血液の量が増えます。

同時に血管がキュッと縮むため、血圧が一時的に上がるのです。

特に重い重量を扱う筋トレでは、息を止めて力を入れる動作が加わることで、さらに血圧が急に上がりやすくなります。

これは専門的には「バルサルバ効果」と呼ばれる現象で、胸の中の圧力が高まることで血圧が大きく変わってしまうのです。

簡単に言えば、息を止めて力むと、体の中の圧力がぐっと高まって血圧が跳ね上がってしまうほか、心臓への負担が増えてめまいや失神の原因にもなり得ます。

筋トレで血圧が上がる主な理由
  • 心臓から送り出される血液の量が増える
  • 血管が収縮する
  • 息を止めることで胸の中の圧力が高まる(バルサルバ効果)
  • 重い重量による心理的ストレス

健康な方であれば、この一時的な血圧上昇は問題になりませんが、もともと血圧が高い方の場合は注意が必要です。

運動中の血圧上昇が激しすぎると、心臓や血管に負担がかかる可能性があるためです。

このSBPの上昇は高血圧患者にとってリスクとなる可能性がある。高血圧患者は正常血圧者よりも動脈瘤を発症しやすいためである

引用:PubMed Central Intra-Arterial Blood Pressure Response in Hypertensive Subjects during Low- and High-Intensity Resistance Exercise

やり方次第で高血圧でも筋トレは可能

高血圧の方でも、適切な負荷と方法で行えば筋トレは安全に実施できます。

重要なのは、重い重量を扱うパワーリフティングのような激しい筋トレではなく、軽めの重量で回数を多くする方法を選ぶことです。

アメリカ心臓協会などの世界的な医療機関では、高血圧の方に対して筋トレを適度に行うことが勧められています。

ただし、自分が出せる最大の力の半分くらいの負荷で、呼吸を止めずに行うことが条件とされています。

具体的には、「このくらいなら楽にできる」と感じる程度の軽さで行うということです。

自分の体重を使ったスクワットや腕立て伏せなどは、負荷を調整しやすく、比較的安全に取り組めます。

また、ジムにあるマシンを使ったトレーニングも、重さの設定がしやすいため高血圧の方に向いています。

血圧が160/100mmHg以上なら医師に相談を

どのくらいの血圧レベルなら筋トレを始めても良いのかは、人によって異なります。

一般的な目安として、上の血圧が160mmHg以上、または下の血圧が100mmHg以上の高血圧の人は、とくに強めの運動をする場合や合併症がある場合には、運動前に医師へ相談することが望ましいとされています。

血圧レベル別の対応目安

血圧レベル対応
上が140未満/下が90未満適切な方法で筋トレ可能
上が140〜159/下が90〜99軽い筋トレから開始、様子を見ながら
上が160以上/下が100以上特に強めの運動や合併症がある場合は、運動前に医師への相談が望ましい

また、血圧の数値が基準以下であっても、次のような場合は自己判断で運動を始めるのは避けましょう。

医師への相談が必要なケース
  • 心臓病や腎臓病などの病気がある
  • めまいやドキドキなどの症状がある
  • 過去に心筋梗塞や脳卒中の経験がある
  • 血圧を下げる薬を複数種類飲んでいる

医師による運動の検査を受けることで、自分に合った運動の強さを知ることができます。

血圧を下げる薬を飲んでいる方も、薬の種類によっては運動中の血圧変動に影響が出る可能性があります。

かかりつけ医に今の運動習慣や、これから始めたい運動について相談し、安全に取り組める範囲を確認することが大切です。

高血圧の人が筋トレをするとこんな良いことがある

筋トレは高血圧の方にとってリスクだけでなく、多くのメリットもあります。

正しい方法で継続すれば、血圧を管理しやすくなるだけでなく、全身の健康状態を良くする効果が期待できます。

特に長期的に見ると、筋肉量を保ったり代謝を良くしたりすることで、血圧が下がりやすい体質へと変化していきます。

筋トレによる血圧を下げる効果は、ウォーキングなどの有酸素運動ほど大きくはありませんが、両方を組み合わせることで相乗効果が生まれます。

また、筋肉量を保つことは、年を取るにつれて代謝が落ちるのを防ぎ、肥満の予防にもつながります。

肥満は高血圧の重要な原因の一つですから、筋トレによる体重管理は間接的に血圧を下げることにも役立つのです。

ここでは、高血圧の方が筋トレを行うことで得られる具体的なメリットと、同時に注意すべきリスクについて解説します。

メリットとリスクの両面を理解することで、より安全に運動に取り組めるようになります。

効果を過度に期待しすぎることなく、現実的な目標を持って続けることが大切です。

長期的に血圧が下がりやすくなる

筋トレを続けて行うことで、長期的には血圧が下がる効果が期待できます。

64件の研究を対象とした分析によると、適度な筋トレを定期的に行った高血圧の患者さんでは、上の血圧が約6mmHg、下の血圧が約5mmHg低くなることが報告されています(研究により差があります)。

安静時SBP/DBPが高いサンプルでは、​​より大きな血圧低下が認められ、高血圧群では≈6/5 mmHg、高血圧前症群では≈3/3 mmHg、正常血圧群では≈0/1 mmHgであった(P s<0.023)。

引用:PubMed Central Dynamic Resistance Training as Stand‐Alone Antihypertensive Lifestyle Therapy: A Meta‐Analysis

この血圧が下がるしくみは複数あります。

まず、筋トレによって筋肉の量が増えると基礎代謝(何もしなくても消費されるエネルギー)が上がり、血糖値や脂質の代謝が良くなります。

また、適切な強度の筋トレを続けることで血管の内側の機能が良くなり、血管が柔らかくなって血圧が下がりやすくなることが期待されます。

筋トレによる降圧効果のしくみ
  • 基礎代謝が上がり、血糖値や脂質の代謝が改善される
  • 血管の内側の機能が良くなり、血管が柔らかくなる
  • 自律神経のバランスが整う
  • ストレスが軽減される

さらに、筋トレはウォーキングなどの有酸素運動と組み合わせることで、より大きな血圧を下げる効果が得られることも分かっています。

週に2〜3回の筋トレと、週に150分程度の有酸素運動を組み合わせることが理想的とされています。

体重管理がしやすくなる

筋トレは体重管理の面でも高血圧の方に役立ちます。

筋肉の量が増えると基礎代謝が良くなるため、じっとしている時でもエネルギーを多く消費するようになり、体重をコントロールしやすくなります。

肥満は高血圧の重要な原因の一つです。

体重が1kg減ると、血圧は約1mmHg低くなると言われています(個人差はあります)。

体重減少1kgあたりで血圧低下は、収縮期血圧で-1.05 mmHg(95% CI、-1.43~-0.66)、拡張期血圧で-0.92 mmHg(95% CI、-1.28~-0.55)でした。

引用:PubMed Influence of weight reduction on blood pressure: a meta-analysis of randomized controlled trials

そのため、筋トレによって筋肉を保ちながら体脂肪を減らすことは、血圧を管理する上で非常に効果的な方法となります。

また、筋肉の量が多い人は、年を取っても基礎代謝の低下を抑えられるため、長期的な体重管理もしやすくなります

ただし、筋トレだけでは体重を減らす効果は限られているので、食事の管理と組み合わせることが重要です。

筋トレ中の血圧急上昇には注意が必要

メリットがある一方で、筋トレ中の血圧の急上昇には注意が必要です。

特に重い重量を扱う時や、息を止めて力を入れる動作では、血圧が200mmHg、場合によってはそれ以上に達することもあります。

筋トレで起こりうるリスク
  • 運動中の血圧が200mmHg以上に急上昇
  • 心臓や血管への過度な負担
  • めまいや立ちくらみ
  • 心筋梗塞や脳卒中のリスク増加(特に動脈硬化が進んでいる場合)

このような急激な血圧上昇は、心臓や血管に大きな負担をかけます。

特に動脈硬化(血管が硬くなること)が進んでいる方や、すでに心臓に問題がある方の場合、心筋梗塞や脳卒中のリスクが高まる可能性があります。

そのため、高血圧の方が筋トレを行う際は、重さよりも正しいフォームと呼吸の仕方を優先することが大切です。

無理に重い重量に挑戦するのではなく、安全に続けられる負荷で行うことを心がけましょう。

高血圧の人に向いている筋トレのやり方

高血圧の方が筋トレを行う際は、一般的な筋トレとは違うやり方が必要です。

重い重量で筋肉を大きくすることよりも、適度な負荷で筋力を維持し、健康を良くすることを目的とします。

筋肉を増やすことよりも、安全に続けられることを優先するという考え方が重要です。

ジムでトレーニングをしている方を見ると、つい重い重量に挑戦したくなるかもしれません。

しかし、高血圧の方にとって大切なのは、見た目の筋肉量ではなく、心臓や血管に負担をかけずに健康的な体を維持することです。

軽い負荷でも、正しい方法で続けていれば十分な効果が得られます。

ここでは、高血圧の方に適した具体的なトレーニング方法と、避けるべきトレーニングについて詳しく解説します。

安全に効果を得るためには、正しい方法を知ることが何よりも重要です。

自分の体と相談しながら、無理のない範囲で取り組んでいきましょう。

軽めの重さで回数を多くする方法が安全

高血圧の方には、軽めの重さで、1セット12〜15回程度を目安にしたトレーニングが勧められています。

このような「軽い負荷で回数を多く」という方法は、血圧の急上昇を抑えながら筋力を保てる安全なやり方です。

高血圧の方に適した筋トレの設定例

項目推奨される設定
重量の目安最大筋力の40〜60%程度
1セットの回数12〜15回
セット数2〜3セット
セット間の休憩1〜2分
実施頻度週に2〜3回

具体的には、楽に10回できるくらいの重さを選び、それを15回程度繰り返します。

セットの間の休憩は1〜2分程度とり、呼吸を整えてから次のセットに移ります。

合計で2〜3セット行えば十分な運動効果が得られます。

イメージとしては、「少し疲れるけど、余裕を持ってできる」くらいの重さが適切です。

重要なのは、動作中に息を止めないことです。

力を入れる時にゆっくり息を吐き、戻す時に息を吸うという基本的な呼吸の仕方を守ることで、血圧の急上昇を防げます。

もし息が止まってしまう場合は、重さが重すぎるサインですので、より軽い重さに調整しましょう。

スクワットや腕立て伏せなどの自重トレーニング

自分の体重を使ったトレーニングは、高血圧の方にとって比較的安全で始めやすい筋トレです。

特にスクワット(しゃがんで立つ動作)、腕立て伏せ、プランク(体を板のように真っすぐ保つ姿勢、、呼吸を止めずに短時間で行う)などの基本的な運動は、自宅でも気軽に取り組めます。

高血圧の方におすすめの自重トレーニング
  • スクワット :椅子に座るような浅めのスクワットから始める(10〜15回×2セット)
  • 壁腕立て伏せ :壁に手をついて立った状態で行う(10〜15回×2セット)
  • 膝つき腕立て伏せ :膝をついて負荷を軽くする(10〜15回×2セット)
  • かかと上げ :立った状態でかかとを上げ下げする(15〜20回×2セット)
  • 椅子を使った腕の運動 :椅子の座面に手をついて体を上げ下げする(8〜12回×2セット)

スクワットは、椅子に座る動作を繰り返すような浅めのスクワットから始めると良いでしょう。

膝を深く曲げすぎると、きつくて息を止めてしまいがちです。

無理のない範囲(浅め)から始め、呼吸が止まらないように注意しましょう。

10〜15回を2セット程度から始め、慣れてきたら回数を増やしていきます。

腕立て伏せが難しい場合は、膝をついて行う方法や、壁に手をついて立った状態で行う方法から始めることもできます。

自分の体力に合わせて負荷を調整できるのが、自分の体重を使ったトレーニングの大きな利点です。

重いバーベルを使う筋トレは要注意

高血圧の方が気をつけるべきなのは、重いバーベル(鉄の棒に重りをつけたもの)やダンベル(片手で持つ重り)を使った強度の高いトレーニングです。

特にベンチプレス(仰向けに寝て重りを持ち上げる)、デッドリフト(床から重りを持ち上げる)、ショルダープレス(肩の上で重りを持ち上げる)などは、高負荷・息こらえになりやすいため注意が必要です。

注意するべきトレーニング

運動の種類理由
重いバーベルを使った高負荷な運動高負荷になりやすく、バルサルバ効果が起きやすい
最大筋力に近い高負荷トレーニング息を止めやすく、バルサルバ効果が起きやすい
高強度のアイソメトリック運動(全力での壁押しなど)血圧が持続的に上昇する
長時間同じ姿勢で力を入れ続ける運動血流が滞り、血圧が上がりやすい

これらの運動では、どうしても息を止めて力を入れる瞬間が生じやすく、血圧が急激に上がる可能性があります。

また、重い重量を扱うことで心理的なストレスも加わり、さらに血圧が上がりやすくなります。

同様に、全力での高強度のアイソメトリック運動(動かずに力を入れ続ける運動)も、血圧が上昇しやすいため注意が必要です。

ただし、楽な姿勢を保つ程度の低強度なものは推奨されることもあります

例えば、壁を押し続けるような運動や、重いものを持ったまま動かずにいる運動は避けた方が良いでしょう。

筋トレをするときに必ず守りたいこと

どんなに適切なトレーニング方法を選んでも、実際に運動する際の注意点を守らなければ安全性は保てません。

高血圧の方が筋トレを行う際は、いくつかの重要なルールがあります。

これらは難しいことではありませんが、守らないと危険な状態になる可能性があるため、必ず覚えておいてください。

運動中の事故や体調不良の多くは、基本的なルールを守らなかったことが原因で起こります。

特に呼吸の仕方と運動の強さの管理は、高血圧の方にとって命に関わる重要なポイントです。

また、自分の体調を客観的に把握するために、血圧測定の習慣をつけることも欠かせません。

ここでは、筋トレ中に必ず守るべき3つのポイントについて解説します。

これらを守ることで、運動のリスクを最小限に抑え、効果を最大限に引き出すことができます。

面倒に感じるかもしれませんが、習慣にしてしまえば自然と体が覚えていきます。

息を止めずに呼吸を続けることが大切

筋トレで最も重要なのは、運動中に息を止めないことです。

息を止めて力を入れると、胸やお腹の中の圧力が高まり、血圧が急激に上がってしまいます。

これは先ほど説明したバルサルバ効果によるもので、高血圧の方には特に危険です。

運動別の正しい呼吸法

運動息を吸うタイミング息を吐くタイミング
スクワットしゃがむ時立ち上がる時
腕立て伏せ体を下ろす時体を押し上げる時
ダンベル運動下ろす時持ち上げる時

正しい呼吸の仕方は、力を入れる時にゆっくり息を吐き、力を抜く時に息を吸うというものです。

例えばスクワットなら、しゃがむ時に息を吸い、立ち上がる時に息を吐きます。

腕立て伏せなら、体を下ろす時に息を吸い、押し上げる時に息を吐きます。

もし動作中に息を止めてしまう場合は、負荷が高すぎる証拠です。

より軽い重さに変更するか、動作のスピードをゆっくりにして、常に呼吸を続けられる範囲で行いましょう。

「ややきつい」と感じる程度で止める

運動の強さの目安は、自分の感覚で「ややきつい」と感じる程度です。

これは、心拍数が通常の50〜70%程度(あるいは予備能の60%程度)上がる運動の強さに相当し、高血圧の方に適した範囲とされています。

ただし、血圧の薬の影響で心拍数が上がりにくい場合があるため、感覚的な「きつさ」を優先してください。

運動強度の目安

強度レベル体の状態判断
軽すぎる全く疲れを感じない、息も乱れない効果が薄い
適切(ややきつい)少し汗ばむ、軽く息が弾む、会話は可能理想的
強すぎる息が上がって会話が困難、筋肉に強い痛み危険、すぐに中止

運動中に息が上がって会話が難しくなったり、筋肉に強い痛みを感じたりする場合は、運動の強さが高すぎます。

逆に、全く疲れを感じない程度では運動効果が得られません。

「少し汗ばむ」「軽く息が弾む」くらいが適切な強さの目安です。

また、次のような症状が現れた場合は、すぐに運動を中止して休憩しましょう。

すぐに運動を中止すべき症状
  • めまいやふらつき
  • 胸の痛みや圧迫感
  • 激しいドキドキ(動悸)
  • 頭痛
  • 吐き気
  • 異常な息切れ

これらは血圧が過度に上がっているサインかもしれません。

症状が続く場合は医療機関を受診してください。

トレーニング前後に血圧を測る習慣をつける

自宅で筋トレを行う場合は、運動前後に血圧を測る習慣をつけることをお勧めします。

運動前の血圧が普段より高い場合(例えば上の血圧が180mmHg以上、または下の血圧が110mmHg以上)は、その日の運動は控えた方が安全です。

血圧測定のタイミングと判断基準

タイミング測定方法判断基準
運動前5分間安静にしてから測定上が180mmHg以上または下が110mmHg以上なら運動を控える
運動直後10〜15分休憩してから測定一時的に上昇は正常
運動の翌日朝起きた時に測定徐々に下がっていれば効果あり

運動直後は一時的に血圧が上がっていることが多いため、10〜15分程度休憩してから測定します。

定期的に筋トレを続けている場合、運動前の安静時血圧が徐々に下がっていくのを確認できれば、トレーニングの効果が出ている証拠です。

血圧の記録をノートやスマートフォンのアプリに残しておくと、体調の変化や運動の効果を把握しやすくなります。

かかりつけ医に相談する際も、このような記録があると具体的なアドバイスを受けやすくなるでしょう。

筋トレと一緒にやると効果的な運動

筋トレだけでなく、他の種類の運動も組み合わせることで、血圧を管理する効果はさらに高まります。

特にウォーキングやジョギングなどの有酸素運動は、高血圧に対して強い血圧を下げる効果が証明されており、筋トレと一緒に行うことが強く勧められています。

実際、世界中の医療機関でも、筋トレと有酸素運動の両方を取り入れることが理想的とされています。

運動による血圧の管理は、一つの運動だけに頼るよりも、複数の運動を組み合わせた方が効果的です。

筋トレで筋力を保ち、有酸素運動で心臓や肺の機能を高めることで、相乗効果が生まれます。

さらに、運動だけでなく食生活の改善も加えることで、より大きな成果が期待できます。

ここでは、筋トレと組み合わせると効果的な運動と、総合的な血圧管理の方法について解説します。

運動だけでなく、生活習慣全体を見直すことが、健康的な血圧を維持する鍵となります。

少しずつで構いませんので、できることから始めていきましょう。

ウォーキングなどの有酸素運動が血圧を下げる

有酸素運動は、高血圧を改善するのに推奨される中心的な運動として広く行われています。

ウォーキング、ジョギング、水泳、サイクリング(自転車こぎ)などの有酸素運動を定期的に行うことで、上の血圧は平均5〜8mmHg、下の血圧は3〜5mmHg程度低くなることが多くの研究で示されています。

高血圧の方におすすめの有酸素運動
  • ウォーキング :最も安全で始めやすい。早歩きで息が少し弾む程度が目安
  • 水泳・水中ウォーキング :関節への負担が少なく、全身運動ができる
  • サイクリング :膝への負担が少なく、長時間続けやすい
  • 軽いジョギング :ウォーキングに慣れてから、無理のない範囲で

有酸素運動が血圧を下げるしくみは、主に血管が柔らかくなることにあります。

運動によって血管の内側から特別な物質が出て、血管が広がりやすくなるのです。

また、自律神経(体を自動的にコントロールする神経)の働きが良くなり、血管の緊張が和らぐことも血圧を下げる効果につながります。

特にウォーキングは、高血圧の方でも安全に取り組めるため、最も勧められる有酸素運動です。

早歩きで少し息が弾む程度の速さで歩くことで、十分な運動効果が得られます。

週に150分以上の軽い運動を目指す

世界中の医療機関では、高血圧の方に対して週に150分以上の中くらいの強さの有酸素運動を行うことが勧められています。

中くらいの強さの運動とは、「ややきつい」と感じる程度の運動の強さで、会話はできるけど歌うのは難しいくらいの負荷です。

理想的な週間運動スケジュール例

曜日運動内容時間
月曜日筋トレ(自重トレーニング)30分
火曜日ウォーキング30分
水曜日ウォーキング30分
木曜日筋トレ(自重トレーニング)30分
金曜日ウォーキング30分
土曜日ウォーキング30分
日曜日ウォーキング30分

これを1日あたりに計算すると、毎日20〜30分程度の運動になります。

まとめて行う必要はなく、10分ずつ3回に分けて行っても同じような効果が得られます。

忙しい方でも、通勤時に一駅分歩く、昼休みに軽く散歩するなど、日常生活の中に運動を取り入れることができます。

筋トレは、この有酸素運動に加えて週に2〜3回行うのが理想的です。

例えば、月・木に筋トレを30分、火・水・金・土・日にウォーキングを30分といったスケジュールが無理なく続けられるでしょう。

運動と減塩を組み合わせるとさらに効果的

運動による血圧管理の効果を最大にするには、食生活の改善も欠かせません。

特に減塩(塩分を減らすこと)は、高血圧を管理する上で運動と並ぶ重要な要素です。

日本人の食塩摂取量は平均で1日10g前後ですが、高血圧の方は6g未満を目標とすることが勧められています。

運動と食事改善の相乗効果

対策期待される血圧低下
運動のみ上の血圧が3〜8mmHg低下
減塩のみ上の血圧が2〜8mmHg低下
運動+減塩上の血圧が8〜15mmHg低下

※数値は目安であり、単純な足し算にはならない場合があります。

運動と減塩を組み合わせることで、相乗効果が期待できます。

研究によると、運動だけ、または減塩だけを行った場合よりも、両方を同時に実践した方が血圧の下がり方が大きいことが分かっています。

また、野菜や果物を多く食べて、カリウムという栄養素を十分に取ることも血圧を管理するのに役立ちます。

血圧管理に役立つ食品
  • カリウムが豊富な食品 :バナナ、ほうれん草、アボカド、さつまいも、納豆
  • 食物繊維が豊富な食品 :野菜全般、海藻類、きのこ類
  • 減塩のコツ :だしの旨味を活用、酢やレモンで味付け、香辛料を使う

バナナ、ほうれん草、アボカドなどのカリウムが多い食品を積極的に取り入れましょう。

ただし、腎臓に問題がある方はカリウムの摂取に制限がある場合があるため、医師に相談してください。

よくある質問

高血圧の薬を飲んでいても筋トレはできますか

血圧を下げる薬を飲んでいても、血圧がうまくコントロールされていれば筋トレは可能です。

ただし、薬の種類によっては運動中の血圧の変動に影響が出ることがあるため、運動を始める前に必ずかかりつけ医に相談してください。

特にベータ遮断薬という種類の薬を飲んでいる場合は、心拍数が上がりにくくなるため、運動の強さの調整が必要になることがあります。

筋トレは朝と夜、どちらが良いですか

高血圧の方には、夕方から夜にかけての時間帯が比較的安全に行いやすいとされています。

ただし、個人の生活や服薬状況、症状などによって判断は異なります。

一般的に朝は血圧が高くなりやすい時間帯のため、特に冬場の寒い朝や、起床直後の急激な運動には注意が必要です。

起きてからすぐは体も目覚めておらず血圧が不安定になりやすいため、激しい運動は避け、準備運動を十分に行うか、時間を空けてから行うことをお勧めします。

プロテインを飲んでも大丈夫ですか

プロテイン(タンパク質を補給する粉末)自体は問題ありませんが、塩分が多く含まれる製品には注意が必要です。

プロテインパウダーを選ぶ際は、成分表示を確認し、ナトリウム含有量(食塩相当量)が少ないものを選びましょう。

また、腎臓に問題がある場合は、タンパク質を取りすぎると腎臓の機能が悪くなる可能性があるため、医師に相談してください。

筋肉痛があるときも運動を続けるべきですか

筋肉痛がある場合は、その部分の筋トレは休んだ方が良いでしょう。

筋肉は休んでいる間に回復し、強くなります。

無理に続けると怪我のリスクが高まります。

筋肉痛がある日は、痛みのない部分のトレーニングや軽いウォーキングなど、別の運動を行うことをお勧めします。

ジムに行かないと効果は出ませんか

ジムに通わなくても、自宅での自分の体重を使ったトレーニングやウォーキングで十分な効果が得られます。

重要なのは、継続して運動することです。

むしろ自宅で気軽にできる運動の方が、長く続けやすいという利点があります。

階段の昇り降りや、ペットボトルをダンベル代わりに使うなど、工夫次第で効果的な運動ができます。

どのくらいの期間で血圧が下がりますか

人によって違いはありますが、適切な運動を週に3〜5回程度続けた場合、早ければ2〜4週間程度で血圧の低下が見られることがあります。

ただし、効果を実感できるまでには2〜3ヶ月かかることも珍しくありません。

焦らず、長期的な視点で取り組むことが大切です。

冬場の運動で気をつけることはありますか

寒い環境では血管が縮み、血圧が上がりやすくなります。

冬場に屋外で運動する際は、十分なウォーミングアップ(準備運動)を行い、防寒対策をしっかりしましょう。

特に朝の寒い時間帯にいきなり激しい運動を行うことは避け、十分に暖かくするか、暖かい時間帯を選ぶことをお勧めします。

室内での運動も良い選択肢です。

まとめ

高血圧の方でも、適切な方法で行えば筋トレは安全にでき、長期的な血圧の管理にも役立ちます。

重要なのは、重い重さを避け、軽めの負荷で回数を多くすること、そして運動中に息を止めないことです。

高血圧の方が筋トレで得られる効果
  • 長期的に血圧が3〜5mmHg程度低下する
  • 基礎代謝が上がり、体重管理がしやすくなる
  • 血管の機能が改善し、血行が良くなることが期待できる
  • 生活習慣病の予防につながる

血圧が160/100mmHg以上の場合や、心臓病などの病気がある場合は、運動を始める前に医師に相談することをお勧めします。

自己判断で無理な運動をすることは避けてください。

筋トレだけでなく、ウォーキングなどの有酸素運動も週に150分以上取り入れることで、より効果的に血圧をコントロールできます。

運動に加えて、減塩などの食生活の改善も同時に行うことで、さらに大きな効果が期待できます。

運動を始める際は、「ややきつい」程度の強さを守り、無理のない範囲で継続することが何よりも大切です。

トレーニング前後に血圧を測り、自分の体調を確認する習慣もつけましょう。

高血圧の管理は、薬だけに頼るのではなく、運動や食事などの生活習慣全体を見直すことが重要です。

今日から無理のない範囲で運動を始め、健康的な血圧を目指していきましょう。

参考文献・参考サイト

European Society of Cardiology 2024 ESC Guidelines for the management of elevated blood pressure and hypertension

PubMed Central Dynamic Resistance Training as Stand‐Alone Antihypertensive Lifestyle Therapy: A Meta‐Analysis

PubMed Arterial blood pressure response to heavy resistance exercise

PubMed The Valsalva maneuver: its effect on intra-abdominal pressure and safety issues during resistance exercise

PubMed Central Intra-Arterial Blood Pressure Response in Hypertensive Subjects during Low- and High-Intensity Resistance Exercise

American Heart Association Getting Active to Control High Blood Pressure

PubMed Central Evidence for exercise training in the management of hypertension in adults

American College of Sports Medicine Exercise for the Prevention and Treatment of Hypertension

Centers for Disease Control and Prevention About High Blood Pressure

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PubMed Influence of weight reduction on blood pressure: a meta-analysis of randomized controlled trials

Frontiers in Physiology Blood Pressure Increase in Hypertensive Individuals During Resistance Training Protocols With Equated Work to Rest Ratio

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American Heart Association Simple Steps to Improve Your High Blood Pressure (Hypertension)

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厚生労働省「健康づくりのための身体活動・運動ガイド 2023

American College of Sports Medicine Exercising Your Way to Lowering Your Blood Pressure

National Health Service Physical activity guidelines for adults aged 19 to 64

厚生労働省「令和6年国民健康・栄養調査 結果公表

特定非営利活動法人 日本高血圧学会「一般向け「高血圧治療ガイドライン2019」解説冊子

Mayo Clinic Beta blockers: How do they affect exercise?

PubMed Morning versus Evening Aerobic Training Effects on Blood Pressure in Treated Hypertension

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PubMed Reductions in resting blood pressure after 4 weeks of isometric exercise training

この記事を書いた人

伊藤 信久のアバター 伊藤 信久 医師・グレースメディカルクリニック院長

福岡県出身。鹿児島大学医学部卒業後、大学病院の心臓外科に勤務。冠動脈バイパス術・弁置換術などの高度な心臓手術を多数担当。
その後、恩師が開業したクリニックで一次診療に従事。地域医療の最前線で多くの患者と向き合う中で「患者さんに最も近い距離で診療すること」の重要性を再認識し、開業医として地域医療に貢献することを決意。2014年に熊本市でグレースメディカルクリニックを開設した。現在は院長として、高血圧をはじめとする循環器・生活習慣病の診療に注力。心臓外科で培った循環器の知見を活かし、「血圧から全身を守る医療」をモットーに地域の健康づくりと啓発活動を続けている。

主な資格・所属学会
・日本外科学会
・日本循環器学会
・点滴療法研究会

地域の“かかりつけ医”として、高血圧を中心とした生活習慣病の早期発見と予防、継続的な血圧管理に力を注ぎ、患者一人ひとりの「より良い血圧コントロールと健康」の実現を目指している。

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