血圧を下げる薬を毎日きちんと飲んでいるのに、夜になってもなかなか寝つけない、布団に入ってからも考え事が止まらない、夜中に何度も目が覚めてしまう。
高血圧の治療を続けている方の中には、こうした眠りの悩みを抱えている方が少なくありません。
「年齢のせいだろう」「血圧の薬の副作用かもしれない」と自分だけで判断して、誰にも相談せずに過ごしている方もいるのではないでしょうか。
日中の体調や気分にまで影響が出てくると、睡眠薬を使ってみたいと考える方も多いはずです。
しかしその一方で「血圧の薬と睡眠薬を一緒に飲んでも大丈夫なのか」「睡眠薬そのものが血圧に影響するのではないか」という不安から、なかなか一歩を踏み出せないという声もよく聞かれます。
- 血圧への影響は薬の種類や個人差で異なるとされる
- 降圧薬との併用で起立性低血圧が起こりやすい可能性
- オレキシン受容体拮抗薬は血圧への影響が少ない可能性
- 自己判断での増量はふらつきや転倒のリスクを高める
- 薬の選択や使用期間は医師が個別に判断するのが望ましい
結論から述べると、睡眠薬が血圧に与える影響は薬の種類や個人の体質によって差があり、一律に危険と言い切れるものではないとされています。
一方で、薬の組み合わせ方や使い方によっては血圧が下がりすぎたり、立ち上がったときにふらつきが出やすくなったりする可能性もあり、自分の判断での使用には注意が必要です。
また、高血圧と不眠は別々の問題ではなく、体の中で血圧や眠気を自動的に調整している「自律神経」という仕組みを通じて、お互いに影響し合っていることも分かってきています。
つまり、睡眠薬を安全に使うためには、薬そのものの特徴を理解することと同じくらい、高血圧と不眠の関係そのものを知っておくことが大切なのです。
それぞれのポイントについて、できるだけわかりやすい言葉で順番に説明していきます。
- 睡眠薬が血圧にどのような影響を与える可能性があるか
- 高血圧の人が不眠になりやすい理由
- 降圧薬と睡眠薬を併用する際に注意したい点
- 薬を使わずに眠りを整えるための生活習慣の工夫
はじめに(免責・注意事項)
本記事は、高血圧に関する一般的な医学情報の提供を目的として作成されたものであり、特定の診断・治療を推奨するものではありません。
血圧の状態や治療方針は、年齢・体質・基礎疾患・服薬状況などにより個人差があります。降圧薬を含む医薬品の使用や生活習慣の改善を検討される場合は、必ず医師などの医療専門職にご相談のうえ、十分な説明を受けてからご自身の判断で行ってください。
また、本記事で紹介する内容の一部は、一般診療のほか自由診療に該当する可能性があります。保険適用の有無や費用、効果、副作用などについては、必ず受診先の医療機関で最新の情報をご確認ください。
本記事の情報は公開時点の医学的知見やガイドラインをもとにしていますが、今後の研究や法令改正により内容が変更となる場合があります。正確かつ最新の情報を得るために、公的機関(厚生労働省、日本高血圧学会など)や各医療機関の公式情報をあわせてご確認ください。
高血圧の人が睡眠薬を使った場合、血圧への影響は薬の種類や個人差によって異なる
今、病院で処方されている睡眠薬は、もともと血圧を下げるための薬ではありません。
脳の中で「眠る」「起きる」という働きに関わる部分に働きかけて、眠りやすくする薬です。
そのため、血圧への影響は薬の主な目的ではなく、いわば「おまけ」のような形で起こるものと考えられています。
実際に、古くからあるタイプの睡眠薬(ベンゾジアゼピン系)を長く使っている人を調べた研究では、結果はさまざまで一貫していませんが、オーストラリアで行われた研究などでは、高齢者において血圧が下がる傾向がみられたと報告されています。
とはいえ、睡眠薬には種類があり、それぞれ脳への働きかけ方が違うため、血圧との関わり方にも違いが出る可能性があります。
また、もともと飲んでいる血圧の薬との組み合わせによって注意が必要になる場合もあれば、自分の判断で薬の量を増やしてしまうことでリスクが高まる場合もあります。
ここからは、睡眠薬の種類ごとの特徴、血圧の薬と一緒に使うときの注意点、そして自分の判断で量を増やすことがなぜ危ないのかを、順番に見ていきます。
全体として言えるのは、睡眠薬を必要以上に怖がる必要はないものの、医師の管理のもとで正しく使うことが、血圧への影響を抑えるうえで欠かせないという点です。
睡眠薬の種類によって体への影響の出方が異なる
睡眠薬と言っても、実はいくつかの種類があります。
代表的なのは、脳全体の興奮を抑えて眠りやすくする「ベンゾジアゼピン系」と、似たしくみで睡眠に特化して作られた「非ベンゾジアゼピン系」(いわゆるZ薬、ゾルピデムなど)です。
ベンゾジアゼピン系は頭の興奮を抑えるだけでなく、体の筋肉の緊張までゆるめる作用を持っています。
また、非ベンゾジアゼピン系(Z薬)も似た働きをしますが、筋肉をゆるめる作用はベンゾジアゼピン系に比べて弱いとされています。
ちょうど、興奮して力が入っている体に「力を抜いて休もう」と声をかけるようなイメージです。
ただ、この筋肉をゆるめる作用が、立ち上がったときのふらつきや血圧の変化と関係している可能性があるとされています。
もう一つ、比較的新しいタイプとして「オレキシン受容体拮抗薬」(スボレキサント、レンボレキサントなど)があります。
オレキシンとは、脳に「起きていなさい」という指令を出している物質のことで、この薬はその指令を一時的に弱めることで眠りを促します。
筋肉をゆるめる作用が少ないとされているため、先ほどのタイプに比べると、転倒や血圧への影響が少ない可能性があると報告されています。
さらに、体内時計を整えるホルモンである「メラトニン」と同じような働きをする「メラトニン受容体作動薬」(ラメルテオンなど)もあります。
メラトニンの成分を用いた薬(製剤)では夜間の血圧を下げるという報告がありますが、処方薬であるラメルテオンにおいて、同じように血圧を下げる効果が確立しているわけではありません。
このように、ひとくくりに「睡眠薬」と呼んでいても、血圧への関わり方は薬の種類によって異なる可能性があることを知っておくとよいでしょう。
ここまでの内容を、種類ごとに簡単に整理すると次のようになります。
睡眠薬の種類と作用機序・血圧への影響
| 種類 | 代表的な薬 | 主な働き方 | 血圧との関わり |
|---|---|---|---|
| ベンゾジアゼピン系 | 古くからある睡眠薬(眠剤) | 脳全体の興奮を抑える | 筋肉をゆるめる作用があり、血圧の変動に関わる可能性 |
| 非ベンゾジアゼピン系(Z薬) | ゾルピデムなど | 睡眠に特化した働き方(睡眠導入剤) | ベンゾジアゼピン系と似た傾向があるが、筋肉をゆるめる作用は比較的弱いとされる |
| オレキシン受容体拮抗薬 | スボレキサント、レンボレキサントなど | 「起きていなさい」という指令を弱める | 筋肉をゆるめる作用が少なく、血圧への影響も少ない可能性 |
| メラトニン受容体作動薬 | ラメルテオンなど | 体内時計のホルモンと似た働き | 夜間の血圧をわずかに下げる方向に働く可能性も |
血圧を下げる薬と睡眠薬の併用には注意が必要
血圧を下げる薬(降圧薬)にもいくつかの種類があります。
たとえば、体の中の余分な塩分や水分を尿として出して血圧を下げる「利尿薬」、血管の壁の緊張をゆるめて血管を広げる「カルシウム拮抗薬」、血管を締め付けるホルモンの働きを抑える「ACE阻害薬」や「ARB」、血管を緊張させる神経の働きを抑える「α遮断薬」、心臓の働きを穏やかにする「β遮断薬」などです。
どれも血圧を下げる方向に働く薬です。
降圧薬の種類と主な作用
| 降圧薬の種類 | 主な働き |
|---|---|
| 利尿薬 | 塩分や水分を尿として排出し血圧を下げる |
| カルシウム拮抗薬 | 血管の壁の緊張をゆるめて血管を広げる |
| ACE阻害薬・ARB | 血管を収縮させるホルモンの働きを抑える |
| α遮断薬 | 血管を緊張させる神経の働きを抑える |
| β遮断薬 | 心臓の働きを穏やかにする |
ここに、筋肉の緊張をゆるめるタイプの睡眠薬が重なると、それぞれの薬の働きが複雑に影響し合い、結果として血圧が下がりやすくなる可能性があると考えられています。
特に、座った状態や寝た状態から急に立ち上がったときに、血圧が一時的に大きく下がってしまうこと(起立性低血圧と呼ばれます)が起こりやすくなるとされています。
高齢の方を対象にした調査では、ベンゾジアゼピン系の薬を使っている人は、使っていない人と比べて、立ち上がった直後の血圧の下がり方が大きい傾向にあったとも報告されています。
もっとも、これは「血圧の薬と睡眠薬は絶対に一緒に飲めない」という意味ではありません。
実際には、多くの高血圧の方がどちらの薬も問題なく使っています。
大切なのは、年齢や体の状態、他の薬との飲み合わせなどを踏まえ、どの薬をいつ使うかを医師が一人ひとりに合わせて判断することであり、患者さん自身が市販薬や他の病院で処方された薬を自分の判断で追加しないことです。
自己判断で量を増やすとふらつきや血圧低下の危険がある
睡眠薬を飲んでもなかなか眠れたと感じられないとき、自分の判断で量を増やしたり、もう一錠追加で飲んでしまったりすることがあります。
しかし、ベンゾジアゼピン系やZ薬には転倒のリスクを高めることが知られており、その背景には、先ほど説明した血圧の下がりすぎやめまい、筋肉の緊張がゆるむことなどが関係している可能性があるとされています。
転倒しやすい高齢者へのベンゾジアゼピン系薬剤(BZD)およびZ系薬剤の処方は、慎重に行うべきである。
引用:PubMed Central Therapeutic dilemmas with benzodiazepines and Z-drugs: insomnia and anxiety disorders versus increased fall risk: a clinical review
高血圧や前立腺の病気、睡眠時無呼吸、糖尿病などがある方は夜中にトイレで起きることも多く、薬の影響で頭がぼんやりした状態で立ち上がると、転倒や思わぬけがにつながる危険性も否定できません。
効果が乏しいと感じたときは、自分で量を調整するのではなく、次の診察のときに医師にそのまま伝えることが大切です。
薬の種類や量の見直し、飲むタイミングの調整など、専門的な判断によって対応できることが多くあります。
高血圧の人は眠りが浅くなり寝つきも悪くなりやすい
高血圧と不眠は、ただ「たまたま同時に起こりやすい」というだけの関係ではありません。
体の中で血圧や緊張、リラックスを自動的に調整している「自律神経」という共通のしくみを通じて、お互いに影響し合っていると考えられています。
また、日々のストレスや肥満、睡眠時無呼吸なども複雑に絡み合って関係しています。
長く不眠が続いている人を調べた研究では、よく眠れている人と比べて、体を緊張させる神経(交感神経)の働きが強くなりやすく、血圧が急に変わったときにそれを元に戻そうとする体のブレーキのようなしくみ(圧反射と呼ばれます)が弱くなっている傾向が報告されています。
また、不眠症のある人は、よく眠れている人と比べて、高血圧を併せ持っている割合が高いというデータもあります。
つまり、血圧が高いことと不眠は、どちらかが一方的に原因になっていると単純には言い切れず、お互いに複雑に影響し合う関係があると考えられているのです。
この章では、まず血圧の高さがどのようにして眠りを浅くするのか、その背景にある自律神経のしくみを説明し、続いて寝る前のスマートフォンやカフェインといった身近な習慣が寝つきの悪さにどう関わっているのかを見ていきます。
そして、眠れない夜が積み重なることで血圧がさらに上がりやすくなるという、悪い循環についても確認していきます。
高血圧と不眠のどちらか一方だけに注目するのではなく、お互いに影響し合っているという見方を持つことが、適切な対処を考えるうえでの出発点になります。
血圧が高いと自律神経のバランスが乱れて眠りが浅くなる
自律神経には、体を活発にする「交感神経」と、体を休ませる方向に働く「副交感神経」があり、よくたとえられるように、車のアクセルとブレーキのような役割を担っています。
ふだん、夜になるとアクセルである交感神経の働きが落ち着き、ブレーキである副交感神経のほうが優位になることで、自然と眠気が訪れ、深い睡眠に入りやすくなります。
しかし、高血圧の状態が続くと、本来夜に落ち着くはずの交感神経の働きが十分に下がらないことがあります。
結論として、Oliveira‐Souzaらの研究は、高血圧における睡眠の質と心臓自律神経機能の関係について疑問を提起した点で意義があり、睡眠の質の低下が交感神経と副交感神経の調節の著しい変化を伴うことを示唆している。
引用:PubMed Central Sleep, hypertension, and autonomic dysfunctio
ここに睡眠時無呼吸や心理的なストレス、肥満、お酒の飲みすぎ、薬の影響、夜間の頻尿といったさまざまな要因が複雑に絡み合うことで、寝つきが悪くなったり、眠りが浅くなって夜中に目が覚めやすくなったりすると考えられています。
寝る前のスマホやカフェインが寝つきの悪さを招くこともある
高血圧そのものに加えて、毎日のちょっとした習慣が寝つきの悪さに重なっていることも少なくありません。
就寝前にスマートフォンやパソコンを見ると、画面の光が眠気を起こすホルモン(メラトニン)を抑えてしまうだけでなく、SNSや動画などのコンテンツそのものが脳を興奮させる方向に働く可能性があるといわれています。
また、コーヒーやお茶に含まれるカフェインには、体を緊張させる神経(交感神経)を刺激する作用があり、夕方以降に摂取すると寝つきにくさにつながることがあります。
入浴についても、就寝直前に熱すぎるお湯に長く浸かると体が興奮しやすくなるとされています。
厚労省のe-ヘルスネットでは、40度前後のお湯に10〜15分ほど(半身浴なら30分程度)浸かり、寝る1〜2時間前までに済ませておくことなどが、眠りやすくするための工夫として例示されています。
眠れない夜が続くと血圧がさらに上がりやすくなる
睡眠不足や眠りの質の低下は、それ自体が血圧を上げる方向に働く可能性があるとされています。
いくつもの研究をまとめて調べた解析では、適切な睡眠がとれている人と比べて、睡眠時間が短い人ほど高血圧になりやすい傾向が示されており、その差はおおよそ2割前後高くなるという報告もあります。
結果は、睡眠時間が短いと高血圧の有病リスクが増加すること(OR=1.20、95% CI:1.09-1.32、P<0.001)を示しており、特に65歳未満の被験者と女性においてその傾向が顕著であった。
引用:PubMed Short sleep duration is associated with hypertension risk among adults: a systematic review and meta-analysis
これは、眠れない夜が続くことで体を緊張させる神経(交感神経)が高ぶった状態が続き、血管が縮みやすくなることなどが関係していると考えられています。
つまり、不眠と高血圧はお互いに悪化させ合う関係にあるとも言えます。
ただし、「ただの不眠」と思っていても、実際には睡眠時無呼吸症候群や足のむずむず感、夜間頻尿、気分の落ち込み、他の薬の影響などが隠れていることもあるため、どちらか一方だけに対処するのではなく、背景にある原因も含めて両方を一緒に考えていくことが望ましいといえるでしょう。
睡眠薬を使うかどうかは医師と相談して決めることが大切
不眠の治療では、生活習慣の見直しなどを早い段階から取り入れることが重要です。
症状が強かったり生活に支障が出ていたりする場合は、医師が薬の治療も含めて一人ひとりに合わせて検討していきます。
日本睡眠学会がまとめた診療ガイドラインでも、睡眠薬は一人ひとりの症状や経過に合わせて個別に検討するべきものとされています。
高血圧のある方の場合は、これに加えて「今飲んでいる血圧の薬との組み合わせ」「年齢や他の病気の有無」「立ちくらみやふらつきを経験したことがあるか」といった点も、薬を選ぶうえでの判断材料になります。
どの睡眠薬を選ぶか、どのくらいの期間使うかは、自分で決めるのではなく、医師が一人ひとりの状態を見ながら判断していくことが望ましいとされています。
ここからは、睡眠薬を始める前に医師へどんなことを伝えておくとよいか、薬の種類によってふらつきや起立性低血圧などのリスクがどう違う可能性があるか、そして高齢の方や他の病気がある方が特に気をつけたい点について、順番に見ていきます。
どの項目にも共通しているのは、睡眠薬は医師と情報を共有しながら使うことで、リスクを抑えつつ不眠の改善を目指せるという点です。
睡眠薬を始める前に必ず医師へ血圧の状態を伝える
睡眠薬の処方を相談するときには、今の血圧の値や、いつも使っている血圧の薬の種類、これまでに立ちくらみや転倒を経験したことがあるかどうかを、できるだけ具体的に医師に伝えることが大切です。
こうした情報があることで、医師は血圧への影響が比較的少ないとされるタイプの薬を選んだり、飲むタイミングを調整したりしやすくなります。
お薬手帳を持っていき、他の病院で出されている薬やサプリメントも含めて伝えることで、思いがけない飲み合わせのリスクを減らすことにつながります。
診察のときに伝えておきたい情報をまとめると、次のとおりです。
- 現在の血圧の値、ふだんの血圧の傾向
- 服用している降圧薬の名前と種類
- 立ちくらみ、ふらつき、転倒の経験があるかどうか
- お薬手帳の内容(他院の薬・市販薬・サプリメントを含む)
睡眠薬の種類によってふらつきや起立性低血圧などのリスクが変わる
先ほど説明したように、筋肉の緊張をゆるめる作用が比較的強いベンゾジアゼピン系やZ薬と比べて、オレキシン受容体拮抗薬は血圧への影響が少ない可能性があるとする報告があります。
ただし、眠気によるふらつきや転倒のリスクが全くないわけではなく、特に高齢の方では注意が必要です。
実際に、スボレキサントとレンボレキサントという2つの薬を比べた国内の研究では、効果そのものに大きな差はなく、副作用の出方についても一方が少ない可能性が示唆されたものの、はっきりとした大きな違いまでは確認されなかったとされています。
治療継続に伴う副作用の発現率も、スボレキサント群(12.5%)とレンボレキサント群(2.9%)の間で有意差は認められなかった(p = 0.10)。
引用:PubMed Comparative efficacy and safety of suvorexant and lemborexant for insomnia treatment
こうした特徴を踏まえて、高血圧があり転倒のリスクが気になる方には、医師が薬を選ぶときに血圧や安全性への影響をより重視して判断することもあります。
ただし、どの薬であっても人によって反応の違いがあり、絶対に安全と言い切れるものではないという点には気をつけておく必要があります。
高齢者や持病がある人ほど副作用のリスクが高まる
年齢が上がるにつれて、薬を分解して体の外に出す肝臓や腎臓の働きが、ゆるやかに落ちていくとされています。
そのため、薬の種類によっては、同じ量を飲んでも体の中に薬が残っている時間が長くなりやすくなることがあります。
また、高齢の方は複数の薬を同時に使っていることが多く、薬どうしが影響し合うことで、血圧への影響が強まる可能性も否定できません。
高血圧に加えて糖尿病や腎臓の働きの低下などがある方は、睡眠薬を新しく始めるときや、血圧の薬を変更するときに、いつもより丁寧に血圧の変化を確認することが望ましいとされています。
自宅で血圧を測る習慣がある方は、睡眠薬を始めてからしばらくは記録をつけておき、次の診察のときに医師に見せると、状態を把握する助けになります。
睡眠薬を使わずに生活習慣を整えるだけで眠りが改善する場合もある
薬に頼らない方法として、寝る前の行動や日中の生活習慣を見直す「睡眠衛生」(眠るための生活習慣を整える工夫)と呼ばれる取り組みがあります。
不眠の治療では、こうした取り組みを早い段階から取り入れることが重要です。
症状が強い場合や生活に支障がある場合は、医師が薬の治療も含めて個別に検討することになります。
実際に、生活習慣の改善や、考え方や行動を見直す心理的なアプローチ(認知行動療法など)を行った研究をまとめて調べた解析では、血圧の上の数値(収縮期血圧)がおおよそ5前後(mmHg)下がったという結果も報告されています。
睡眠時間の延長や生活習慣の改善など、取り組みの内容によって効果の大きさは異なりますが、眠りを整えること自体が血圧の管理にも役立つ可能性があると考えられています。
薬を使う前の選択肢として、あるいは薬と一緒に取り入れる工夫として、生活習慣の見直しは試してみる価値のある方法といえるでしょう。
ここでは、就寝前にできる具体的な工夫、血圧対策と不眠対策が重なり合う理由、そして生活改善を試しても眠れない場合にどう考えればよいかについて、順番に紹介していきます。
薬を使うかどうかにかかわらず、生活習慣の見直しは、高血圧の管理と不眠の改善の両方に役立つ、基本的で大切な取り組みであるといえます。
就寝前の行動を変えるだけで寝つきが良くなることがある
毎日できるだけ同じ時間に起きて、朝に日光を浴びることは、体内時計を整えて夜の眠気を自然に引き出すための基本的な工夫です。
寝る数時間前からは強い光を避け、スマートフォンの使用を控えること、夕方以降のカフェインやお酒を控えることも、寝つきをよくする助けになるとされています。
先ほども触れたとおり、ぬるめのお湯にゆったり浸かり、寝る1〜2時間ほど前までに入浴を済ませておくことも、体温の変化を利用して眠気を誘うための工夫の一つです。
今日から取り入れやすい工夫を整理すると、次のようになります。
- 起床時間をできるだけ一定にし、朝に日光を浴びる
- 就寝前の数時間は強い光やスマートフォンの使用を控える
- 夕方以降のカフェイン・アルコールを控える
- 40度前後のお湯に10〜15分ほど浸かり、就寝1〜2時間前までに入浴を済ませる(のぼせや立ちくらみに注意)
減塩や運動などの血圧対策がそのまま不眠対策にもなる
高血圧の管理として一般的に勧められている、塩分を控えること、適度に体を動かすこと、たばこをやめることといった生活習慣の見直しは、血圧だけでなく自律神経のバランスを整える方向にも働くと考えられており、結果として眠りの質の改善にもつながる可能性があります。
日中に体を動かす習慣があると、夜になって適度な疲れとともに眠気が訪れやすくなることも知られています。
血圧のための生活習慣と、眠りのための生活習慣は、多くの部分で重なっているといえるでしょう。
生活改善でも眠れない場合は早めに医療機関へ相談する
生活習慣を見直しても、数週間以上にわたって寝つきの悪さや夜中に目が覚めることが続く場合、あるいは日中の体調や気分に支障が出ている場合は、自分だけで対応を続けるのではなく、医療機関に相談することが勧められます。
長く続く不眠は、1か月から3か月以上続くと自然に良くなる割合が下がり、治療が長引きやすいことが指摘されています。
早めに相談することで、生活面のアドバイスと薬による治療を組み合わせた、より効果的な対応につながる可能性があります。
高血圧と睡眠薬に関するよくある質問
- 市販の睡眠改善薬でも血圧に影響しますか?
-
ドラッグストアなどで買える市販の睡眠改善薬は、もともとアレルギーの薬に使われる成分(抗ヒスタミン成分)を中心に作られていることが多く、病院で処方される睡眠薬とは違うしくみで効きます。
血圧への直接的な影響は比較的小さいと考えられていますが、めまいや動悸、翌日に眠気が残るなどの副作用や、飲み合わせのリスクもあるため、高血圧治療中の方や高齢の方、他の薬を飲んでいる方は、使う前に薬剤師や医師に確認することをお勧めします。
- 睡眠薬を飲むと血圧は上がりますか、下がりますか?
-
薬の種類によって違うため、「必ずこうなる」という決まった答えはないとされています。
筋肉の緊張をゆるめるタイプの薬では血圧がやや下がる方向に働く可能性が指摘されている一方、メラトニンと似た働きをする薬では、夜間の血圧をわずかに下げる作用が報告されている研究もあります。
- 降圧薬と睡眠薬はどのくらい時間を空けて飲めばいいですか?
-
組み合わせる薬の種類やその人の状態によって、ちょうどよい間隔は変わるため、一般的な目安をそのまま当てはめるのは難しいとされています。
処方されたときに医師や薬剤師から伝えられた飲むタイミングに従い、わからないことがあれば次の受診のときに確認することをお勧めします。
- 高血圧の治療中でも睡眠薬を処方してもらえますか?
-
多くの場合、高血圧があるからといって睡眠薬が出せないわけではありません。
ただし、今の血圧の状態や使っている血圧の薬を踏まえて、薬の種類や量が一人ひとりに合わせて検討されることが一般的です。
まとめ
睡眠薬が血圧に与える影響は、薬の種類や人によって違い、一律に「危険」と言い切れるものではないとされています。
一方で、血圧の薬との組み合わせ方によっては血圧が下がりすぎたり、ふらつきや転倒のリスクが高まったりする可能性も指摘されており、自分の判断で飲む量を調整することは避けるべきです。
この記事のポイントをまとめると、次のとおりです。
- 睡眠薬の血圧への影響は薬の種類や個人差によって異なる
- 降圧薬との併用は自己判断を避け、必ず医師に相談する
- 高血圧と不眠は自律神経を介してお互いに影響し合う
- 生活習慣の改善は血圧と睡眠の両方に役立つ
高血圧と不眠は、体の中の自律神経というしくみを通じてお互いに影響し合う関係にあるため、どちらか一方だけでなく、両方を一緒に考えていく対応が望ましいといえます。
薬を始める前、あるいは見直す前には、今の血圧の状態や使っている薬についてできるだけ詳しく医師に伝え、生活習慣の改善も一緒に取り入れていくことが、より安全で効果的な不眠対策につながります。
気になる症状がある場合は、自分だけで対応を続けるのではなく、早めにかかりつけ医や専門の医療機関に相談することをお勧めします。
なお、本記事の内容は一般的な医学的知見の紹介を目的としたものであり、個別の治療方針については必ず医師にご相談ください。
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厚生労働省 知っておきたい薬の知識
特定非営利活動法人 日本高血圧学会 家庭で血圧を測定しましょう
厚生労働省 健康づくりのための睡眠ガイド 2023
特定非営利活動法人 日本高血圧学会 一般向け「高血圧治療ガイドライン2019」解説冊子
厚生労働省 健康づくりサポートネット(e-ヘルスネット) 不眠症
KEGG MEDICUS 一般用医薬品 : ドリエル

