高血圧でも登山はできる?安全に楽しむための準備と注意点

高血圧でも登山はできる?安全に楽しむための準備と注意点

登山は自然の中で全身を動かせる、日本でも非常に人気の高いアウトドア活動です。

しかし、「高血圧があっても登山してよいのだろうか」「山を歩いている最中に血圧が上がって倒れないか不安」と感じている方も多いのではないでしょうか。

結論からお伝えすると、高血圧があっても、普段から治療を受けて血圧が良好に管理されており、病状が安定していれば、登山を楽しめる可能性は十分にあります

ただし、登山は平地での散歩とは大きく異なります。

高い標高・冷たい空気・急な坂道による体への負担など、血圧に影響を与える条件がいくつも重なりやすい環境です。

そのため、何も考えずに山へ向かうのではなく、正しい知識と準備を持った上で臨むことが、安全に登山を楽しむための大前提になります。

登山中に血圧が上がりやすい理由
  • 標高が上がると低酸素で交感神経が活発になる
  • 寒冷による血管収縮で血液が通りにくくなる
  • 急傾斜と荷物で心臓・肺への負担が増大する
  • 高血圧患者は低酸素への感受性がもともと高い可能性
  • 朝晩の気温差で血管収縮が繰り返し起こりやすい

この記事では、高血圧と登山の関係を、できるだけわかりやすく順を追って解説していきます。

まず「登山中になぜ血圧が上がりやすいのか」という仕組みを知ることで、山の中での自分の体の変化に気づきやすくなります

その上で、登山前に医師へ相談しておくべき内容や、日ごろからできる体力づくりの方法についても具体的にご紹介します。

また、降圧薬(血圧を下げる薬)を飲んでいる方は、薬の種類によって運動中の体への影響が異なるため、その点も詳しく説明します。

高血圧だからといって山を諦める必要はありません。

正しい準備と知識があれば、登山は高血圧のある方にとっても、健康的で充実した活動になり得ます。

この記事でわかること
  • 高血圧の人が登山をしても大丈夫かどうかの基本的な考え方
  • 登山中に血圧が上がりやすい理由と、それが体に与える影響
  • 登山前に行うべき医師への相談と身体づくりの方法
  • 当日のペース配分・水分補給・休憩の取り方
  • 降圧薬の種類ごとに注意すべきポイント
はじめに(免責・注意事項)

本記事は、高血圧に関する一般的な医学情報の提供を目的として作成されたものであり、特定の診断・治療を推奨するものではありません。

血圧の状態や治療方針は、年齢・体質・基礎疾患・服薬状況などにより個人差があります。降圧薬を含む医薬品の使用や生活習慣の改善を検討される場合は、必ず医師などの医療専門職にご相談のうえ、十分な説明を受けてからご自身の判断で行ってください。

また、本記事で紹介する内容の一部は、一般診療のほか自由診療に該当する可能性があります。保険適用の有無や費用、効果、副作用などについては、必ず受診先の医療機関で最新の情報をご確認ください。

本記事の情報は公開時点の医学的知見やガイドラインをもとにしていますが、今後の研究や法令改正により内容が変更となる場合があります。正確かつ最新の情報を得るために、公的機関(厚生労働省、日本高血圧学会など)や各医療機関の公式情報をあわせてご確認ください。

目次

高血圧があっても登山は可能だが、血圧の変化を正しく知ることが安全の前提になる

高血圧のある方が「山に登ってもよいか」と問われれば、多くの場合「普段から適切な治療を受けて血圧が良好に管理されており、病状が安定していれば可能」というのが医学的な答えです。

医学論文データベース(PMC)に掲載された観察研究では、医師によって参加可能と判断され、薬の服用などで血圧が160/95mmHg以下に安定している参加者が、中程度の標高(約2,000〜4,000m)でのハイキングを10日間続けたところ、心臓や血管に深刻な問題は起きなかったと報告されています。

ただし、この研究の参加者のうち高血圧の既往があったのは約9.5%にとどまるため、すべての高血圧の方にそのまま当てはまるとは限らない点には注意が必要です。

この「安全」という結論には前提があります。

登山中は、高い場所ならではの低い酸素濃度・冷たい気温・急な坂道による体への負担といった条件が重なり、血圧が変動しやすい状況が続きます。

こうした変化を知らないまま山に入ることは、たとえ普段の血圧が落ち着いていても、体への異変を見逃す原因になりかねません。

特に、血圧が高い状態が続いている方や、心臓・腎臓などに合併症のある方は、より慎重な判断が必要です。

この章では、登山中に血圧が変化する仕組みと、事前に医師の判断を仰ぐべきケースについて説明します。

登山中は血圧が上がりやすく、特に気温変化と急な運動強度が影響する

登山中に血圧が上がりやすい理由を理解するには、まず「なぜ山の中では平地より血圧に影響が出やすいのか」を知っておくことが大切です。

登山では、血圧を上げやすい条件がいくつも同時に重なります。

まず、体を動かすこと自体が心拍数を上げ、上の血圧(収縮期血圧)を一時的に高めます。

さらに標高が上がると、空気中の酸素の量が少なくなります。

体はその不足を補おうとして、自律神経の一つである交感神経を活発にします

この交感神経が働くことで、心拍数がさらに上がり、血圧も上昇しやすくなります。

医学論文データベース(PMC)に掲載された研究によれば、高い標高に急に移動した場合、酸素不足・呼吸の変化・血液中の二酸化炭素濃度の低下などが重なって、血圧が上がる主な原因になると報告されています。

加えて、山の中では気温が低くなりやすく、寒さによって血管が収縮します

血管が細くなると血液が通りにくくなるため、これも血圧を上げる方向に働きます。

朝と昼の気温差が大きい山の環境では、こうした変化が繰り返されることになります。

また、登山道には傾斜があり、荷物を背負いながら歩くため、平地でのウォーキングと比べて心臓や肺への負担がはるかに大きくなります

一般的な医学の知見として、運動の強さが上がるほど一時的な血圧の上昇も大きくなります

また、米国スポーツ医学会(ACSM)などの専門機関も、高血圧のある方が強度の高い運動を急に行うことはリスクになり得ると指摘しています。

登山中に血圧が上がりやすい主な原因
  • 運動による心拍数の上昇 → 上の血圧が一時的に高くなる
  • 高標高による酸素不足 → 交感神経が活発になり血圧が上がる
  • 寒冷による血管の収縮 → 血液が通りにくくなり血圧が上がる
  • 傾斜と荷物による高い負荷 → 心臓や肺への負担が平地より大きくなる

症状が安定していない人や持病がある人は、登山前に医師の判断が必要になる

高血圧があっても登山が可能な場合はありますが、すべての方に同じことが当てはまるわけではありません。

特に次のような状況にある方は、登山前に必ず主治医(かかりつけの医師)に相談することが求められます。

アメリカCDC(疾病対策予防センター)のトラベルズヘルス情報では、心臓病・慢性的な肺の病気・睡眠時無呼吸症候群などの持病がある方は、たとえ症状が落ち着いていても、高い場所への旅行前に高地医学に詳しい医師に相談するよう呼びかけています。

また、血圧が非常に不安定な方や、肺の血圧が著しく高い状態(重度の肺高血圧症)にある方は、高標高への移動自体を避けるべきケースもあります。

血圧が180/110mmHg以上の非常に高い状態にある方、急性の心不全、不安定な狭心症、最近(90日以内)心筋梗塞や脳卒中を起こした方については、運動プログラムを始める前にも医師による確認が必須です。

医学論文データベース(PMC)に掲載された研究でも、これらの状態は有酸素運動や筋力トレーニングを行ってはいけない条件として明確に挙げられています。

登山前に特に医師への相談が必要なケース
  • 血圧が180/110mmHg以上でコントロールが難しい状態にある
  • 急性の心不全、不安定な狭心症、最近(90日以内)の心筋梗塞や脳卒中など、心臓の病気がある、または最近起こした(状態が安定している場合も要注意)
  • 慢性的な肺の病気や睡眠時無呼吸症候群がある
  • 腎臓など、高血圧による合併症が進んでいる
  • 重度の肺高血圧症がある(高標高への移動自体を避けるべき場合あり)

登山前の準備を整えることが、当日のトラブル防止につながる

登山当日に安全に行動するためには、事前の準備が非常に重要です。

特に高血圧のある方は「当日の朝に急に決めて山へ行く」ことは避けるべきで、医師への相談と段階的な体力づくりを通じて準備を整えることが、当日のトラブルを大きく減らすことにつながります。

準備には大きく二つの柱があります。

一つ目は「医師への相談」です。

自分の血圧の状態と、目指す山の高さや難しさを照らし合わせ、登山しても問題ないかどうかを専門家に判断してもらうことが出発点になります。

二つ目は「体を慣らすためのトレーニング」です。

日ごろから少しずつ体を動かす習慣をつけることで、心臓や肺の機能が上がり、登山中に血圧が急に上がりにくい体に近づけることができます。

この二つを登山前にしっかりと整えておくことが、当日の安全な行動を支える土台になります。

事前に医師へ相談しておくことで、安全に登山できる条件が明確になる

登山を考えている方がまず取るべき行動は、主治医への相談です。

「登山をしたいのですが、私の血圧の状態で問題はないでしょうか」「どのくらいの高さや難しさの山なら安全ですか」「今飲んでいる薬を変える必要はありますか」といったことを、具体的に確認しておきましょう。

CDCは、持病のある方が高い場所への旅行を計画する場合、出発前に自分の病状を最良の状態に整えておくこと、そして万が一体調が悪化したときの対応をあらかじめ考えておくことを勧めています。

また、ESC(欧州心臓病学会)とESH(欧州高血圧学会)が共同で発表した提言では、中程度〜重度の高血圧のある方が高い場所に移動する際は、登山前後に血圧を測り、必要に応じて薬の量を調整することが推奨されています。

医師に相談する際は、実務的なポイントとして、目指す山の名前・標高・ルートの難しさ・予定日数をあらかじめ調べて伝えると、より具体的なアドバイスをもらいやすくなります。

医師に相談する際に伝えておくとよいこと
  • 目指す山の名前と標高
  • 登る予定のルートとその難易度
  • 日帰りか宿泊かの予定日数
  • 現在服用している降圧薬の種類と量
  • 直近の血圧の数値(記録があれば持参する)

日ごろからウォーキングで体を慣らしておくと、登山中の血圧急上昇を抑えやすくなる

医師から登山の許可を得た後は、体を登山に向けて少しずつ鍛えておくことが大切です。

急に長い距離や険しい山に挑むのではなく、日常的に体を動かす習慣を積み重ねることで、登山中に血圧が急に上がるリスクを抑えやすくなると考えられています。

AHAは高血圧のある方に対し、週150分以上の中程度の有酸素運動(少し息が上がる程度の速歩きなど)を推奨しており、運動の習慣が血圧を下げ、心臓や血管の病気になるリスクを長期的に下げる効果があると説明しています。

ACSM(米国スポーツ医学会)も、運動で血圧が下がることで、心臓や血管の病気全体のリスクを20〜30%程度下げられる可能性があると説明しています。

定期的な有酸素運動は、高血圧患者の血圧を5~7mmHg低下させ、この低下は心血管疾患のリスクを20~30%減少させることにつながる。

引用:American College of Sports Medicine (ACSM) Exercise for the Prevention and Treatment of Hypertension

具体的な実践例として、まず平地でのウォーキングを1日30分程度から始め、慣れてきたら坂道や階段を取り入れていくのがよいでしょう。

登山の1〜2か月前から週に数回のペースで続けることで、心肺の機能と足腰の筋持久力が高まり、当日のペースを保ちやすくなります。

ただし、一度に急激に運動の強さを上げると、かえって血圧が大きく上がる可能性があるため、「会話ができる程度」の強さを目安に、無理なく続けることが大切です。

登山に向けた段階的なトレーニングの目安(参考例)

時期取り組み内容目安の頻度・時間
登山の2か月前から平地でのウォーキング週3〜4回・1回30分程度
登山の1か月前から坂道・階段を取り入れたウォーキング週3〜4回・1回40〜60分程度
登山の2週間前から小さな丘や低山での軽いハイキング週1〜2回
全期間を通じて強さの目安は「会話ができる程度」を維持する急な強度アップは避ける

登山中はペースを落とし、こまめな休憩と水分補給が血圧管理の基本になる

登山当日は、事前の準備と同様に、行動中の過ごし方も大切です。

高血圧のある方は、そうでない方と比べて血圧が変動しやすい状態にあるため、歩くペース・休憩のタイミング・水分の補給をあらかじめ意識しておくことが安全につながります。

標高が上がれば上がるほど、血圧はさらに上がりやすくなるため、「山の途中から後半が特に注意が必要」と心得ておくとよいでしょう。

体の変化は自分では気づきにくいことも多く、疲労や頭痛・動悸(どうき)といったサインが出るころには、すでに血圧がかなり上がっているケースもあります。

そのため、「症状が出てから対応する」ではなく、「症状が出る前から意識的に行動を整える」ことが重要です。

この章では、登山中の血圧を安定させるための三つの基本習慣と、見逃してはいけない体のサインについて、具体的に説明します。

標高が上がるにつれて血圧は上昇しやすく、高山での行動は特に注意が必要になる

中程度の標高(約2,000〜4,000m)でのトレッキングを対象とした研究では、標高の高い環境にいる間、参加者全体で平均血圧の上昇が確認されました。

また同研究では、もともと肥満があったり、高血圧の診断を受けている参加者では、血圧の上がり方がより大きくなる傾向があることも報告されています。

さらに、ESC/ESHの共同声明(Parati et al., 2018)では、高血圧のある方は低酸素(酸素が少ない状態)に対する体の反応がもともと敏感になっている可能性があるため、高い場所での血圧変化がより大きくなりやすいと指摘されています。

高血圧患者は、低酸素状態による末梢および中枢化学受容反射の感受性が既に亢進していること30S,32S、およびカルシウム恒常性の変化33S,34Sにより、高地に対してより感受性が高い可能性がある。

引用:PubMed Central Clinical recommendations for high altitude exposure of individuals with pre-existing cardiovascular conditions

文献により基準に多少の幅はありますが、日本で多くの方が親しんでいる山域(標高1,500〜2,500m程度)は一般的に「中程度の標高」に分類されます。

この高さでも血圧の変動は生じますが、既存の観察研究では、安定した薬の治療のもとで血圧が160/95mmHg以下に保たれ、医師から参加可能と判断された集団であれば、中程度の標高でのハイキングで深刻な問題は起きなかったと報告されています。

ただし、この研究の参加者のうち高血圧の既往があったのは約9.5%にとどまるため、すべての高血圧の方にそのまま当てはまるとは限らない点には注意が必要です。

特に、3,000mを超える高山や、短時間で大きく標高を上げるルートでは注意が必要になります。

また、ESC(欧州心臓病学会)のガイドライン解説では、中等度から重度の高血圧の方などの場合、3,000m以上(場合によっては2,000m以上)の高さで高血圧が悪化する可能性があると指摘されており、こまめな血圧の確認と必要に応じた治療の調整が推奨されています。

標高と注意レベルの目安

標高の目安特徴高血圧の方への注意点
〜1,500m低山・里山血圧への影響は比較的小さい。ただし急な傾斜は注意
1,500〜2,500m日本の一般的な登山(中程度)血圧の変動が生じやすい。事前相談とペース管理が重要
2,500〜3,000m北アルプスなどの高山域ESCガイドラインで注意が必要とされる高さ
3,000m以上富士山・北アルプス上部など血圧悪化リスクが高まる。こまめな血圧測定と薬の調整を推奨

ゆっくりしたペース・定期的な休憩・水分補給の三つが血圧の急上昇を防ぐ

登山中の血圧を安定させるためには、次の三つを意識して行動することが基本になります。

まず、歩くペースについてです。

「隣の人と会話ができる程度のペース」を保つことを意識してください。

急な坂では特に無理をせず、一定の速さでゆっくり歩き続けることを優先しましょう。

AHAは高血圧のある方の運動について「強さを少しずつ上げていき、急に大きな負荷をかけないこと」「運動の前後にウォームアップとクールダウンを行うこと」が大切だと説明しています。

次に、休憩についてです。

こまめに休憩を取り入れるようにすると、上がった心拍数と血圧が落ち着く時間を確保しやすくなります。

休憩中は座ってゆっくり呼吸を整えてください。

そして、水分補給についてです。

登山中は汗や呼吸などで体の水分が失われやすく、脱水は血管への負担を高めるため適切な水分維持は重要です。

ただし、過剰に水分を飲めば高山病を防げるわけではないため、飲めば飲むほどよいわけではありません。

CDCは、水分を摂りすぎると低ナトリウム血症などで体内のバランスが崩れる危険もあるため、自分の発汗量に合わせて補うことが推奨しています。

喉の渇きだけに頼って軽度の脱水症状を防ぐことはできませんが、喉が渇いていない人に無理やり水を飲ませると、低ナトリウム血症のリスクが高まります。

引用:Centers for Disease Control and Prevention Heat and Cold Illness in Travelers

また、アルコールは高い標高では脱水を進めやすく、高山病のリスクも高めるため、山に到着してから最低48時間は控えることが推奨されています。

血圧のコントロールが難しい方や長期滞在となる場合は、小型の携帯用血圧計を持参して血圧を確認することが必要になることがあります。

登山中の血圧管理 三つの基本行動

行動具体的な目安注意点
ペースを落とす会話ができる程度の速さを維持する急坂では特に無理をしない。出発前後にウォームアップ・クールダウンを行う
休憩するこまめに休息をとる座って呼吸を整える。血圧コントロールが難しい場合は血圧を測定する
水分をしっかり補給する過剰摂取に気をつけ、個人の発汗量に合わせて補給するアルコールは到着後48時間は避ける。利尿薬服用中の方は特に意識する

頭痛・動悸・めまいが出たらすぐに休み、症状が続く場合は下山を判断する

登山中に体の変化を感じたときは、「少し休めば大丈夫だろう」と軽く考えずに、早めに対応することが大切です。

山での体調悪化は命に関わることがあるため、次のようなサインに注意してください。

高山病(高い場所に急に行ったときに起こる体調不良)の初期症状として、頭痛が最も多く見られ、疲労感・食欲の低下・吐き気・めまいなどを伴うことがあります。

これらの症状は標高の高い場所に到着してから2〜12時間以内に現れることが多く、最初の一夜明けに出てくるケースもあります

高血圧のある方では、こうした症状が血圧の急な上昇によって起きている可能性もあります。

頭痛や強い疲れなどの高山病を疑う症状や、動悸(心臓がどきどきする感じ)・視界がぼやけるといった高血圧の悪化や他の病気が疑われる症状が出た場合は、それ以上登らずにその場で立ち止まって休息を取り、症状が落ち着くかどうかを確認してください。

症状が改善しない、または悪化する場合は、できるだけ速やかに標高の低い場所へ下山することが最も確実な対処法です。

息苦しさ・意識がぼんやりする・まっすぐ歩けないといった重篤な症状が現れた場合は、迷わず登山を中止し、救援を求めてください。

「もう少し様子を見れば回復するかもしれない」という判断は、山の中では特に危険です。

異変を感じたら早めに行動することが、深刻な事態を防ぐための最善の選択です。

症状の重さ別 対応の目安

症状の程度主な症状の例対応
軽い異変軽い頭痛・少しの疲労感・食欲低下その場で休憩し、症状が落ち着くか様子を見る。それ以上の標高上昇は控える
中程度の異変動悸・めまい・吐き気・視界のかすみそれ以上登らずに休息する。改善しない・悪化する場合は下山する
重い異変息苦しさ・意識がぼんやりする・まっすぐ歩けない直ちに登山を中止し、下山する。必要に応じて救援を要請する

降圧薬を飲んでいる人は、薬の種類に応じた対策を登山前に確認しておく必要がある

高血圧の治療で薬を飲んでいる方は、登山前に「自分が飲んでいる薬の種類が、運動中や高い場所ではどのような影響を与えるか」を理解しておくことが大切です。

降圧薬は血圧を下げるための薬ですが、薬の種類によっては、運動中の体の反応が変わることがあります。

たとえば、心拍数を抑える薬(β遮断薬)は、体への負担を感じにくくさせることがあります。

一方、体の水分を排出して血圧を下げる薬(利尿薬)は、登山中の汗と重なって脱水が起きやすくなる可能性があります。

また、高い標高という特殊な環境では、平地とは薬の効き方が変わることも報告されています。

こうした薬ごとの特性をあらかじめ知っておくことで、山の中での異変に早く気づき、適切に対応できるようになります。

この章では、主な降圧薬の種類ごとの注意点と、登山中の薬の持ち方・飲み方の管理について説明します。

薬の種類によっては、運動中に血圧が下がりすぎたり、疲労感が増したりすることがある

現在、高血圧の治療に使われている主な薬には、ARB(アンジオテンシンII受容体拮抗薬)・ACE阻害薬・カルシウム拮抗薬・利尿薬・β遮断薬などがあります。

これらはいずれも、安静時だけでなく、運動中の血圧の上がり方も抑える方向に働きます。

ただし、種類によって運動中の体への影響や、注意すべき点が違います。

PubMedに掲載されたレビュー論文によると、すべての降圧薬は安静時・運動中ともに血圧を下げますが、薬の種類によって運動能力への影響は異なります。

ACE阻害薬やカルシウム拮抗薬などは、運動への悪影響が比較的少ない傾向にあるとされています。

一方、β遮断薬は心拍数の上昇を抑えるため、最大運動能力や有酸素能力を落とすことがありますが、薬の種類によって影響の大きさには差があります。

一部のβ遮断薬を飲んでいる方は、心拍数が通常より上がりにくくなるため、体への負担を自覚しにくくなることがあります。

「思ったほど疲れていない」と感じていても、実際には体にかなりの負荷がかかっている場合があるため、主観的な感覚だけで判断しないことが大切です。

さらに、医学論文データベース(PMC)に掲載された研究では、β遮断薬を使用している方が高い標高に行った場合、酸素が少ない環境に対して肺の血管の抵抗が増加し、肺の血管が過剰に収縮しやすくなる可能性が示唆されており、β遮断薬を使用している登山者の管理に関わる可能性があると指摘されています。

β遮断薬を心血管疾患の予防または治療に使用している登山者の管理において、β遮断薬がHPVを増大させるという今回の知見が持つ潜在的な意義を、今後の研究で確認できる可能性がある。

引用:PubMed Beta-adrenergic blockade increases pulmonary vascular resistance and causes exaggerated hypoxic pulmonary vasoconstriction at high altitude: a physiological study

利尿薬を飲んでいる方は、もともと体の水分を排出する作用があるため、登山中の発汗によってさらに水分が失われやすくなります。

こまめな水分補給が、より一層重要になります。

また、EAPC(欧州予防心臓病学会)の公式見解によると、カルシウム拮抗薬やARB・ACE阻害薬といった薬は、運動する方やアスリートの間で好まれやすい(第一選択寄りになる)とされています。

ただし、一般的な高血圧治療では患者の状態によって他の薬も標準的に使われるため、すべての人に最も推奨されるわけではありません。

一方、β遮断薬は心臓の収縮力や心拍数を下げる作用があるため、運動との相性が悪いとされています。

主な降圧薬の種類と登山・運動時の注意点

薬の種類主な働き登山・運動時の注意点
ARB・ACE阻害薬血管を広げて血圧を下げる運動への影響が比較的少なく、運動する方に好まれやすい薬とされている
カルシウム拮抗薬血管の収縮を抑えて血圧を下げる運動への影響が比較的少ない。運動する方に好まれやすい薬のひとつ
β遮断薬心拍数を抑えて血圧を下げる薬の種類によって差はあるが、体への負担を感じにくくなることがある。高標高では肺血管への影響も報告されており、登山前に医師に相談を
利尿薬体の水分を排出して血圧を下げる登山中の発汗と重なり脱水になりやすい。水分補給を特に意識する

薬は必ず携帯し、服用タイミングや保管方法も事前に整えておく

登山中の薬の管理についても、出発前に確認しておきましょう。

服用タイミングについては、普段から飲んでいる降圧薬は登山前日から当日にかけても継続して飲むことが基本です。

ただし、血圧が非常に高い場合や不安定な場合は個別の調整が必要となるため、具体的なスケジュールは主治医に確認してください。

米国心臓協会(AHA)の学会誌に掲載された欧州のガイドライン解説でも、薬を飲み忘れないようにするために「自分が続けやすい時間帯に飲む」ことが重要とされています。

薬の保管については、山の中での気温低下や湿気から守るための工夫として、防水・保温ができるケースに入れて持ち歩くと安心です。

また、予定より山に長くいることになった場合に備えて、必要な日数よりやや多めに持参しておくと安心です。

高い場所では、個人によって血圧の反応に大きな差が出ることがあります。

医学論文データベース(PubMed)に掲載された研究では、軽度〜中等度の高血圧の方が高い標高に移動した場合、血圧はある程度上がる可能性があるものの、それだけで合併症リスクが高まるという明確な証拠はないとされています。

入手可能な証拠は、軽度から中等度の高血圧患者が急激に高地に上昇すると血圧がわずかに上昇することを示唆しているが、これらの血圧上昇による合併症のリスク増加の明確な証拠はない。

引用:PubMed Should travelers with hypertension adjust their medications when traveling to high altitude? 

ただし、データが限られており「証拠がない=完全に安全」と証明されたわけではない点には注意が必要です。

血圧が不安定な方やコントロールが難しい方は、高標高への移動の際に血圧をこまめに確認し、大きな変動や症状が出た場合に備えて、医師とあらかじめ薬の調整計画を話し合っておくべきとされています。

基本的には、血圧が安定していれば高地に行く前に予防的に薬を増やしたり変更したりする必要はありません。

しかし、血圧が180/110mmHgを超えるような高い状態が続く場合は治療の強化が検討されるため、自分が飲んでいる薬の種類や量を主治医と改めて確認し、調整が必要か相談しておくことが大切です。

登山時の薬の管理 チェックリスト
  • 服用タイミングを主治医と事前に確認しているか
  • 必要日数より多めに薬を持参しているか
  • 防水・保温ができるケースに入れて携帯していると安心
  • 血圧が大きく変動した場合の対応を主治医と話し合っているか
  • (血圧コントロールが難しい場合など)携帯用血圧計を持参しているか

よくある質問

血圧が高めだと登山は禁止ですか?

血圧が高めでも、適切な治療を受けて血圧が良好に管理され、病状が安定していれば登山が可能な場合があります。

ただし、血圧が180/110mmHg以上の非常に高い状態や、心臓・腎臓などへの影響が出ている場合は、登山前に必ず主治医に相談してください

「登山できるかどうか」の判断は、血圧の数値だけでなく、体全体の状態と目指す山の高さ・難しさを合わせて考える必要があります。

登山中に血圧計は必要ですか?

全員に必須ではありませんが、血圧のコントロールが難しい方や長期滞在になる方などは、小型の携帯用血圧計を持参して血圧を確認することが必要になる場合があります

数値が高い場合には早めに対処する判断材料になります。

持参すべきかどうかは、事前に主治医に確認しておくと安心です。

降圧薬を飲んでいると、登山中に血圧が下がりすぎることはありますか?

薬の種類によっては、運動中に血圧が下がりすぎる可能性が否定できません。

特にβ遮断薬は運動中の心拍数の上がり方を抑えるため、体への負担を感じにくくなることがあります。

また、利尿薬は脱水を起こしやすくするため、水分補給が特に重要になります。

自分が飲んでいる薬の種類や量については、登山前に主治医に確認しておくことをお勧めします。

高山病と高血圧の症状は似ていますか?

頭痛・めまい・倦怠感・吐き気などは、高山病でも血圧の急な上昇でも共通して現れる症状です。

山の中ではどちらが原因かを自分で判断することは難しいため、これらの症状が出た場合は原因に関係なく、まずその場で休息を取り、改善しない・悪化する場合は下山を検討してください。

まとめ

高血圧があっても、血圧がある程度落ち着いていれば登山を楽しめる可能性は十分あります。

ただし、登山は標高の変化・低酸素・気温の低下・体への高い負担が重なる環境であるため、正しい準備と知識なしに臨むことは避けるべきです。

登山前には必ず主治医に相談し、自分の血圧の状態と目指す山の難しさを照らし合わせて確認を取ることが第一歩です。

日ごろからウォーキングなどの有酸素運動で体を慣らしておくことも、当日の安全につながります。

当日は、ゆっくりとしたペースを保ち、定期的な休憩・こまめな水分補給を徹底することが基本です。

頭痛・動悸・めまいなど気になる症状が出たら早めに休息を取り、改善しない場合は下山を判断してください。

降圧薬を服用中の方は、薬の種類ごとの特性を事前に把握し、登山中の薬の携帯・服用管理も忘れずに行いましょう。

登山は、準備と知識があれば高血圧のある方にとっても健康的で充実した活動になり得ます。

ご自身の体の状態を正確に把握した上で、安全に山の魅力を楽しんでいただければと思います。

参考文献・参考サイト

PubMed Central Blood Pressure Changes While Hiking at Moderate Altitudes: A Prospective Cohort Study

PubMed Central Clinical Implications for Exercise at Altitude Among Individuals With Cardiovascular Disease: A Scientific Statement From the American Heart Association

PubMed Central Control of blood pressure in the cold: differentiation of skin and skeletal muscle vascular resistance

PubMed Central Exercise-Induced Blood Pressure Dynamics: Insights from the General Population and the Athletic Cohort 

American College of Sports Medicine (ACSM) Exercise for the Prevention and Treatment of Hypertension

Centers for Disease Control and Prevention High-Altitude Travel & Altitude Illness

PubMed Central Evidence for exercise training in the management of hypertension in adults

PubMed Central Clinical recommendations for high altitude exposure of individuals with pre-existing cardiovascular conditions

American Heart Association (AHA) Getting Active to Control High Blood Pressure

PubMed Central What’s new in the ESC 2018 guidelines for arterial hypertension: The ten most important messages

Centers for Disease Control and Prevention Heat and Cold Illness in Travelers

SAGE Journals Wilderness Medical Society Clinical Practice Guidelines for the Prevention and Treatment of Acute Altitude Illness: 2019 Update

PubMed The effect of antihypertensive medications on exercise performance: a review

PubMed Beta-adrenergic blockade increases pulmonary vascular resistance and causes exaggerated hypoxic pulmonary vasoconstriction at high altitude: a physiological study

American College of Cardiology (ACC) Competitive Sports Participation of Athletes With Arterial Hypertension

American Heart Association Journals What Is New in the ESC Hypertension Guideline?

PubMed Should travelers with hypertension adjust their medications when traveling to high altitude?

この記事を書いた人

伊藤 信久のアバター 伊藤 信久 医師・グレースメディカルクリニック院長

福岡県出身。鹿児島大学医学部卒業後、大学病院の心臓外科に勤務。冠動脈バイパス術・弁置換術などの高度な心臓手術を多数担当。
その後、恩師が開業したクリニックで一次診療に従事。地域医療の最前線で多くの患者と向き合う中で「患者さんに最も近い距離で診療すること」の重要性を再認識し、開業医として地域医療に貢献することを決意。2014年に熊本市でグレースメディカルクリニックを開設した。現在は院長として、高血圧をはじめとする循環器・生活習慣病の診療に注力。心臓外科で培った循環器の知見を活かし、「血圧から全身を守る医療」をモットーに地域の健康づくりと啓発活動を続けている。

主な資格・所属学会
・日本外科学会
・日本循環器学会
・点滴療法研究会

地域の“かかりつけ医”として、高血圧を中心とした生活習慣病の早期発見と予防、継続的な血圧管理に力を注ぎ、患者一人ひとりの「より良い血圧コントロールと健康」の実現を目指している。

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