健康診断で高血圧や腎機能の低下を指摘され、両者の関係について気になっている方は少なくありません。
実は腎臓と高血圧は密接な関係にあり、互いに影響を及ぼし合う悪循環を生み出す可能性があります。
高血圧が腎臓にダメージを与える一方で、腎臓の機能が低下するとさらに血圧が上がりやすくなるという、厄介な関係性があるのです。
この悪循環を放置すると、腎臓の機能は徐々に低下し、最終的には週に3回、病院で数時間かけて血液をきれいにする人工透析という治療が必要になるケースもあります。
- 腎臓は水分・塩分量やホルモンを通じて血圧を調整している
- 高血圧で腎臓の血管が傷つき腎機能が低下する
- 腎機能低下で水分・塩分が溜まり血圧が上がる
- 両者は互いに悪化させ合う悪循環の関係にある
- 早期の塩分制限・運動・治療などで進行を遅らせる可能性
実際、日本では慢性腎臓病(腎臓の働きが低下したり、タンパク尿が出たりする状態)の患者が 2024年の推計では成人の約5人に1人(約2,000万人) とされており、その多くが高血圧を併発しています。
特に進行した腎機能低下(ステージ4〜5など)の状態では、米国のデータでは8割以上の方が高血圧を併発しているというデータもあります。
しかし、早期に適切な対策を講じれば、この悪循環を断ち切り、腎臓の機能を守ることができます。
この記事では、腎臓と高血圧がどのように関わり合っているのか、その仕組みを医学的な根拠に基づいて詳しく解説します。
また、日常生活で実践できる具体的な対策や、医療機関を受診すべきタイミングについてもお伝えします。
腎臓と高血圧の関係を正しく理解し、早期から適切な対策を行うことで、健康な生活を長く維持することができるのです。
- 腎臓が血圧を調整する仕組みと高血圧による腎臓へのダメージ
- 腎臓の病気が血圧を上昇させるメカニズム
- 高血圧が引き起こす腎臓病のリスク
- 日常生活でできる腎臓と血圧を守る対策
- 受診が必要なタイミングと検査の種類
はじめに(免責・注意事項)
本記事は、高血圧に関する一般的な医学情報の提供を目的として作成されたものであり、特定の診断・治療を推奨するものではありません。
血圧の状態や治療方針は、年齢・体質・基礎疾患・服薬状況などにより個人差があります。降圧薬を含む医薬品の使用や生活習慣の改善を検討される場合は、必ず医師などの医療専門職にご相談のうえ、十分な説明を受けてからご自身の判断で行ってください。
また、本記事で紹介する内容の一部は、一般診療のほか自由診療に該当する可能性があります。保険適用の有無や費用、効果、副作用などについては、必ず受診先の医療機関で最新の情報をご確認ください。
本記事の情報は公開時点の医学的知見やガイドラインをもとにしていますが、今後の研究や法令改正により内容が変更となる場合があります。正確かつ最新の情報を得るために、公的機関(厚生労働省、日本高血圧学会など)や各医療機関の公式情報をあわせてご確認ください。
腎臓と高血圧は互いに悪化させ合う関係にある
腎臓と高血圧の関係を理解する上で最も重要なのは、両者が「原因と結果」の両方の立場になり得るという点です。
高血圧が腎臓を傷つける原因になる一方で、腎臓の機能低下が高血圧を引き起こす原因にもなります。
この双方向の関係性により、一度悪循環に入ってしまうと、両方の状態が雪だるま式に悪化していく可能性があります。
医学的にはこの状態を「悪循環」と表現します。
具体的には、腎臓の機能が低下すると高血圧が起こりやすくなり、その高血圧が腎臓にさらなるダメージを与え、腎機能がさらに低下するという連鎖が起こります。
日本腎臓学会の調査によると、日本人の5人に1人が慢性腎臓病に該当すると推定されています。
また、慢性腎臓病の発症と進行には、高血圧、糖尿病、脂質異常症(コレステロールや中性脂肪の異常)などの生活習慣病が強く関係しています。
実際のデータを見ると、慢性腎臓病患者では病期が進むにつれて高血圧の割合が顕著に増えていきます。
慢性腎臓病のステージと高血圧の割合
| 慢性腎臓病のステージ | 腎機能の状態 (eGFR値) | 高血圧の割合 (USRDS 2010に基づく) |
|---|---|---|
| ステージ1(軽度) | 90以上 | 35.8% |
| ステージ2(中等度) | 60~89 | 48.1% |
| ステージ3(やや重度) | 30~59 | 59.9% |
| ステージ4~5(末期に近い) | 30未満 | 84.1% |
つまり、腎機能が低下すればするほど、高血圧を併発する可能性が高くなるのです。
この事実は、腎臓と血圧の管理を早期から適切に行うことの重要性を示しています。
腎臓が血圧をコントロールしている
腎臓は血圧を調整する重要な役割を担っています。
具体的には、体内の水分量や塩分量を調節することで血圧をコントロールしています。
イメージとしては、ホースに流れる水の量を調節するようなものです。
水の量が多ければホースにかかる圧力は高くなり、少なければ圧力は低くなります。
同じように、体内の水分や塩分が増えると血液の量が増え、血管にかかる圧力(血圧)が高くなります。
腎臓が正常に機能していれば、余分な水分や塩分は尿として排出され、血液の量が適切に保たれます。
たとえば、塩辛いものを食べて喉が渇き、水をたくさん飲んでも、健康な腎臓なら余分な水分を尿として出してくれるので、血圧が上がりすぎることはありません。
さらに腎臓は、レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系と呼ばれるホルモンの仕組みを通じて血圧を調整しています。
これは少し複雑ですが、簡単に言うと、腎臓から分泌される物質が連鎖反応を起こし、最終的に血管を収縮させたり、体に塩分と水分を溜め込ませたりして血圧を上げる仕組みです。
健康な状態では、この仕組みが適切に働いて血圧を一定の範囲内に保っていますが、腎臓の機能が低下するとこの調節がうまく働かなくなります。
血圧が高いと腎臓の血管が傷つく
高血圧が続くと、腎臓内の細い血管が少しずつ傷ついていきます。
腎臓は非常に細かい血管の集まりでできており、1個の腎臓には約100万個の「糸球体」という血液をろ過する小さなフィルターのような装置があります。
この糸球体には毛細血管が密集していて、高い圧力がかかり続けると血管壁が損傷を受けます。
高血圧による腎臓へのダメージは段階的に進行します。
初期段階では、血管の内側を覆っている細胞が傷つき、血管が硬くなっていきます。
これを動脈硬化といいます。
水道管が古くなって内側に錆びや汚れがこびりつくイメージに似ています。
腎臓の細い血管にこのような変化が起こると、血管の通り道が狭くなり、腎臓への血流が悪くなります。
血流が不足すると、腎臓の組織に十分な酸素や栄養が届かなくなり、徐々に腎臓が硬く小さくなっていきます。
この状態を腎硬化症といいます。
腎硬化症が進行すると、糸球体(血液をろ過するフィルター)が壊れていき、腎臓全体の機能が低下していきます。
アメリカのデータでは、高血圧による腎硬化症は糖尿病に次いで2番目に多い末期腎不全の原因となっています。
腎臓の病気があると血圧が上がりやすくなる
腎臓に何らかの病気がある場合、血圧が上昇しやすくなることが医学的に明らかになっています。
これを腎性高血圧といいます。
前述したように、慢性腎臓病患者における高血圧の割合は、病期が進むにつれて顕著に増えていきます。
米国のデータ(USRDS 2010)によると、軽度の腎臓病(ステージ1)で35.8%だった割合が、最終的に末期に近い状態(ステージ4から5)では84.1%に達するのです。
腎臓の病気が血圧を上昇させる理由は複数あります。
- 体内の水分や塩分を十分に排泄できず、血液量が増加する
- 腎臓から血圧を上げるホルモンが過剰に分泌される
- 血管を調節する機能が障害され、血管が収縮しやすくなる
これらの要因が重なることで、腎臓病患者では高血圧が発症しやすく、また治療も難しくなる傾向があります。
さらに重要なのは、腎臓病に伴う高血圧は、通常の高血圧よりも治療が困難な場合が多いという点です。
複数の血圧の薬を使用しても目標の血圧まで下がらない「治療抵抗性高血圧」となるケースも少なくありません。
このため、腎臓病が見つかった段階で、血圧管理を含めた総合的な治療を早期に開始することが極めて重要になります。
腎臓が悪くなると体内の水分や塩分が増える
腎臓の機能が低下すると、余分な水分や塩分を十分に尿として出せなくなります。
その結果、体内に水分と塩分が溜まっていき、血液の量が増加します。
血液量が増えると、血管にかかる圧力が高まり、血圧が上昇します。
健康な腎臓であれば、1日に約150リットル程度の原尿(尿のもと)を作り、老廃物や余分な水分を尿として排出しています。
これは一升瓶で約80本分という膨大な量です。
しかし、腎機能が低下すると、この処理能力が落ちてしまいます。
特に腎臓のろ過機能を示す数値(推算糸球体ろ過量)が60未満になると、水分や塩分の排泄能力が低下し始めます。
体内に余分な水分が溜まると、むくみが出現します。
最初は夕方に足がむくむ程度ですが、進行すると朝起きたときに顔がパンパンになったり、全身がむくんだりします。
さらに悪化すると、肺や心臓の周りに水が溜まる肺水腫や胸水といった、息苦しさを引き起こす深刻な状態になることもあります。
腎臓から血圧を上げるホルモンが分泌される
腎臓の機能が低下すると、レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系という血圧を上げる仕組みが過剰に働いてしまいます。
この仕組みを簡単に説明すると、腎臓への血流が減少すると、腎臓は「血圧が低い」と勘違いして、血圧を上げるホルモンを過剰に出してしまうのです。
具体的には、腎臓から「レニン」という物質が分泌されます。
これが引き金となって連鎖反応が起こり、最終的に「アンジオテンシンII」という非常に強力な物質ができます。
このアンジオテンシンIIは、全身の血管をギュッと収縮させて血圧を上昇させます。
ちょうどホースを握りしめると水の勢いが強くなるのと同じようなイメージです。
さらに、アンジオテンシンIIは副腎(腎臓の上にある小さな臓器)から「アルドステロン」というホルモンの分泌を促します。
このアルドステロンは、腎臓に「塩分と水分を体の外に出さないで、体に溜め込んでおきなさい」という指令を出します。
その結果、体内の水分と塩分が増え、血圧がさらに上昇する悪循環が生じます。
研究によると、慢性腎臓病患者では、腎臓の中でのアンジオテンシンII濃度が血液中よりも高くなっており、腎臓の中でこの仕組みが過剰に働いていることが、高血圧の発症に重要な役割を果たしています。
高血圧の発症に伴い、腎臓内アンジオテンシンII含量は徐々に増加し、腎臓内アンジオテンシンII含量は循環血中濃度との平衡から説明できる範囲を超えて増加する。
引用:PubMed Central Intrarenal angiotensin II levels in normal and hypertensive states
薬が効きにくい高血圧になることがある
腎臓病に伴う高血圧は、薬で治療しにくいという特徴があります。
これを治療抵抗性高血圧といいます。
具体的には、利尿薬を含む3種類以上の血圧の薬を適切な量で使用しても、目標とする血圧まで下がらない状態を指します。
- 血圧を上げるホルモンと神経の働きが両方とも過剰に活性化している
- 水分と塩分が十分に排泄されず、体内に余分な水分が溜まる
- 血管が硬くなり、薬に対して反応しにくくなる
実際の診療では、慢性腎臓病患者の多くが血圧を適切にコントロールするために、複数の血圧の薬を組み合わせて使う必要があります。
また、適切な塩分制限や水分管理を行わないと、いくら薬を飲んでも効果が十分に発揮されないこともあります。
薬だけでなく、生活習慣の改善も並行して行うことが重要なのです。
高血圧を放置すると腎臓の機能が低下していく
高血圧を治療せずに放置すると、腎臓の機能は徐々に、しかし確実に低下していきます。
この過程は数年から数十年かけてゆっくりと進行するため、初期には自覚症状がほとんどありません。
そのため「サイレントキラー(静かなる殺し屋)」とも呼ばれる高血圧の恐ろしさは、症状がないまま確実に臓器にダメージを与え続けることにあります。
高血圧による腎臓へのダメージは、主に血管への影響を通じて起こります。
腎臓は全身でも特に血管が豊富な臓器であり、心臓から送り出される血液の20%以上が腎臓に流れています。
これは体全体の血液の5分の1が腎臓に集中しているということです。
この豊富な血流により、腎臓は効率的に血液をろ過し、老廃物を排出することができるのですが、同時に高血圧の影響を受けやすい臓器でもあります。
統計的に見ると、高血圧患者のすべてが腎不全に至るわけではありませんが、適切な治療を受けない場合のリスクは決して低くありません。
特に糖尿病や脂質異常症などの他の生活習慣病を併発している場合、腎機能低下の速度は著しく速まります。
しかし、逆に言えば、適切な血圧管理を行うことで、腎機能の低下を大幅に抑制できるということでもあります。
高い圧力で腎臓の血管が少しずつ壊れる
高血圧状態が長く続くと、腎臓の細い血管に持続的に高い圧力がかかり続けます。
腎臓内には「糸球体」という血液をろ過する小さなフィルターがありますが、通常はその手前の血管が圧力を調節して、糸球体を守る仕組みが働いています。
しかし、高血圧が長期間続くと、この保護機能が破綻し、高い圧力が直接糸球体にかかるようになります。
糸球体にかかる圧力が上昇すると、糸球体の毛細血管壁が傷害を受けます。
これは水道の蛇口を勢いよく開けすぎて、細いホースが破れてしまうようなイメージです。
圧力による機械的なストレスで血管の内側の細胞が損傷し、炎症が起こります。
さらに、圧力の上昇により通常は血液中にとどまるべきタンパク質が尿中に漏れ出すようになります。
これがタンパク尿です。
また、高血圧により細い血管の壁が厚くなり硬くなる変化が進みます。
血管壁に硬い物質が沈着し、血管の通り道が狭くなります。
この状態が進行すると、腎臓への血流が不足し、腎臓の組織が酸欠状態になります。
酸欠になった組織は徐々に死んでいき、腎臓の働きが失われていきます。
腎臓の働きが悪くなり老廃物が溜まる
腎機能の低下が進むと、体内の老廃物を十分に排泄できなくなります。
血液検査で測定される「クレアチニン」や「尿素窒素」などの老廃物の値が上昇してきます。
これらの老廃物が体内に蓄積すると、さまざまな症状が現れます。
腎機能低下による症状の進行
| 腎機能の状態 | 主な症状 |
|---|---|
| 軽度の低下 | 疲れやすさ、だるさ |
| 中等度の低下 | 食欲不振、吐き気、夜間頻尿または尿量減少 |
| 高度の低下(正常の約3割) | 上記に加えて貧血、息切れ |
| 末期腎不全(正常の約15%未満) | 全身のむくみ、呼吸困難、意識障害 |
初期段階では、疲れやすさやだるさといった症状が出現します。
「なんとなく調子が悪い」「前より疲れやすくなった」といった漠然とした不調です。
腎機能がさらに低下すると、食欲不振、吐き気、嘔吐などの症状が現れます。
また、体内の水分調節ができなくなるため、夜中に何度もトイレに行く夜間頻尿や、逆に尿の量が極端に減ることもあります。
腎機能を示す数値(推算糸球体ろ過量)が正常の約3割まで低下すると、貧血が出現してきます。
これは、腎臓が赤血球を作るためのホルモンを分泌しているのですが、腎機能低下によりこのホルモンの産生が減少するためです。
貧血になると、さらに疲れやすさや息切れが増します。
さらに腎機能が低下し、正常の約15%未満の末期腎不全になると、全身のむくみ、呼吸困難、意識がもうろうとするなどの重篤な尿毒症症状が出現します。
この段階になると、命に関わる状態です。
最終的には人工透析が必要になる可能性がある
高血圧を適切にコントロールしないまま放置すると、最終的には腎機能が正常の10から15%以下まで低下し、人工透析や腎移植といった治療が必要になることがあります。
日本における透析患者数は2022年末時点で34万人を超えており、これは日本の総人口の約0.3%に相当します。
そのうち高血圧による腎硬化症が原因の患者も少なくありません。
実際、アメリカのデータでは、高血圧性腎硬化症は末期腎不全の主要な原因の一つとなっており、全体の28%を占めています。
2011 年の米国腎臓データ システム (USRDS) データによると、2009 年には高血圧性腎硬化症 (HN) が末期腎疾患 (ESRD) に至った患者の 28% を占めました。
引用:ScienceDirect Hypertensive renal disease: Histological aspects
人工透析とは、機能しなくなった腎臓の代わりに、機械を使って血液から老廃物や余分な水分を取り除く治療法です。
血液透析の場合、通常は週3回、1回あたり3から4時間、病院やクリニックに通って治療を受ける必要があります。
これは生涯にわたって続けなければならない治療です。
透析治療には医療費も高額で、年間約500万円の医療費がかかりますが、「特定疾病療養受療証」などの国の制度により、患者さんの自己負担は月1万円(一定所得以上は2万円)程度に抑えられます。
重要なのは、高血圧による腎臓病は早期発見と適切な治療により進行を遅らせることができるということです。
血圧を適切にコントロールすることで、透析が必要になる時期を回避したり、大幅に遅らせることができます。
実際、研究によると、厳格な血圧管理により腎機能低下の速度を有意に抑制できることが示されています。
腎臓と血圧を守るために日常生活でできること
腎臓と血圧を守るためには、日常生活での取り組みが非常に重要です。
医療機関での治療と並行して、自分でできる対策を継続的に実践することで、より効果的に腎臓と血圧を保護することができます。
実際、生活習慣の改善だけで軽度の高血圧が正常範囲に戻ったり、腎機能の低下速度が緩やかになったりすることも珍しくありません。
- 塩分制限(1日6g未満を目標)
- 適切な栄養管理(タンパク質の摂りすぎに注意)
- 運動習慣(週5回、または週計150分以上)
- 体重管理(適正体重を維持)
これらは互いに関連し合っており、一つを改善すると他の要素にも好影響を及ぼします。
たとえば、塩分を控えることで血圧が下がりやすくなり、運動を習慣化することで体重管理がしやすくなり、結果として血圧や腎臓への負担が軽減されます。
また、既に高血圧や腎臓病と診断されている方にとっては、薬による治療と生活習慣改善の両方で取り組むことが最も効果的です。
薬だけに頼るのではなく、日常生活での工夫を加えることで、より少ない薬の量で血圧をコントロールできたり、腎機能の悪化を遅らせることができます。
これから具体的な対策方法を見ていきましょう。
塩分を控えめにして水分量を適切に保つ
塩分の摂りすぎは高血圧の主要な原因の一つであり、腎臓にも大きな負担をかけます。
厚生労働省や日本腎臓学会の指針では、慢性腎臓病患者における塩分摂取は1日6g未満を目標としています(病状によりさらに制限される場合もあります)。
これは小さじ1杯(約5〜6g)程度の量です。
特にむくみや高血圧を伴う場合は、より厳格な塩分制限が推奨されます。
- 醤油や味噌などの調味料を減らす
- 加工食品(ハム、ソーセージ、かまぼこなど)を避ける
- インスタント食品やレトルト食品を控える
- 外食時は薄味のメニューを選ぶ
- 漬物や梅干しを控える
- レモンやお酢、香辛料、だしの旨味を活用する
水分摂取については、著明なむくみがある場合や透析を必要とするような状態を除いて、脱水にならないよう適度な水分を摂取することが大切です。
特に夏場や運動時は意識して水分を摂りましょう。
ただし、腎機能が低下している場合は、過剰な水分摂取も体に負担をかけるため、主治医の指示に従って適切な水分量を保つ必要があります。
タンパク質の摂りすぎに注意する
タンパク質は筋肉や臓器を作るために必要な栄養素ですが、腎機能が低下している場合は、摂りすぎると腎臓に負担をかける可能性があります。
タンパク質を体内で分解する過程で老廃物が生成され、これを処理するために腎臓が働く必要があるためです。
慢性腎臓病の病期によって推奨されるタンパク質摂取量は異なりますが、軽症から中等症の慢性腎臓病患者では、体重1kgあたり0.8から1.0g程度のタンパク質摂取が目安とされることが多いです。
たとえば体重60kgの人なら、1日48gから60g程度です。
食品に含まれるタンパク質の目安
| 食品 | タンパク質の量 |
|---|---|
| ご飯茶碗1杯(150g) | 約4g |
| 卵1個 | 約6g |
| 納豆1パック | 約7g |
| 鮭の切り身1切れ | 約20g |
| 鶏むね肉100g | 約22g |
※食品の大きさや部位、種類によりタンパク質量は異なります。
ただし、タンパク質制限が必要かどうか、またその程度については、個々の患者の腎機能や栄養状態によって異なるため、必ず医師や管理栄養士の指導を受けることが重要です。
過度なタンパク質制限は栄養不良を招く可能性があるため、適切なバランスを保つことが大切です。
適度な運動と体重管理が大切
適度な運動は、血圧を下げ、心臓や血管の機能を改善する効果があります。
運動により血管がしなやかになり、血圧調節機能が改善されることが知られています。
また、肥満やメタボリックシンドローム(内臓脂肪が多く、高血圧や高血糖、脂質異常のうち2つ以上を併発している状態)は慢性腎臓病の発症や進行に大きく関与しているため、適正体重を維持することが重要です。
- ウォーキング
- 軽いジョギング
- 水泳
- サイクリング
これらの有酸素運動を週に5回(または週計150分以上)、1回30分程度継続することが推奨されます。
激しい運動ではなく、「少し息が上がるけれど、会話はできる」程度の運動が適切です。
ただし、腎機能の状態によっては運動制限が必要な場合もあるため、運動を始める前に主治医に相談することが大切です。
- 禁煙(喫煙は血管を収縮させ、腎臓への負担となります)
- 節酒(ビールなら中瓶1本、日本酒なら1合程度が適量)
- 十分な睡眠(7~8時間を目安に)
これらの基本的な生活習慣の改善が、腎臓と血圧の保護に役立ちます。
降圧薬は腎臓を守る効果もある
高血圧の治療に用いられる降圧薬(血圧を下げる薬)には、血圧を下げるだけでなく、腎臓を保護する効果があるものがあります。
特に、「アンジオテンシン変換酵素阻害薬」や「アンジオテンシンII受容体拮抗薬」(ARBとも呼ばれます)は、前述した血圧を上げるホルモンの仕組みを抑制することで、腎臓内の圧力を低下させ、タンパク尿を減少させる効果があります。
これらの薬は、腎臓の糸球体(血液をろ過するフィルター)にかかる圧力を下げます。
その結果、糸球体へのダメージが軽減され、腎機能の低下速度を抑えることができます。
実際、多くの研究で、これらの薬による治療が、糖尿病性腎症や非糖尿病性腎症の進行を遅らせることが示されています。
慢性腎臓病患者の血圧目標と使用される薬
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 血圧の目標 | 一般的に130/80mmHg未満 ※年齢や病状、ガイドラインにより異なる場合があります |
| 主な降圧薬 | アンジオテンシン変換酵素阻害薬、アンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)、カルシウム拮抗薬、利尿薬 |
| 併用 | 多くの患者で複数の降圧薬の併用が必要 |
降圧薬の服用を自己判断で中断すると、血圧が急上昇して腎臓にダメージを与える可能性があるため、必ず医師の指示に従って継続することが重要です。
「調子が良いから」「血圧が下がったから」といって勝手に薬をやめてはいけません。
統合解析の結果、中止群では継続群と比較して心血管イベントが有意に高く(HR: 1.38、95% CI: 1.21-1.58)、ESKDも中止群で有意に高かった(HR: 1.29、95% CI: 1.18-1.41)。
引用:PubMed Central Effect of Discontinuation of Renin Angiotensin-System Inhibitors in Patients With Advanced Chronic Kidney Disease: A Meta-Analysis
こんな症状や数値があれば早めに受診を
腎臓病は初期には自覚症状がほとんどないため、定期的な健康診断や早期の受診が重要です。
腎臓は「沈黙の臓器」と呼ばれており、機能がかなり低下しても自覚症状が現れないことが一般的です。
そのため、症状が出た時点ではすでに腎機能がかなり低下していることが多く、治療の選択肢が限られてしまいます。
早期発見のためには、健康診断での尿検査や血液検査の結果に注意を払うことが重要です。
特に尿検査でタンパク尿や血尿を指摘された場合、血液検査で腎機能の低下を示す数値が出た場合は、「たいしたことない」と軽く考えず、必ず精密検査を受ける必要があります。
また、自覚症状が現れた場合も、「年のせいだろう」と放置せずに早めに医療機関を受診することが大切です。
- 高血圧、糖尿病、脂質異常症などの生活習慣病がある方
- 家族に腎臓病の方がいる方
- 高齢者(65歳以上)
- 肥満やメタボリックシンドロームの方
これらに該当する方は、定期的に腎機能をチェックし、異常が見つかった時点で早期に対応することが、将来の透析導入を回避する鍵となります。
むくみや尿の異常は腎臓のサインの一つ
むくみは腎臓の機能低下を示す重要なサインの一つです。
- 朝起きたときに顔や手がむくんでいる
- 夕方になると足がむくんで靴が入りにくくなる
- 靴下のゴムの跡がくっきり残る
- まぶたが腫れぼったい
これらの症状がある場合は注意が必要です。
むくみは、腎臓が余分な水分を十分に排泄できなくなっているサインかもしれません。
尿の泡立ちはタンパク尿を示唆している可能性があります。
また、尿の回数や量の変化も重要です。
その他、疲れやすさやだるさ、食欲不振、吐き気なども、腎機能低下に伴って現れることがあります。
ただし、これらの症状は腎臓病以外の原因でも起こるため、気になる症状があれば早めに医師に相談することが大切です。
「なんとなく調子が悪い」という漠然とした症状でも、放置せずに相談しましょう。
血液検査と尿検査で腎機能がわかる
腎臓の機能を評価するための基本的な検査は、血液検査と尿検査です。
血液検査では、「クレアチニン」という値を測定し、これをもとに「推算糸球体ろ過量(eGFR)」を計算します。
この推算糸球体ろ過量は、腎臓が1分間にどれだけの血液をろ過できるかを示す指標で、腎機能を評価する最も重要な数値です。
推算糸球体ろ過量(eGFR)による腎機能の評価
| eGFRの値 | 腎機能の状態 | 診断 |
|---|---|---|
| 100前後 ※年齢により異なります | 正常 | 健康 |
| 60~89 | 軽度低下 | 注意が必要 |
| 60未満(3カ月以上) | 中等度以上の低下 | 慢性腎臓病 |
| 15未満 | 末期腎不全 | 透析療法などが必要 |
この数値は健康診断の結果に記載されているので、必ず確認しましょう。
尿検査では、タンパク尿や血尿の有無を調べます。
タンパク尿は腎臓の障害を示す最も重要な指標の一つです。
健康な人では尿中にタンパク質はほとんど出てきませんが、腎臓のろ過機能が障害されると、タンパク質が尿中に漏れ出してきます。
タンパク尿の量が多いほど、腎機能低下の進行が速く、末期腎不全のリスクが高くなります。
健康診断で尿検査の異常や推算糸球体ろ過量の低下を指摘された場合は、「再検査」と書かれていても放置せず、必ず医療機関を受診して精密検査を受けることが重要です。
定期的なチェックが悪化を防げる
高血圧や糖尿病などの生活習慣病がある方、家族に腎臓病の方がいる方、高齢者の方などは、腎臓病になりやすいハイリスク群です。
こうした方々は、たとえ自覚症状がなくても、定期的に腎機能をチェックすることが推奨されます。
慢性腎臓病は早期に発見し適切な治療を開始すれば、腎機能の悪化を防いだり、進行を遅らせることが可能です。
軽度の腎臓病(ステージ1から2)の早期であれば、生活習慣の改善と食事療法により、進行を抑制できる可能性が高まります。
しかし、病状が進行してからでは、元通りの腎機能に戻すことは難しいため、早期の維持が重要です。
- 腎機能の悪化を防ぐことができる
- 生活習慣の改善と食事療法により進行抑制の可能性が高まる
- 透析導入を回避したり、大幅に遅らせることができる
- 治療の選択肢が多い
定期的な検査により腎機能の変化を把握し、異常が見つかった時点で早期に介入することが、透析導入を回避したり遅らせることにつながります。
年に1回の健康診断を必ず受け、異常を指摘された場合は「来年また検査すればいい」と放置せず、すぐに医療機関を受診しましょう。
早期発見・早期治療が、将来の健康を守る最も確実な方法です。
よくある質問
- 腎臓が悪いと必ず高血圧になりますか
-
必ずしもすべての腎臓病患者が高血圧になるわけではありませんが、腎機能が低下するにつれて高血圧になる頻度は高くなります。
軽度の腎臓病では約3人に1人が高血圧を併発していますが、末期に近づくと8割以上の方が高血圧を合併します。
ただし、早期から適切な治療を行えば、高血圧の発症を予防したり、遅らせることができます。
- 高血圧の薬は腎臓に負担をかけませんか
-
適切に使用される降圧薬は、腎臓に負担をかけるどころか、腎臓を保護する効果があります。
特にアンジオテンシン変換酵素阻害薬やアンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)は、腎臓の保護作用が証明されています。
「薬は体に悪い」と思って自己判断で服用をやめると、かえって腎臓にダメージを与える可能性があります。
薬は必ず医師の指示に従って服用することが重要です。
- 塩分を減らせば腎臓も高血圧も改善しますか
-
塩分制限は腎臓と高血圧の両方に対して非常に有効な対策です。
ただし、塩分制限だけですべてが解決するわけではなく、既に腎機能が低下している場合や高血圧が進行している場合は、薬による治療も必要になることがあります。
塩分制限と薬による治療を組み合わせることで、より効果的な治療が期待できます。
減塩は「薬を飲んでいるから大丈夫」ではなく、薬と並行して行うことが大切です。
- 腎臓の数値が悪いと言われましたが、自覚症状がありません。治療は必要ですか
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腎臓病は初期には自覚症状がほとんどないため、検査で異常が見つかった時点で治療を開始することが重要です。
症状が出るころには既に腎機能がかなり低下していることが多く、その段階では治療の選択肢が限られてしまいます。
早期に治療を開始することで、腎機能の悪化を防ぎ、将来の透析導入を回避できる可能性が高まります。
「症状がないから大丈夫」ではなく、「症状が出る前に治療を始める」ことが大切です。
まとめ
腎臓と高血圧は互いに影響し合う密接な関係にあり、一方が悪化すると他方も悪化するという悪循環を生み出します。
腎臓は血圧を調整する重要な臓器である一方、高血圧が続くと腎臓の血管が傷つき、機能が低下していきます。
この悪循環を断ち切るためには、早期発見と早期対策が不可欠です。
塩分制限(1日6g未満)、適度な運動(週3から5回、1回30分程度)、体重管理といった生活習慣の改善に加えて、必要に応じて降圧薬による治療を行うことで、腎臓と血圧の両方を守ることができます。
健康診断で尿検査の異常(タンパク尿や血尿)や腎機能の低下、高血圧を指摘された場合は、自覚症状がなくても必ず医療機関を受診し、適切な検査と治療を受けることが重要です。
早期に対策を講じることで、週3回病院に通う透析が必要になる末期腎不全への進行を防ぐことができます。
気になる症状がある方、高血圧や糖尿病などの持病がある方は、ぜひ一度かかりつけ医や腎臓専門医に相談してみてください。
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