「糖尿病と診断されたけれど、最近血圧も高いと言われた」「高血圧で通院中だが、血糖値も気になる」こうした悩みを抱えている方は少なくありません。
実は、糖尿病と高血圧は互いに深く関係しており、両方を併発する人が非常に多いのです。
糖尿病の方のうち、およそ半数から8割が高血圧も抱えているという調査結果があります。
これは決して偶然ではありません。
肥満、運動不足、食べすぎといった生活習慣が、糖尿病と高血圧の両方を引き起こす原因となっているのです。
さらに注意が必要なのは、両方を同時に抱えることで、心筋梗塞や脳卒中、腎不全といった命に関わる病気のリスクが大きく高まることです。
- 糖尿病患者の約50〜80%が高血圧も併発している
- 高血糖による血管硬化・インスリン抵抗性・腎機能低下が血圧上昇の原因
- 両疾患の併発で心筋梗塞・脳卒中・腎不全リスクが糖尿病患者よりも高まる
- 肥満・塩分過多・運動不足・慢性炎症などの生活習慣が両疾患の共通原因
糖尿病や高血圧のない人と比べて、心臓や血管の病気になるリスクが大幅に高まるという報告があります。
しかし、心配しすぎる必要はありません。
毎日の生活習慣を見直し、必要に応じて病院と連携することで、これらのリスクを大きく減らすことができます。
特に嬉しいのは、食事や運動などの改善が、血糖値と血圧の両方に同時に良い影響を与えるという点です。
一つの努力が二つの病気の改善につながります。
この記事では、糖尿病と高血圧がどのように関わっているのか、両方を抱えるとどんな危険があるのか、そして日常生活でできる予防・改善の方法について、わかりやすく解説します。
専門的な知識がなくても理解できるよう、できるだけ平易な言葉で説明していきます。
- 糖尿病と高血圧がなぜ一緒に起こりやすいのか
- 糖尿病が血圧を上げる仕組み
- 両方を併発すると心臓や血管にどんな影響があるのか
- 食事・運動・生活習慣で改善できる具体的な方法
- 薬による治療が必要になった場合の注意点
糖尿病と高血圧の管理は長く続く取り組みですが、正しい知識を持つことで、より効果的に、そして前向きに向き合うことができます。
まずは、なぜこの二つの病気が深く関わり合っているのかを理解することから始めましょう。
はじめに(免責・注意事項)
本記事は、高血圧に関する一般的な医学情報の提供を目的として作成されたものであり、特定の診断・治療を推奨するものではありません。
血圧の状態や治療方針は、年齢・体質・基礎疾患・服薬状況などにより個人差があります。降圧薬を含む医薬品の使用や生活習慣の改善を検討される場合は、必ず医師などの医療専門職にご相談のうえ、十分な説明を受けてからご自身の判断で行ってください。
また、本記事で紹介する内容の一部は、一般診療のほか自由診療に該当する可能性があります。保険適用の有無や費用、効果、副作用などについては、必ず受診先の医療機関で最新の情報をご確認ください。
本記事の情報は公開時点の医学的知見やガイドラインをもとにしていますが、今後の研究や法令改正により内容が変更となる場合があります。正確かつ最新の情報を得るために、公的機関(厚生労働省、日本高血圧学会など)や各医療機関の公式情報をあわせてご確認ください。
糖尿病の人は高血圧にもなりやすい
糖尿病と高血圧は、たまたま一緒に起こるわけではありません。
糖尿病の方は血圧が高くなりやすく、逆に高血圧の方も将来糖尿病になりやすいことがわかっています。
この二つの病気が密接に関わっている理由は、共通する原因が多いからです。
一方の病気が、もう一方の病気を引き起こし、さらにお互いを悪化させるという悪循環に陥りやすいのです。
実際、糖尿病の方における高血圧の割合は、糖尿病でない方の約2倍にのぼります。
つまり、糖尿病と診断された場合、血圧にも注意を払う必要があるということです。
また、高血圧の方も血糖値の変化に気をつけることが大切です。
ここでは、糖尿病と高血圧がどのくらいの頻度で一緒に起こるのか、そしてなぜこれほど強い関連があるのかについて見ていきましょう。
糖尿病患者の約半数が高血圧を併発している
アメリカの大規模な健康調査によると、18歳以上の糖尿病の方のうち、約74%が高血圧も抱えていることがわかりました。
特に2型糖尿病(生活習慣が関係する糖尿病)の方では、半数から8割の人が高血圧も持っているとされています。
現時点では、2 型糖尿病患者の 50%~80% に高血圧が見られ、糖尿病人口の 90% 以上を占めるのに対し、1 型糖尿病患者で高血圧を発症する約 30% です。
引用:American Heart Association Journals Hypertension in Diabetes: An Update of Basic Mechanisms and Clinical Disease
この数字は、糖尿病でない人の高血圧の割合(約30%)と比べると、2倍以上も高い値です。
つまり、糖尿病になると、血圧も高くなりやすいということです。
高血圧の人も将来糖尿病になるリスクが高い
この関係は一方通行ではありません。
高血圧の方も、将来糖尿病になりやすいことがわかっています。
長期間の追跡調査によると、高血圧と糖尿病の両方を持っている方は、どちらか一方だけの方と比べて、様々な病気で亡くなるリスクが高いことが示されています。
高血圧と2型糖尿病の併発は、高血圧も2型糖尿病もないのに比べて、全死因死亡リスク(ハザード比2.46 [95%信頼区間2.45, 2.47])および心血管疾患死亡リスク(2.97 [2.94, 3.00])が高くなると予測され、女性の方が男性よりも強い関連を示しました(交互作用のP値<0.01)。
引用:Diabetes Care Associations of Concurrent Hypertension and Type 2 Diabetes With Mortality Outcomes: A Prospective Study of U.S. Adults
また、高血圧の方のかなりの割合(しばしば約半数)は、血糖値を下げるホルモン(インスリン)が効きにくい状態になっており、これが将来の糖尿病につながっていると考えられています。
肥満や食生活など共通する原因がある
糖尿病と高血圧がこれほど深く関わっている理由は、両者に共通する原因が多いからです。
- 肥満: 体重が増えると、体の中で炎症が起こりやすくなり、血糖値を下げるホルモンの働きが悪くなります。同時に、血管が縮みやすくなって血圧も上がります。
- 塩分の取りすぎ: 直接的に血圧を上げる原因となります。
- 糖質・脂質の過剰摂取: 血糖値の上昇と体重増加につながります。
- 運動不足: 両方の病気を起こしやすくする共通の原因です。
- 慢性的な炎症: 体の中で長く続く炎症状態が、両方の病気の発症に関わっています。
- 酸化ストレス: 体の細胞が傷つきやすい状態が続くことも、両方に影響します。
このように、糖尿病と高血圧は同じ生活習慣から生まれ、お互いに影響し合いながら進んでいく関係にあるのです。
糖尿病が血圧を上げてしまう3つのメカニズム
糖尿病になると、体の中で様々な変化が起こり、それが血圧を高くしてしまいます。
ここでは、糖尿病が高血圧を引き起こす主な3つの仕組みについて、できるだけわかりやすく説明します。
大切なのは、これらの変化の多くが、血糖値をきちんと管理することで改善できる可能性があるということです。
つまり、糖尿病をしっかりコントロールすることが、そのまま高血圧の予防や改善にもつながるのです。
- 血管が硬くなる: 高い血糖値が血管の壁を傷つけ、柔軟性を失わせます。
- インスリンが効きにくくなる: 過剰なインスリンが塩分を溜め込み、血圧を上げます。
- 腎臓の働きが悪くなる: 血圧を調整する腎臓の機能が低下します。
血管の変化、ホルモンのバランスの乱れ、そして臓器の働きの低下という三つの大きな原因が、複雑に絡み合って血圧を押し上げています。
それぞれについて、順番に見ていきましょう。
血糖値が高いと血管が硬くなり血圧が上がる
血液中の糖分が長い間高い状態が続くと、血管が傷んで硬くなってしまいます。
これは、糖分が血管の壁にくっついて起こる変化です。
健康な血管は、ゴムホースのように柔軟性があります。
心臓が血液を送り出すときには広がり、その後は元に戻ります。
しかし、糖分によって血管が硬くなると、この柔軟性が失われます。
硬くなった血管に血液を流すには、より強い圧力が必要になります。
これが血圧上昇の原因の一つです。
ヒトまたは糖尿病の動物モデルにおける高血糖は、主に血管組織におけるミトコンドリア活動の障害と関連しており、ミトコンドリアDNA内の変異、ROS産生、アポトーシス、および内皮機能不全を引き起こす[ 43-45 ]。
引用:PubMed Central Endothelial Dysfunction and Diabetes: Effects on Angiogenesis, Vascular Remodeling, and Wound Healing
また、高い血糖値は、血管の内側を覆っている細胞にもダメージを与えます。
この細胞は、血管を広げる物質を作り出していますが、傷つくとその働きが弱くなります。
すると血管が縮みやすくなり、血圧が上がるのです。
わかりやすく例えると、新品のゴムホースは柔らかくて水を通しやすいですが、古くなって硬くなると、同じ量の水を流すのにより強い圧力が必要になるのと似ています。
インスリンの働きが悪くなると血圧も上昇する
2型糖尿病で特に問題となるのが、血糖値を下げるホルモン(インスリン)が効きにくくなることです。
体は血糖値を下げようとして、いつもより多くのインスリンを出すようになります。
このインスリンが過剰になった状態が、実は血圧を上げる方向に働いてしまうのです。
具体的には、インスリンが多すぎると、腎臓が塩分を体の外に出さずに溜め込むようになります。
塩分が増えると、体の中の水分も増えて、血液の量が増えます。
インスリン抵抗性では、インスリン誘導性血管拡張が阻害される。しかし、ネフロンの様々な部分を通じたインスリン誘導性ナトリウム再吸収は維持または促進されると考えられる。
引用:PubMed Central Insulin Resistance, Obesity, Hypertension, and Renal Sodium Transport
血液の量が増えれば、それを流すための圧力、つまり血圧も上がります。
さらに、インスリンが多い状態は、心臓の動きを速くしたり、血管を縮めたりする神経の働きを強めてしまいます。
これも血圧を上げる原因になります。
興味深いのは、本来インスリンには血管を広げる作用もあるのですが、この良い働きだけが失われてしまい、血圧を上げる働きは残ってしまうという点です。
糖尿病で腎臓が悪くなると血圧が下がりにくくなる
糖尿病の合併症の一つに、腎臓の病気があります。
高い血糖値が続くと、腎臓の細かい血管が傷つき、腎臓の働きが徐々に悪くなっていきます。
腎臓は、体の中の余分な塩分や水分を尿として外に出す大切な役割を持っています。
血圧が高いときには、塩分と水分を多く出して血圧を下げようとします。
しかし、腎臓の働きが悪くなると、この調整がうまくできなくなります。
腎臓が弱ると、塩分と水分が体に溜まりやすくなり、血液の量が増えて血圧が上がります。
さらに、腎臓は血圧を調整する様々なホルモンを作っていますが、腎臓が傷つくとこのホルモンのバランスが崩れて、血圧をさらに上げてしまいます。
実際の調査では、糖尿病の初期段階で腎臓に異常が出始めると、その後高血圧を発症する人が多く、腎臓の状態が悪くなるほど高血圧の人の割合も増えることがわかっています。
腎臓が完全に機能しなくなる段階では、約90%の方が高血圧を抱えているという報告もあります。
糖尿病性腎症における高血圧の有病率はCKDの各ステージで増加し、ESRD患者では90%に近づく(14)。
引用:PubMed Central Hypertension in Diabetic Nephropathy: Epidemiology, Mechanisms, and Management
このように、糖尿病、高血圧、腎臓病は互いに悪影響を及ぼし合い、一つが悪くなると他も悪化していくという悪循環の関係にあります。
両方あると心臓病や脳卒中のリスクが大幅に上がる
糖尿病だけ、あるいは高血圧だけを持っている場合でも、心臓や血管の病気になるリスクは高まります。
しかし、両方を同時に抱えている場合、そのリスクは単純に2倍になるのではなく、もっと大きく跳ね上がることがわかっています。
心臓や血管の病気は、糖尿病の方が亡くなる原因の第一位です。
そこに高血圧が加わることで、血管への負担は大きく増え、心筋梗塞、脳卒中、腎不全といった重い病気が起こりやすくなります。
しかし、見方を変えれば、血糖値と血圧の両方をきちんと管理することで、これらの危険を大幅に減らせるということでもあります。
実際、血圧を10 mmHg下げるだけで、脳卒中になるリスクが約3割減るという研究結果があります。
ここでは、糖尿病と高血圧を同時に持つことで、どのような病気の危険が高まるのか、そしてそれがどの程度の影響を持つのかについて、具体的に見ていきましょう。
心筋梗塞や狭心症になる危険性が2〜4倍になる
2型糖尿病の方は、糖尿病や高血圧のない人と比べて心筋梗塞などの心臓の病気になるリスクが2〜4倍高いことがわかっています。
アメリカ心臓協会も、糖尿病を持つ人は心臓や血管の病気を発症しやすく、またそれによって亡くなる可能性が高いと指摘しています。
糖尿病と高血圧の両方がある場合、心臓や血管の病気のリスクはさらに高くなります。
その理由は、糖尿病も高血圧も、どちらも「動脈硬化」という状態を進めてしまうからです。
動脈硬化とは、血管の壁にコレステロールなどがたまって、血管が狭くなったり硬くなったりすることです。
心臓に栄養を送る血管でこれが起こると、心筋梗塞や狭心症といった深刻な心臓の病気につながります。
高い血糖値は血管を傷つけ、炎症を起こします。
高い血圧は血管の壁に常に強い圧力をかけ続けます。
この二つが同時にあることで、血管の老化が速く進み、若い年齢でも重い心臓の病気が起こりやすくなるのです。
腎臓の機能が低下して透析が必要になることも
糖尿病による腎臓の病気は、アメリカで人工透析が必要になる最も多い原因です。
そして、高血圧があると、この腎臓の病気がさらに悪化しやすくなります。
糖尿病の方のうち、約30〜40%の人が腎臓の病気を発症し、管理が不十分な場合には、一部の方で透析や腎移植が必要な状態まで進行することがあります。
高血圧を同時に持っていると、この進行速度がさらに速まります。
腎臓は、血液をきれいにして老廃物を尿として外に出す大切な役割を持っています。
無数の細かい血管が集まってできている臓器です。
高い血糖値と高い血圧は、どちらもこの繊細な血管を傷つけます。
初期段階では、尿に少しだけタンパク質が混じる程度ですが、進行すると腎臓が血液をきれいにする力そのものが失われていきます。
最終的には、人工透析という機械で血液をきれいにする治療が必要になってしまいます。
イギリスで行われた大規模な研究では、血圧をしっかり管理することで、糖尿病に関連する死亡を32%、脳卒中を44%、小血管合併症を37%減らせたことが示されています。
厳格な血圧管理群では、緩い血圧管理群と比較して、糖尿病関連エンドポイントで24%(95%信頼区間8%~38%)(P=0.0046)、糖尿病関連死亡で32%(6%~51%)(P=0.019)、脳卒中で44%(11%~65%)(P=0.013)、微小血管エンドポイントで37%(11%~56%)(P=0.0092)のリスク低下が認められ、これは主に網膜光凝固のリスク低下によるものであった。
引用:PubMed Central Tight blood pressure control and risk of macrovascular and microvascular complications in type 2 diabetes: UKPDS 38
これは、血圧を適切にコントロールすることで、腎臓の病気を含む合併症の進行を遅らせることができることを示しています。
脳卒中や認知症のリスクも高まる
糖尿病の方は、糖尿病でない人と比べて、脳卒中になるリスクが1.5〜2倍高いとされています。
さらに、糖尿病の期間が長いほど脳卒中のリスクは上がり、糖尿病歴が10年以上になると、リスクが3倍になるという研究もあります。
糖尿病と高血圧による主な合併症リスク
| 合併症 | リスクの増加 |
|---|---|
| 心筋梗塞・狭心症 | 2〜4倍 |
| 脳卒中 | 1.5〜2倍(糖尿病10年以上で3倍) |
| 腎不全(透析) | 糖尿病患者の30〜40%が発症 |
| 認知症 | 特に血管性認知症のリスクが高い |
高血圧は、脳卒中の最も大きな原因の一つです。
血圧が高い状態が続くと、脳の血管にも常に強い圧力がかかり続け、血管が破れて脳出血を起こしたり、血管が詰まって脳梗塞を起こしたりしやすくなります。
イギリスの研究では、血圧をしっかり管理した人たち(平均血圧144/82)は、管理があまかった人たち(平均血圧154/87)と比べて、脳卒中のリスクが44%も減ったことが示されています。
UKPDS 12では、厳格な血圧コントロール(平均血圧 144/82 mmHg 達成)により、それほど積極的ではないコントロール(平均血圧 154/87 mmHg 達成)と比較して RR が 44% 低下しました。
引用:PubMed Central Stroke in Patients With Diabetes and Hypertension
わずか10の血圧の差が、これほど大きな違いを生むのです。
また、糖尿病と高血圧は、脳卒中だけでなく認知症のリスクも高めます。
脳の小さな血管が傷つくことで起こる認知症は、糖尿病と高血圧の両方を持つ人に特に多く見られます。
このように、糖尿病と高血圧を同時に持つことは、数字の問題だけでなく、命に関わる重大な病気の危険を大きく高める深刻な状態なのです。
食事・運動・生活習慣の改善で両方とも良くなる
糖尿病と高血圧の治療というと、薬を思い浮かべる方が多いかもしれません。
しかし、実は毎日の生活習慣を変えることが、薬と同じくらい、あるいはそれ以上の効果をもたらすことが研究で証明されています。
しかも、一つの生活習慣の改善が、血糖値と血圧の両方に良い影響を与えるという大きな利点があります。
生活習慣の改善の最大の良さは、病気の根本的な原因に働きかけることができる点です。
薬は症状をコントロールする効果的な方法ですが、生活習慣の改善は、糖尿病と高血圧を引き起こしている体質そのものを変えていく可能性を持っています。
また、生活習慣の改善には副作用がありません。
それどころか、体重が減る、コレステロール値が良くなる、心臓が元気になる、ストレスが減るなど、血糖値と血圧以外にも様々な良いことがあります。
- 血糖値と血圧の両方が改善する
- 体重が減少する
- コレステロール値が良くなる
- 心臓の機能が向上する
- ストレスが軽減される
- 副作用がない
ここでは、特に効果的とされる生活習慣の改善について、科学的な根拠とともに具体的な実践方法を紹介します。
どれも特別な道具や施設を必要とせず、日常生活の中で取り組めるものばかりです。
減塩と糖質コントロールが血糖値と血圧の両方に効く
「DASH食」と呼ばれる食事法は、野菜や果物をたっぷり食べ、低脂肪の乳製品を取り入れ、脂っこいものを控えるという特徴があります。
アメリカの研究機関が行った大規模な調査では、この食事法により血圧が下がることが示されました。
さらに重要なのは、この食事法が糖尿病の方にも効果があることです。
DASH食などの質の良い食事パターンは、糖尿病のリスク低下や、体重、心拍数、炎症の状態、コレステロール値の改善と関連することが報告されています。
つまり、血圧だけでなく血糖値のコントロールにも役立つのです。
1日の塩分摂取量の目安
| 対象 | 推奨量 |
|---|---|
| 一般の方 | 男性7.5 g未満・女性6.5 g未満 |
| 高血圧・糖尿病の方 | 6 g未満 |
| 日本人の平均 | 約10 g(要改善) |
塩分が多いと、体に水分が溜まって血液の量が増え、血圧が上がります。
特に糖尿病の方では、塩分が血圧を上げる作用が強く現れることがわかっています。
加工食品やインスタント食品、外食には予想以上に多くの塩分が含まれていることが多いため、できるだけ素材から調理した食事を心がけることが大切です。
糖質(炭水化物)に関しては、白米や白パン、砂糖などを控えめにし、玄米や全粒粉パン、野菜などの食物繊維が多い食品を選ぶことがおすすめです。
食物繊維は血糖値の急な上昇を抑え、お腹がいっぱいになりやすいので、体重管理にも役立ちます。
生活習慣病予防の観点から、1日少なくとも25g以上の食物繊維を取ることが望ましいとされています。
おすすめの食品と控えたい食品
| 積極的に取りたい | 控えたい |
|---|---|
| 野菜・果物 | 加工食品・インスタント食品 |
| 玄米・全粒粉パン | 白米・白パン |
| 低脂肪の乳製品 | 脂っこい食べ物 |
| 食物繊維の多い食品 | 砂糖の多い飲み物・お菓子 |
ウォーキングなど軽い運動が効果的
運動は、血糖値と血圧の両方を改善する強力な方法です。
フィンランドで行われた研究では、1日30分以上の運動を続けた人たちは、4年間で糖尿病になるリスクが58%も減りました。
運動が血糖値を下げる仕組みは明快です。
筋肉が動くと、血糖値を下げるホルモン(インスリン)の助けがなくても、血液中の糖分を取り込んで使うため、血糖値が下がります。
さらに、定期的な運動で筋肉が増えると、インスリンの効きが良くなり、長期的な血糖値のコントロールも改善します。
血圧への効果も大きいです。
研究では、有酸素運動により血圧が平均5〜7mmHg下がることが示されています。
運動によって血管が広がりやすくなり、血管が柔らかくなることが、血圧が下がる主な理由と考えられています。
推奨される運動プログラム
| 項目 | 目安 |
|---|---|
| 運動の種類 | ウォーキング、軽いジョギング、水泳、自転車こぎ |
| 頻度 | 週5日 |
| 1回の時間 | 30分以上 |
| 週の合計時間 | 150分 |
| 運動の強さ | 会話はできるが歌うのは難しい程度 |
大切なのは、いきなり激しい運動を始めるのではなく、自分の体力に合わせて少しずつ運動量を増やしていくことです。
特に、これまで運動をしていなかった方や、心臓や関節に不安がある方は、運動を始める前に主治医に相談することをお勧めします。
体重を5%減らすだけでも改善が期待できる
肥満は糖尿病と高血圧の両方にとって最も大きな改善できる原因です。
良いお知らせは、大幅に痩せなくても、わずか5〜10%の体重減少で大きな健康効果が得られることです。
例えば、体重が70 kgの人なら、3.5〜7 kg痩せるだけで十分な効果が期待できます。
アメリカで行われた研究(DPP)では、生活習慣を改善したグループが平均5.6 kgの体重減少を達成し、糖尿病になるリスクが58%減りました。
体重減少による改善効果
| 体重の減少量 | 期待できる効果 |
|---|---|
| 5〜10%減少 | 血糖値改善、インスリンの効き改善 |
| 1 kg減少ごと | 血圧が数mmHg低下 |
| 例:70 kgの人が5〜7 kg減 | 糖尿病リスク58%減少 |
体重が減ると、血糖値を下げるホルモンの効きが良くなり、血糖値が下がります。
同時に、心臓への負担が軽くなり、血管の状態も良くなるため、血圧も下がります。
研究では、体重を1 kg減らすごとに血圧が数mmHg下がることが示されています。
痩せるためには、食事の改善と運動を組み合わせることが最も効果的です。
極端な食事制限は長続きせず、かえってリバウンドの原因になることがあります。
1ヶ月に1〜2 kgのペースでゆっくり痩せ、それを維持することを目標にするとよいでしょう。
睡眠不足やストレスも血糖値と血圧を悪化させる
見落とされがちですが、よく眠ることとストレスをためないことも、糖尿病と高血圧のコントロールに大切な役割を果たします。
睡眠が足りないと、ストレスホルモンが増えて、血糖値を下げるホルモンの効きが悪くなります。
また、寝不足だと食欲が増すホルモンが増え、満腹感を感じるホルモンが減るため、食べすぎやすくなります。
血圧に関しても、普通は寝ている間に血圧が下がるのですが、睡眠の質が悪いとこの下がり方が不十分になり、心臓や血管の病気のリスクが高まることがわかっています。
質の良い睡眠を7〜8時間取ることを心がけましょう。
- 睡眠: 1日7〜8時間の質の良い睡眠を確保する
- 深呼吸: ゆっくりとした深い呼吸でリラックスする
- 瞑想・ヨガ: 心を落ち着かせる時間を持つ
- 趣味の時間: 好きなことをする時間を大切にする
- 良好な人間関係: 家族や友人との交流を保つ
長く続くストレスも、自律神経の働きを乱し、血糖値と血圧の両方を上げてしまいます。
ストレスを減らす方法としては、深呼吸、瞑想、ヨガ、好きなことをする時間を持つことなどが効果的です。
また、家族や友人と良い関係を保つこともストレスを減らすのに役立ちます。
薬による治療が必要になったときの注意点
生活習慣の改善だけでは血糖値や血圧が十分に下がらない場合、薬による治療が必要になります。
糖尿病と高血圧を同時に持っている場合、薬の選び方や使い方には特別な注意が必要です。
大切なのは、薬と生活習慣の改善は対立するものではなく、お互いに助け合う関係にあるということです。
薬を飲んでいるからといって、食事や運動に気をつけなくてよいわけではありません。
むしろ、両方を組み合わせることで、より良い結果が得られます。
また、糖尿病と高血圧の両方を治療する場合、薬同士の影響や、一方の病気の薬がもう一方の病気に与える影響についても考える必要があります。
最近では、糖尿病の薬の中に血圧を下げる効果を持つものや、高血圧の薬の中に腎臓を守る効果を持つものが出てきており、適切な薬を選ぶことで、いくつもの良い効果を同時に得ることができるようになっています。
ここでは、糖尿病と高血圧を同時に持っている方が薬による治療を受ける際に知っておくべき大切なポイントについて説明します。
糖尿病の薬が血圧に影響することがある
最近、糖尿病の薬の中には、血糖値を下げるだけでなく、血圧や体重にも良い影響を与えるものが出てきています。
特に注目されているのが「SGLT2阻害薬」と「GLP-1受容体作動薬」という薬です。
SGLT2阻害薬は、腎臓から糖分を尿として出す薬ですが、同時に体の中の塩分と水分も外に出すため、血圧を下げる効果があります。
大規模な研究では、心臓や腎臓の病気の進行を抑える効果も示されています。
GLP-1受容体作動薬は、血糖値を下げるホルモンの分泌を促し、食欲を抑えて体重を減らす薬です。
体重が減ることで、結果的に血圧も改善することが多いです。
これらの薬は、糖尿病と高血圧を同時に持っている方にとって、一つの薬で二つの良い効果が期待できる選択肢となります。
糖尿病と高血圧の両方に効果がある新しい薬
| 薬の種類 | 主な効果 | 追加の利点 |
|---|---|---|
| SGLT2阻害薬 | 血糖値を下げる | 血圧低下、体重減少、心臓・腎臓保護 |
| GLP-1受容体作動薬 | 血糖値を下げる | 食欲抑制、体重減少、血圧改善 |
一方で、注意が必要な場合もあります。
血糖値を下げる注射(インスリン)を始めると、体に水分が溜まりやすくなり、一時的に血圧が上がることがあります。
また、血糖値が急に下がると、反応として血圧が上がることもあります。
このため、糖尿病の治療を始めたり変更したりする際には、血圧も注意して見ていくことが大切です。
高血圧の薬の中には血糖値に影響するものも
高血圧の治療薬にも色々な種類がありますが、糖尿病を同時に持っている場合には、薬の選び方に注意が必要です。
最もおすすめされるのは、「ACE阻害薬」や「ARB」と呼ばれる薬です。
これらは血圧を下げるだけでなく、腎臓を守る効果があることが多くの研究で証明されています。
大規模な臨床試験では、これらの薬が糖尿病による腎臓の病気の進行を遅らせることが示されました。
「カルシウム拮抗薬」も糖尿病の方によく使われる血圧の薬です。
この薬は血糖値への悪い影響が少なく、安全性が高いとされています。
糖尿病がある方に推奨される高血圧の薬
| 薬の種類 | 血圧への効果 | 糖尿病への影響 | 追加の利点 |
|---|---|---|---|
| ACE阻害薬 | 血圧を下げる | 影響少ない | 腎臓保護 |
| ARB | 血圧を下げる | 影響少ない | 腎臓保護 |
| カルシウム拮抗薬 | 血圧を下げる | 影響少ない | 安全性高い |
一方、一部の薬(ベータ遮断薬やチアジド系利尿薬の一部)は、血糖値を下げるホルモンの働きを妨げたり、血糖値を上げたりする可能性があることが知られています。
ただし、これらの薬にも大切な役割があるため、使ってはいけないというわけではありません。
医師が総合的に判断して処方していますので、自分の判断で薬を止めることは絶対にやめてください。
定期的な検査で両方の数値をチェックする
糖尿病と高血圧を同時に持っている場合、定期的に検査を受けることがとても大切です。
血糖値と血圧はお互いに影響し合うため、一方が良くなったり悪くなったりすると、もう一方にも変化が現れることがあります。
血糖値の管理では、空腹時の血糖値、食後の血糖値、そして「HbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)」という過去1〜2ヶ月の平均血糖値を表す数値を定期的に測ります。
一般的には、HbA1cを7%未満に保つことが目標とされますが、年齢や他の病気の有無によって目標は変わります。
定期的にチェックすべき検査項目と目標値
| 検査項目 | 目標値 | 検査の頻度 |
|---|---|---|
| HbA1c(糖尿病) | 7%未満(個別に調整) | 1〜3ヶ月ごと |
| 診察室血圧 | 130/80 mmHg未満 | 受診時毎回 |
| 家庭血圧 | 135/85 mmHg未満 | 毎日(朝) |
| 尿中アルブミン | 正常範囲内 | 年1〜2回 |
| 腎機能(eGFR) | 正常範囲内 | 年1〜2回 |
血圧については、糖尿病の方は一般の人よりも厳しく管理することが推奨されており、多くの場合、上が130、下が80未満を目標とします。
ただし、高齢者や立ちくらみが起こりやすい方では、血圧を下げすぎることも問題になるため、一人一人に合わせた目標を決めることが大切です。
家で血圧を測ることもとても役立ちます。
朝起きてから1時間以内、トイレに行った後、朝ご飯を食べる前に測ることがおすすめです。
家で測る血圧の基準は病院で測る血圧よりも少し低く、上が135、下が85未満が目標となります。
- 測定時間: 朝起きてから1時間以内
- 測定前: トイレを済ませる、朝食前、薬を飲む前
- 測定方法: 座って1〜2分安静にしてから測る
- 記録: 毎日の数値を記録して医師に見せる
また、腎臓の働きを調べることも大切です。
尿にタンパク質が混じっていないか、血液検査で腎臓の働きを表す数値をチェックすることで、糖尿病による腎臓の病気を早く見つけたり、進行具合を評価したりすることができます。
よくある質問(FAQ)
- 糖尿病予備軍でも高血圧に注意すべき?
-
はい、注意が必要です。
糖尿病予備軍(血糖値が高めだが、まだ糖尿病ではない状態)の段階でも、高血圧のリスクは高まることが研究で示されています。
血糖値が正常値よりも高めの状態が続くと、すでに血管や腎臓への影響が始まっている可能性があります。
定期的に血圧を測り、生活習慣を見直すことで、糖尿病と高血圧の両方を予防できる可能性があります。
- 高血圧の薬は糖尿病に影響する?
-
影響する場合があります。
一部の血圧の薬は血糖値を少し上げる可能性がありますが、ACE阻害薬やARB、カルシウム拮抗薬は血糖値への悪い影響が少ないとされています。
糖尿病がある方の高血圧治療では、これらの点を考えて薬が選ばれます。
ご自身の薬について心配なことがあれば、主治医に相談してください。
- 血糖値と血圧、どちらを優先すべき?
-
両方とも大切なので、どちらを優先するということはありません。
糖尿病と高血圧はお互いに影響し合うため、両方を同時にコントロールすることが、心臓や腎臓の病気のリスクを最も効果的に減らす方法です。
嬉しいことに、食事や運動などの生活習慣の改善は、血糖値と血圧の両方に良い影響を与えます。
まとめ
糖尿病と高血圧は、深く関わり合っている病気です。
糖尿病の方の半数以上が高血圧も持っており、両方を同時に抱えることで、心筋梗塞、脳卒中、腎不全などの重大な病気のリスクが大きく高まります。
しかし、適切に管理することで、これらのリスクを大きく減らすことができます。
特に大切なのは、毎日の生活習慣を見直すことです。
塩分を減らして糖質をコントロールすること、定期的に運動すること、適正な体重を保つこと、よく眠ってストレスをためないことは、血糖値と血圧の両方に良い影響をもたらします。
薬による治療が必要な場合でも、最近は血糖値と血圧の両方に良い効果をもたらす薬が出てきています。
定期的に検査を受けて両方の数値をチェックし、主治医と相談しながら最適な治療方針を決めていくことが大切です。
糖尿病と高血圧の管理は長く続く取り組みですが、毎日の小さな努力の積み重ねが、将来の重大な病気を防ぐことにつながります。
わからないことや心配なことがあれば、遠慮なく医療スタッフに相談し、自分に合った管理方法を見つけていきましょう。
American Heart Association Journals Type 2 Diabetes and Hypertension
PubMed Central Diabetes, Hypertension, and Cardiovascular Disease: Clinical Insights and Vascular Mechanisms
National Center for Biotechnology Information Hypertension in Diabetes
American Heart Association Journals Hypertension in Diabetes: An Update of Basic Mechanisms and Clinical Disease
Centers for Disease Control and Prevention Hypertension Prevalence and Control Among Adults: United States, 2011–2014
Diabetes Care Associations of Concurrent Hypertension and Type 2 Diabetes With Mortality Outcomes: A Prospective Study of U.S. Adults
Frontiers in Nutrition Metabolic syndrome: epidemiology, mechanisms, and current therapeutic approaches
Multidisciplinary Digital Publishing Institute Mechanisms and Clinical Implications of Endothelial Dysfunction in Arterial Hypertension
PubMed Central Endothelial Dysfunction and Diabetes: Effects on Angiogenesis, Vascular Remodeling, and Wound Healing
PubMed Central Insulin Resistance, Obesity, Hypertension, and Renal Sodium Transport
PubMed Central Hypertension in Diabetic Nephropathy: Epidemiology, Mechanisms, and Management
American Diabetes Association Cardiovascular Disease
Stanford Health Care Diabetes and High Blood Pressure
American Heart Association Cardiovascular Disease and Diabetes
National Center for Biotechnology Information Diabetic Nephropathy
PubMed Central Tight blood pressure control and risk of macrovascular and microvascular complications in type 2 diabetes: UKPDS 38
PubMed Central Diabetes and Stroke: What Are the Connections?
PubMed Duration of diabetes and risk of ischemic stroke: the Northern Manhattan Study
PubMed Central Stroke in Patients With Diabetes and Hypertension
PubMed Diabetes, Hypertension, and the Risk of Dementia
Diabetes Care 4. Lifestyle Management
National Center for Biotechnology Information DASH Diet To Stop Hypertension
特定非営利活動法人 日本高血圧学会 さあ、減塩!(減塩・栄養委員会から一般のみなさまへ)
厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2025年版)の策定ポイント」
PubMed Central Nonpharmacologic Therapy and Exercise in the Prevention of Type 2 Diabetes
PubMed Central Evidence for exercise training in the management of hypertension in adults
National Institute of Diabetes and Digestive and Kidney Diseases Diabetes Prevention Program (DPP)
PubMed Central Lowering weight equals reduction of mortality: How far are we from the “Ithaka” of ideal weight control?
Centers for Disease Control and Prevention About Sleep
National Center for Biotechnology Information Sodium-Glucose Transport 2 (SGLT2) Inhibitors
PubMed Central GLP-1 receptor activated insulin secretion from pancreatic β-cells: mechanism and glucose dependence
PubMed Central Thiazide Diuretics Alone or with Beta-blockers Impair Glucose Metabolism in Hypertensive Patients with Abdominal Obesity
Diabetes Care 10. Cardiovascular Disease and Risk Management: Standards of Care in Diabetes—2024
American Heart Association Journals Emergence of Home Blood Pressure-Guided Management of Hypertension Based on Global Evidence


コメント