血圧が高いと指摘されたことがある方、または突然の激しい頭痛や吐き気を経験された方は、高血圧性脳症という病気について不安を感じているかもしれません。
高血圧性脳症は、血圧が急に大きく上がることで脳が障害を受ける病気で、適切な治療を受けなければ重い後遺症を残す可能性があります。
しかし、この病気は早く見つけて適切に治療すれば回復が期待できる病気でもあります。
日本では高血圧の方が約4300万人いると推定されています。
その中で高血圧性脳症は稀な疾患ですが、発症した場合は数時間から数日以内に治療を始める必要がある、とても緊急性の高い病気です。
発症した場合は数時間から数日以内に治療を始める必要がある、とても緊急性の高い病気です。
- 血圧が急激に上昇することで発症する脳の病気
- 数時間以内に治療が必要な緊急性の高い状態
- 脳の後ろ側を中心にむくみが現れる特徴がある
- 早期に適切な治療を受ければ回復が期待できる
- 治療が遅れると短期間で命に関わる危険がある
- 激しい頭痛やけいれんなどの症状が現れる
普段の慢性的な高血圧とは違い、高血圧性脳症は脳という大切な臓器が急に障害を受けている状態で、放っておけば命に関わる可能性があります。
一方で、血圧が急に上がる原因を知り、最初の症状を見逃さず、適切な予防をすることで、発症のリスクを大きく減らすことができます。
高血圧性脳症は、血圧を下げる薬を自己判断でやめてしまったり、腎臓の病気などが主な原因で起こります。
また、現代社会で問題になっているストレスや働きすぎ、睡眠不足も、血圧を上げる大きな要因です。
これらのリスクを知り、日常生活で適切に対処することが予防の第一歩となります。
本記事では、医学的な根拠に基づいた情報を、なるべくわかりやすくお伝えし、皆さんの健康管理に役立てていただければと思います。
- 高血圧性脳症がどのような病気で、普段の高血圧とどう違うのか
- 発症する原因と、どのような人がリスクが高いのか
- 見逃してはいけない初期症状と緊急受診が必要な状態
- ストレスが血圧に与える影響と発症リスクとの関係
- 治療法と回復の見込み、予防のために日常生活でできること
はじめに(免責・注意事項)
本記事は、高血圧に関する一般的な医学情報の提供を目的として作成されたものであり、特定の診断・治療を推奨するものではありません。
血圧の状態や治療方針は、年齢・体質・基礎疾患・服薬状況などにより個人差があります。降圧薬を含む医薬品の使用や生活習慣の改善を検討される場合は、必ず医師などの医療専門職にご相談のうえ、十分な説明を受けてからご自身の判断で行ってください。
また、本記事で紹介する内容の一部は、一般診療のほか自由診療に該当する可能性があります。保険適用の有無や費用、効果、副作用などについては、必ず受診先の医療機関で最新の情報をご確認ください。
本記事の情報は公開時点の医学的知見やガイドラインをもとにしていますが、今後の研究や法令改正により内容が変更となる場合があります。正確かつ最新の情報を得るために、公的機関(厚生労働省、日本高血圧学会など)や各医療機関の公式情報をあわせてご確認ください。
高血圧性脳症は血圧が急上昇して脳がダメージを受ける病気
高血圧性脳症とは、血圧が急激に、しかも非常に高く上がることで脳に障害が起きる状態を指します。
通常、私たちの脳には血の流れを一定に保つ仕組みが備わっています。
しかし、この仕組みが対応できないほど血圧が急に上がると、脳の血管の壁が傷つき、血液の中の成分が脳の組織に漏れ出してしまいます。
その結果、脳がむくんで(医学用語で脳浮腫といいます)、激しい頭痛、吐き気、目の見え方の異常、意識がはっきりしない、けいれんなどの症状が現れます。
この病気は「高血圧緊急症」の一つに分類され、数時間以内に治療を始めなければ命に関わる可能性がある、とても重大な状態です。
悪性高血圧の方における高血圧性脳症の発症率は0.5〜15%程度とする報告があり、決して多い病気ではありません。
しかし、発症した場合の深刻さは極めて高いため、正しい知識を持つことが大切です。
以下では、この病気がどのような仕組みで起こり、なぜ緊急性が高いのか、そしてどのような合併症のリスクがあるのかについて詳しく説明します。
通常よりも血圧が著しく高くなることで起こる
高血圧性脳症を引き起こす血圧の値に明確な基準はありませんが、多くの場合、上の血圧が180mmHg以上、下の血圧が120mmHg以上といった、極めて高い値を示します。
注目すべき点は、高血圧性脳症は血圧の絶対的な値だけでなく、急激に血圧が上がることで引き起こされるという点です。
- 高血圧性脳症を起こしやすい血圧:上の血圧180mmHg以上、下の血圧120mmHg以上
- 普段から血圧が高い方:より高い血圧にならないと症状が出ないこともある
- 普段は血圧が正常な方:下の血圧100mmHg程度でも発症する可能性がある
- 脳の血管の自動調節機能が働く範囲:平均動脈圧で60〜150mmHg程度
例えば、普段から血圧が高めの方の場合、脳の血管はある程度の高血圧に慣れているため、より高い血圧にならないと症状が出ないことがあります。
反対に、普段は血圧が正常な方が何らかの理由で急に血圧が上がった場合、下の血圧が100mmHg程度でも高血圧性脳症を発症する可能性があります。
これは妊娠中の高血圧や一部の薬を使った時などに見られます。
脳の血管は通常、血圧が変わっても血管の太さを調節することで、脳への血の流れを一定に保っています。
この仕組みは、平均動脈圧で60〜150mmHg程度の範囲内であれば正常に働きます。
しかし、急激で大きな血圧上昇が起こると、この仕組みが追いつかず、脳の血管に過剰な圧力がかかります。
その結果、血管の壁が傷つき、脳を守るバリア(血液脳関門といいます)が壊れてしまいます。
すると血管から水分や血液の成分が脳の組織に漏れ出し、脳がむくんでしまうのです。
普段の高血圧とは違い緊急性が高い
日常的な高血圧と高血圧性脳症の最も大きな違いは、臓器に急な障害が起こっているかどうかという点です。
多くの方が持つ慢性的な高血圧は、ほとんど症状がなく、長い年月をかけて少しずつ血管や臓器にダメージを与えていきます。
そのため「静かな殺し屋」と呼ばれることもあります。
慢性高血圧と高血圧性脳症の違い
| 項目 | 慢性高血圧 | 高血圧性脳症 |
|---|---|---|
| 症状の現れ方 | ほとんど症状がない | 激しい頭痛、吐き気、意識障害など |
| 進行速度 | 年月をかけて徐々に進行 | 数時間〜数日で急速に悪化 |
| 臓器への影響 | 長期的にダメージが蓄積 | 急性の障害が起こる |
| 緊急性 | 定期的な管理が必要 | 数時間以内の治療が必要 |
| 可逆性 | 一度起きた変化は元に戻らない | 早期治療で症状が改善する可能性 |
| 治療しない場合の予後 | 徐々に合併症が進行 | 6ヶ月で50%、1年で90%が死亡 |
一方、高血圧性脳症は高血圧緊急症の一種で、脳という大切な臓器に急な障害が起きている状態です。
この場合、数時間から数日以内に適切な治療を行わなければ、重い後遺症が残ったり、最悪の場合は命を落としたりする可能性があります。
治療を受けなかった場合、古い報告では6ヶ月以内に亡くなる確率は50%、1年以内では90%近くに達するとされ、いかに緊急性が高いかがわかります。
高血圧性脳症では、血圧の急な上昇と症状の現れ方・消え方が連動しているという特徴があります。
つまり、血圧を適切に下げることで症状が良くなるのです。
この「元に戻る可能性」も、慢性高血圧による合併症とは異なる重要な特徴といえます。
ただし、治療が遅れた場合や血圧の下げ方が適切でない場合には、脳梗塞や脳出血など元に戻らない障害が残る可能性もあるため、専門医による慎重な管理が必要です。
脳のむくみや出血につながる可能性がある
高血圧性脳症で最も特徴的な変化は、脳の後ろ側、特に目で見たものを認識する部分を中心に脳がむくむことです。
これは医学的には「可逆性後白質脳症症候群(PRES)」とも呼ばれ、適切な治療で良くなることが期待できる状態です。
MRIという画像検査を行うと、脳の後ろ側を中心に白く映る部分が確認でき、これが脳のむくみを示しています。
脳がむくむと、頭蓋骨という限られたスペースの中で脳が腫れ上がるため、脳が圧迫されて頭痛や吐き気を引き起こします。
また、目で見たものを認識する部分がむくむことで、視界がぼやけたり、一部が見えなくなったり、一時的に目が見えなくなったりすることもあります。
- 脳のむくみ(脳浮腫):特に脳の後ろ側に起こりやすい
- 血液脳関門の破綻:脳を守るバリアが壊れる
- 脳圧の上昇:頭蓋骨の中で脳が圧迫される
- 点状出血:小さな血管から点々と出血が起こる
- 脳出血:より大きな出血が起こる可能性
- 脳梗塞:血管壁の損傷により血流が悪くなる
- 脳ヘルニア(最重症):脳の一部が頭蓋骨の隙間に押し出される
さらに深刻なのは、血圧の上昇が続くと、脳の血管壁の組織が変性したり壊死したりして、血管が破れて出血する可能性があることです。
脳内の小さな血管から点々と出血が起こることもあれば、より大きな脳出血に至ることもあります。
また、血管壁が傷つくことで血液の流れが悪くなると、脳梗塞を引き起こすリスクも高まります。
脳のむくみが進むと、脳の圧力が上がり、意識障害が悪化したり、けいれん発作を引き起こしたりします。
最悪の場合、脳ヘルニアという状態になり、脳の一部が頭蓋骨の隙間に押し出されて、生きるために必要な脳の部分(脳幹部)を圧迫し、意識がなくなったり死に至ったりすることもあります。
このように、高血圧性脳症は単なる頭痛だけでは済まない、命に関わる重大な状態なのです。
血圧の治療中断や腎臓の病気などが発症の原因になる
高血圧性脳症の発症には、血圧が急に上がるきっかけが必ずあります。
最も多いのは、もともと慢性的な高血圧を持っている方で、何らかの理由で血圧のコントロールが急に悪くなるケースです。
アメリカの調査では、高血圧患者のうち高血圧緊急症を発症するのは約1%、救急外来全体では0.5%程度とされていますが、その中でも高血圧性脳症は重大な病気の一つです。
発症の原因として特に注意が必要なのは、血圧を下げる薬を自己判断でやめてしまうことです。
薬物療法を受けている患者さんが医師の指示を守らないことは、高血圧緊急症の主な原因となっています。
また、腎臓の病気は二次性高血圧(他の病気が原因で起こる高血圧)の最も一般的な原因で、特に子どもや若い方では高血圧性脳症の半数以上が腎臓の病気に関係しているとされています。
妊娠に関連した血圧上昇、特定の薬や違法薬物の使用、ホルモンの病気なども高血圧性脳症を引き起こす原因となります。
ここでは、これらの具体的な原因とリスク要因について詳しく見ていきます。
高血圧の薬を勝手にやめると危険
高血圧性脳症の最も一般的な原因の一つが、血圧を下げる薬の服用をやめてしまうことです。
高血圧の治療を受けている方が、自己判断で薬の服用をやめたり、飲み忘れが続いたりすると、血圧が急に跳ね上がることがあります。
特にクロニジンやβ遮断薬といった特定の種類の薬を急にやめると、以前よりも血圧が高くなってしまうことがあります。
- 体調が良くなったから → 実際は薬で血圧がコントロールされているだけ
- 薬代がかかるから → 医師に相談すれば代替案がある場合も
- 副作用が気になるから → 医師に相談すれば別の薬に変更できる可能性
- 飲み忘れが続く → 服薬管理の工夫や薬の種類の変更を医師に相談
薬をやめてしまう理由は様々です。
「体調が良くなったから」「薬代がかかるから」「副作用が気になるから」といった理由で服用をやめる方がいますが、これは非常に危険です。
高血圧は症状がないことが多いため、薬で血圧がコントロールされていても「治った」と勘違いしてしまうことがあります。
しかし、多くの場合、高血圧は継続的な管理が必要な慢性の病気で、薬によって血圧が正常に保たれているだけなのです。
医師の指示を守らない患者さんでは、高血圧緊急症のリスクが大きく高まることが研究で示されています。
一度高血圧性脳症を発症した後、再び同じような状態になる方の多くが、薬をきちんと飲んでいなかったことが報告されています。
血圧を下げる薬を飲んでいる方は、医師の指示なく勝手にやめず、もし副作用や経済的な問題がある場合は必ず医師に相談することが大切です。
腎臓の病気や妊娠高血圧症候群で起こりやすい
腎臓の病気は高血圧性脳症の重要な原因となります。
実際、子どもや若い方における高血圧性脳症では腎臓の病気が主要な原因の一つで、半数以上が腎臓の病気に関係しているとされています。
急性腎炎、慢性腎臓病、溶血性尿毒症症候群などの腎臓の病気では、体内の水分や塩分の調節がうまくいかなくなり、血圧が非常に高くなることがあります。
また、腎臓は血圧を調節するホルモンを出す大切な臓器でもあるため、腎臓の働きが悪くなると血圧のコントロールが難しくなります。
高血圧性脳症を引き起こす主な原因
| 原因の種類 | 具体的な病気・状態 | 特に多い年齢層 |
|---|---|---|
| 腎臓の病気 | 急性腎炎、慢性腎臓病、溶血性尿毒症症候群、腎動脈狭窄 | 子どもや若い方で70〜80% |
| 妊娠関連 | 妊娠高血圧症候群、子癇 | 妊娠20週以降の妊婦 |
| 内分泌疾患 | 褐色細胞腫、クッシング症候群 | 成人 |
| 心臓・血管の病気 | 大動脈縮窄症 | 子ども(先天性) |
| 薬物 | コカイン、アンフェタミン、一部の抗がん剤、免疫抑制剤 | 成人 |
| 治療の中断 | 降圧薬の自己中断 | すべての年齢 |
腎臓の動脈に血の塊が詰まったり、血管が狭くなったりする病気も、二次性高血圧を引き起こし、高血圧性脳症につながる可能性があります。
腎臓移植を受けた方も、拒絶反応や免疫を抑える薬の影響で高血圧性脳症のリスクが高まることが知られています。
妊娠高血圧症候群、特に子癇(しかん)と呼ばれる状態は、妊娠中に起こる高血圧性脳症の代表的な原因です。
妊娠20週以降に高血圧を発症し、さらにけいれん発作などが現れる子癇は、お母さんとお腹の赤ちゃんの両方に危険が及ぶ重大な状態です。
妊娠中の方で血圧が高めだったり、突然の頭痛や目の見え方の異常を感じたりした場合は、すぐに産科の医師に連絡する必要があります。
その他、副腎にできる腫瘍で大量のアドレナリンなどが出る褐色細胞腫、コルチゾールというホルモンが過剰に出るクッシング症候群、生まれつき大動脈の一部が狭い大動脈縮窄症なども、重い高血圧を引き起こし、高血圧性脳症の原因となることがあります。
普段の血圧が高い人ほど注意が必要
慢性的に高血圧を抱えている方は、高血圧性脳症の主なリスクグループです。
高血圧性脳症は主に中年層に発症し、長年にわたって高血圧を持つ方に多く見られます。
長年にわたって血圧が高い状態が続くと、血管の構造自体が変わり、より高い血圧に慣れてしまいます。
これは一見すると体を守る仕組みのように思えますが、同時に血圧のコントロールが難しくなり、何かのきっかけで血圧が急に上がった時に、より高いレベルに達してしまうリスクも意味しています。
- 複数の血圧を下げる薬を飲んでいても血圧のコントロールが良くない方(抵抗性高血圧)
- 日によって血圧が大きく上下する方
- 過去に高血圧緊急症を経験したことがある方
- 慢性腎臓病や心臓病などの他の病気を持っている方
- コカインやアンフェタミンなどの違法薬物を使用している方
- 一部の抗がん剤や免疫抑制剤を使用している方
- ステロイド薬を長く使っている方
- MAOIという抗うつ薬を飲みながらチラミンを多く含む食品(熟成チーズやワインなど)を食べる方
高血圧の方で特に注意が必要なのは、以下のような状況です。
まず、複数の血圧を下げる薬を飲んでいるのに血圧のコントロールが良くない方(抵抗性高血圧といいます)は、すでに血管や臓器への負担が大きく、高血圧性脳症のリスクが高い状態です。
また、血圧の変動が大きい方、つまり日によって血圧が大きく上下する方も注意が必要です。
過去に高血圧緊急症を経験したことがある方は、再発のリスクが高いことも知られています。
一度発症した方のその後に関する研究では、1年間で亡くなる確率が10.4%、心不全の発症率が8.6%、末期腎不全に進む率が9.0%と、一般の高血圧患者に比べて極めて高いことが報告されています。
これは、高血圧性脳症を発症するような方は、すでに臓器への障害が進んでいる可能性が高いことを示しています。
さらに、コカインやアンフェタミンなどの違法薬物の使用、一部の抗がん剤や免疫を抑える薬の使用、ステロイド薬を長く使うことなども、血圧を急に上げ、高血圧性脳症を引き起こす可能性があります。
また、チラミンという物質を多く含む食品(熟成チーズやワインなど)を、MAOI(モノアミン酸化酵素阻害薬)という種類の抗うつ薬と一緒に食べると、血圧が急に上がることがあります。
このように、様々なことが高血圧性脳症のきっかけとなり得るため、血圧が高めの方は日頃からの管理と注意が大切です。
激しい頭痛・吐き気・意識がぼんやりするなどの初期症状
高血圧性脳症の症状は、通常、血圧が急に上がってから12〜48時間後に現れ始めることが多いとされています。
最も一般的な初期症状は激しい頭痛です。
この頭痛は普段の頭痛とは違い、これまで経験したことがないような強烈な痛みであることが特徴です。
頭痛に加えて、吐き気や嘔吐、目の見え方の異常、意識がはっきりしないなどの症状が現れます。
高血圧性脳症の症状は段階的に進んでいく傾向があります。
最初は軽い頭痛や吐き気から始まり、治療を受けなければ少しずつ症状が悪化していきます。
目の見え方の異常や意識の障害が加わり、最終的にはけいれん発作や意識がなくなる状態に至ることもあります。
これらの症状は、脳がむくんで脳の圧力が上がることで引き起こされます。
症状の重さは血圧の高さや上がる速さ、治療開始までの時間によって異なりますが、いずれの症状も放っておけば悪化する可能性があります。
以下では、各段階の症状について詳しく説明します。
突然の激しい頭痛が最も多い症状
高血圧性脳症で最も多く見られ、かつ最初に現れやすい症状が激しい頭痛です。
この頭痛は、頭全体にズキンズキンと広がる痛みとして感じられることが多く、患者さんは「頭が割れるように痛い」「今まで経験したことがない痛み」と表現することがあります。
普段の頭痛とは異なる強烈な痛みであることが特徴です。
頭痛が起こる仕組みは、脳の血管が過度に広がったり、脳がむくんで脳の圧力が上がったりすることが関係していると考えられています。
また、血圧が急に上がること自体が頭痛を引き起こすこともあります。
高血圧性脳症では、血圧が高ければ高いほど頭痛が強くなる傾向があり、血圧と頭痛の強さには関係があります。
大切なのは、突然の激しい頭痛が現れた場合、特にこれまでに経験したことがないような頭痛の場合は、高血圧性脳症だけでなく、くも膜下出血などの他の重大な脳の病気の可能性もあるということです。
いずれにしても緊急の医療対応が必要な状態ですので、すぐに病院を受診するか、救急車を呼ぶ必要があります。
特に、高血圧を持っている方、または過去に高血圧を指摘されたことがある方で突然の激しい頭痛が現れた場合は、高血圧性脳症の可能性を考えるべきです。
吐き気やめまい、視野がぼやけることも
頭痛に続いて、または同時に現れる症状として、吐き気と嘔吐があります。
これは脳の圧力が上がり、脳の中にある嘔吐を引き起こす部分(嘔吐中枢)が刺激されることで起こります。
吐き気は食事とは関係なく突然現れ、何度も吐いてしまうこともあります。
この嘔吐は、胃腸の問題によるものとは違い、脳の問題から来るため、通常の吐き気止めだけでは十分に改善しないことがあります。
- 激しい頭痛:頭全体にズキンズキンと広がる痛み、普段の頭痛薬が効かない
- 吐き気・嘔吐:食事と関係なく突然現れる、何度も繰り返す
- 視覚の異常:視界がぼやける、視野の一部が欠ける、二重に見える、一時的に見えなくなる
- めまい・ふらつき:まっすぐ歩けなくなる、体のバランスがとれない
- 軽度の意識障害:集中力の低下、混乱、落ち着きがない、時間や場所がわからない
目の見え方に関する症状も高血圧性脳症の重要なサインです。
視界がぼやけて見えにくくなったり、視野の一部が欠けたり、二重に見えたりすることがあります。
中には一時的に全く見えなくなることもあります。
これらの症状は、目で見たものを認識する脳の部分(後頭葉)がむくむことが主な原因です。
また、目の奥の検査(眼底検査)を行うと、視神経が腫れていたり、目の奥で出血が見られたりすることがあり、これは悪性高血圧の特徴的な所見です。
めまいや体のバランスがとれなくなることも起こります。
ふらついたり、まっすぐ歩けなくなったりすることもあります。
これは小脳や脳幹部という、体のバランスを保つ部分が影響を受けることで起こります。
意識の状態が変わることも重要な症状です。
最初は集中力が落ちたり、混乱したり、落ち着きがなくなったりといった軽い意識の障害から始まることがあります。
周りの状況が理解しにくくなったり、今がいつなのか、ここがどこなのかがわからなくなったりすることもあります。
特に小さなお子さんや高齢の方では、イライラしたり、異常に興奮したり、または反対に無気力で反応が鈍くなったりといった症状として現れることがあります。
意識障害やけいれんが起きたらすぐ救急車を
症状がさらに進むと、より深刻な症状が現れます。
最も緊急性が高いのは、意識レベルの大きな低下と、けいれん発作です。
- けいれん発作:全身または体の一部がガクガクと震える、5分以上続く、繰り返す
- 重度の意識障害:呼びかけに反応しない、痛み刺激にも反応が鈍い、昏睡状態
- 脳卒中様の症状:片側の手足が動かない、顔の片側が垂れ下がる、ろれつが回らない、言葉が出ない・理解できない
けいれん発作は、高血圧性脳症の患者さんの中でも特に小さなお子さんに多く見られ、お子さんにおける高血圧性脳症の最も一般的な最初の症状とされています。
けいれんは全身がガクガクと震えるものが多いですが、体の一部だけに起こることもあります。
けいれんが起こると、本人の意識は失われ、舌を噛んだり、転んでけがをしたりする危険があります。
けいれんが5分以上続く場合や、一度止まってもまた繰り返す場合は、非常に危険な状態で、脳に元に戻らない損傷を与える可能性があります。
意識の障害が進むと、呼びかけても反応しなくなり、痛みを与えても反応が鈍くなります。
最終的には意識がなくなる状態(昏睡状態)に至ることもあります。
意識がなくなると、自分で呼吸ができなくなったり、飲み込む反射が失われて誤嚥性肺炎を起こしたりする危険が高まります。
その他の重い症状として、脳卒中と似た症状が現れることがあります。
片側の手足が動かなくなる、顔の片側が垂れ下がる、ろれつが回らなくなる、言葉が出てこない、または理解できないといった症状です。
これらは脳の特定の部分に血流不足や出血が起こっている可能性を示します。
これらの重い症状が一つでも現れた場合は、一刻を争う状況です。
すぐに救急車を呼び、専門的な治療が受けられる病院へ運ばれる必要があります。
治療開始が遅れれば遅れるほど、脳への障害が進み、回復が難しくなったり、永続的な後遺症が残ったりする可能性が高まります。
反対に、早く適切な治療を始められれば、多くの場合で症状の改善が期待できます。
ストレスで血圧が上がり高血圧性脳症のリスクが高まる
ストレスと高血圧の関係は、医学研究で長年注目されてきました。
日常的なストレスが血圧を上げることは多くの方が経験的に知っていると思いますが、これには明確な体の仕組みがあります。
ストレスを感じると、体の中ではコルチゾールやアドレナリンといったストレスホルモンが出され、これらのホルモンが血圧を上げます。
短期的なストレスによる血圧上昇は正常な反応ですが、慢性的なストレスや過度なストレスが続くと、持続的な高血圧につながり、結果として高血圧性脳症のリスクを高める可能性があります。
研究によると、ストレスを受けた時にコルチゾール値が大きく上がる人ほど、将来的に高血圧を発症するリスクが有意に高いことが示されています。
また、働きすぎや睡眠不足といった現代社会特有のストレス要因も、血圧上昇に大きく関わっています。
ストレスの管理は、高血圧の予防と治療において大切な要素の一つです。
ここでは、ストレスが血圧に影響を与える仕組みと、効果的なストレス管理の方法について詳しく見ていきます。
ストレスホルモンが血圧を急上昇させる
ストレスを感じると、脳はすぐに体を「戦うか逃げるか」の状態にするため、交感神経という神経系を活発にします。
その結果、副腎という臓器からアドレナリンやノルアドレナリンといったホルモンが出されます。
これらのホルモンは心臓の拍動を増やし、心臓の収縮を強め、血管を縮めることで血圧を上げます。
これは本来、危険な状況に対処するための体の反応です。
- ストレスを感じる
- 交感神経が活発になる
- アドレナリン・ノルアドレナリンが出される → 心拍数増加、血管収縮
- コルチゾールが出される(ストレスが続く場合) → 血圧上昇が持続
- 血圧が上昇:80〜200mgのコルチゾールで上の血圧が約15mmHg上昇
- ストレス反応が大きい人は将来の高血圧リスクが59%高い
さらに、ストレスが続くと、コルチゾールというホルモンが出されます。
コルチゾールは「ストレスホルモン」として知られ、長期的なストレス反応で中心的な役割を果たします。
研究によると、コルチゾールは量に応じて血圧を上げることが確認されています。
1日あたり80〜200mgのコルチゾールを投与すると、上の血圧が約15mmHg上がることが報告されており、この血圧上昇は投与開始から24時間以内に現れます。
1日80~200 mgの用量で、収縮期血圧の上昇ピークは15 mmHg程度です。
引用:PubMed Cortisol and hypertension
コルチゾールが血圧を上げる仕組みは複雑です。
最初は体の中の塩分と水分が溜まることが原因と考えられていましたが、研究により、それだけでは説明できないことがわかっています。
現在では、血管を広げる一酸化窒素という仕組みが抑えられたり、血管が縮みやすくなったりするなど、複数の仕組みが関わっていると考えられています。
ストレスに対するコルチゾールの反応には個人差があり、ストレスを受けた時にコルチゾール値が大きく上がる人ほど、将来的に高血圧を発症するリスクが高いことが研究で示されています。
健康な男女479名を対象とした研究では、精神的ストレスに対するコルチゾール反応が大きい人では、3年間の追跡期間中に高血圧を発症するリスクが59%高いことが報告されました。
これは、年齢や性別、最初の血圧、肥満度などを考慮した後でも有意な関連性でした。
過労や睡眠不足が続くと危険性が増す
現代社会では、多くの方が働きすぎや睡眠不足に悩まされています。
これらの状態が続くことは、血圧上昇と高血圧性脳症のリスクを高める重要な要因となります。
働きすぎの状態では、体と心のストレスが続き、先ほど説明したストレスホルモンが慢性的に高まります。
実際、日本の労災認定基準でも、高血圧性脳症は「仕事による明らかな過重負荷」によって発症し得る病気として認められています。
長時間労働、特に発症前の1ヶ月間に100時間を超える残業、または発症前の2〜6ヶ月間に月平均80時間を超える残業があった場合、仕事との関連性が強いと判断されることがあります。
過労・睡眠不足と高血圧の関係
| 状態 | 血圧への影響 | リスク |
|---|---|---|
| 過労(月100時間超の残業) | ストレスホルモンが慢性的に高まる | 労災認定基準に該当 |
| 睡眠不足 | 夜間の血圧低下が起こらない | 24時間血圧が高い状態が続く |
| ストレスホルモン2倍増加 | 6.5年間で高血圧リスク21〜31%増 | アメリカ心臓協会の研究 |
| コルチゾール2倍増加 | 心筋梗塞・脳卒中リスク90%増 | アメリカ心臓協会の研究 |
睡眠不足も血圧に直接的な影響を与えます。
睡眠中は通常、血圧が昼間よりも10〜20%下がります。
この夜間の血圧低下は、心臓や血管を休ませる大切な体の働きです。
しかし、睡眠不足や睡眠の質が悪いと、この夜間の血圧低下が十分に起こらず、24時間を通じて血圧が高い状態が続きます。
その結果、血管や心臓への負担が増え、高血圧のリスクが高まります。
慢性的なストレス状態では、尿の中のストレスホルモンレベルが上がることが確認されています。
アメリカ心臓協会の研究では、正常血圧の成人400名以上を対象に、尿の中のストレスホルモンを測定し、追跡調査を行いました。
その結果、4つのストレスホルモンの値が2倍になるごとに、6.5年間の追跡期間中に高血圧を発症するリスクが21〜31%増加することが明らかになりました。
さらに、コルチゾールレベルが2倍になるごとに、心筋梗塞や脳卒中などのリスクが90%増加することも報告されています。
中央値11.2年間の追跡調査期間中、コルチゾール値が2倍になるごとに心血管イベントのリスクが90%増加しました。
引用:American Heart Association Elevated stress hormones linked to higher risk of high blood pressure and heart events
不安、うつ、不眠といった心の問題も高血圧と関連があります。
これらの状態は、ストレスホルモンの出方の異常や自律神経のバランスの乱れを引き起こし、血圧のコントロールを難しくします。
リラックスする時間を作ることが予防につながる
ストレス管理と血圧コントロールの関係について、多くの研究が行われています。
その結果、ストレスを軽くする方法が血圧を下げる効果があることが実証されています。
リラクゼーション訓練の効果を調べた研究では、55歳以上の高血圧患者122名を対象に、リラクゼーション訓練を受けるグループと、血圧管理に関する情報提供だけを受けるグループに分けて比較しました。
8週間後、両グループとも上の血圧が約9mmHg下がり、リラクゼーション訓練グループでは血圧を下げる薬を減らせる可能性が有意に高まったと報告されています。
効果的なストレス管理の方法
| 方法 | 具体的な内容 | 推奨される頻度・時間 |
|---|---|---|
| 深呼吸・瞑想 | 静かな場所で深くゆっくりした呼吸 | 1日数分間 |
| 有酸素運動 | ウォーキング、ジョギング、水泳、サイクリング | 週150分以上(1日30分×週5日) |
| 十分な睡眠 | 質の良い睡眠を確保 | 1日7〜9時間 |
| 趣味・社交活動 | 楽しめる時間を持つ | 定期的に |
| 仕事の調整 | 業務量の調整、適切な休憩 | 必要に応じて |
| 専門家のサポート | 心療内科医や臨床心理士への相談 | 慢性的なストレスがある場合 |
具体的なストレス管理の方法としては、以下のような取り組みが推奨されています。
まず、深呼吸や瞑想といったリラックス法は、体を緊張させる神経の働きを抑え、体をリラックスさせる神経を活発にする効果があります。
1日に数分間でも、静かな場所で深くゆっくりとした呼吸を行うことで、血圧の低下が期待できます。
適度な運動もストレス軽減と血圧低下の両方に効果的です。
ウォーキング、ジョギング、水泳、サイクリングなどの有酸素運動を週に150分以上(1日30分×週5日程度)行うことが推奨されています。
運動はストレスホルモンの分解を促し、エンドルフィンという「幸せホルモン」を出すため、気分の改善とストレス軽減につながります。
また、運動自体に血圧を下げる効果もあります。
十分な睡眠時間を確保することも大切です。
成人では1日7〜9時間の睡眠が推奨されています。
睡眠の質を高めるために、寝る前のカフェインを避ける、寝室を暗く静かにする、寝る前のスマートフォンやパソコンの使用を減らすといった工夫も有効です。
趣味や友人との交流など、楽しめる時間を持つことも大切です。
笑うことや楽しい活動に参加することは、ストレスホルモンのレベルを下げ、血圧の低下につながることが研究で示されています。
仕事のストレスが大きい場合は、可能であれば仕事量の調整や、適切な休憩時間の確保を心がけることが望ましいです。
完璧主義的な考え方を和らげ、できることとできないことを区別し、必要に応じて他の人に助けを求めることも、ストレス軽減に役立ちます。
慢性的なストレスや不安、うつ症状が続く場合は、専門家(心療内科医や臨床心理士)のサポートを受けることも検討すべきです。
認知行動療法などの心理療法は、ストレスへの対処能力を高め、結果として血圧のコントロールにも良い影響を与える可能性があります。
早期治療で回復できるが放置すると後遺症が残る可能性
高血圧性脳症のその後の経過は、治療を始めるタイミングと治療の適切さによって大きく左右されます。
この病気の大きな特徴は、早く適切な治療を行えば症状が良くなる可能性を持つという点です。
多くの患者さんで、血圧を適切に下げることで神経の症状が良くなり、脳の画像検査の結果も正常に戻ります。
実際、高血圧性脳症は医療の進歩により、診断と治療が適切に行われるようになった現代では、適切な管理により予防できる可能性が高まっています。
しかし、一度発症した場合の深刻さは依然として高く、治療が遅れたり、適切な治療が行われなかったりすると、脳梗塞や脳出血といった元に戻らない脳の損傷が起き、重い後遺症が残ったり、死に至ったりする可能性があります。
治療を受けなかった場合のその後の経過は極めて悪く、6ヶ月で亡くなる確率が50%、1年で90%という報告があります。
高血圧性脳症は医学的緊急事態であり、時間との戦いともいえる状態です。
以下では、治療のタイミングの大切さ、具体的な治療方法、そして回復の見込みについて詳しく説明します。
数時間以内の治療開始が回復のカギ
高血圧性脳症の治療で、最も大切なのは治療を始めるまでの時間です。
症状が現れてから治療を始めるまでの時間が短ければ短いほど、完全に回復する可能性が高まります。
理想的には、症状が出てから数時間以内に治療を始めることが望まれます。
- 数時間以内に治療開始 → 多くの患者さんで症状が劇的に改善、完全回復の可能性が高い
- 数週間〜数か月 → 早期治療を受けた患者さんの多くで神経の障害が回復
- 治療なしの場合 → 6ヶ月で死亡率50%、1年で死亡率90%
早く治療すると多くの患者さんで症状が劇的に良くなることが報告されています。
適切な治療を受けた患者さんの神経の症状は、通常、数時間から数日以内に回復し始めます。
MRIなどの画像検査で見られた脳のむくみも、治療により少しずつ消えていきます。
完全な回復には数週間から数ヶ月かかることが多いですが、早く治療を始めた場合、多くの患者さんで後遺症を残さずに回復することが可能です。
特に可逆性後白質脳症症候群(PRES)と診断された患者さんの多くは、適切な治療により良好な経過が期待できます。
しかし、治療開始が遅れると状況は一変します。
過去の報告では、治療を受けなかった場合の6ヶ月死亡率は50%、1年死亡率は90%とされており、いかに緊急性が高いかがわかります。
治療を受けない場合、高血圧性緊急症の6ヶ月死亡率は50%、1年死亡率は90%に近づきます。
引用:Medscape Hypertensive Emergencies
治療の遅れは、脳の血管の損傷を進行させ、脳出血や脳梗塞といった取り返しのつかない事態を引き起こす可能性を高めます。
また、治療を始めるタイミングだけでなく、治療を行う病院の選択も大切です。
高血圧性脳症の管理には、血圧の細かい調整が必要で、これには集中治療室(ICU)での厳重な監視と、経験豊富な医療チームによる管理が必要です。
そのため、高血圧性脳症が疑われる場合は、このような高度な治療ができる病院へすぐに運ばれることが大切です。
点滴で血圧を下げる治療が中心
高血圧性脳症の治療の中心は、血圧を適切かつ慎重に下げることです。
この治療には、主に点滴による血圧を下げる薬が使われます。
口から飲む薬ではなく点滴を使う理由は、血圧の下がり方をより正確にコントロールできるためです。
- 最初の1時間:血圧を10〜15%下げる
- 24時間かけて:血圧を約25%下げる
- 注意点:急に血圧を下げすぎると脳梗塞のリスクがある
- 例:治療開始時220/120mmHgの場合、段階的に目標血圧に近づける
血圧を下げる時の目標は、急激すぎず、かつ遅すぎない適切な速度で血圧を下げることです。
一般的には、治療開始後の最初の1時間で血圧を10〜15%下げることが推奨されています。
その後、24時間かけて血圧を約25%下げることを目標とします。
例えば、治療開始時の血圧が220/120mmHgだった場合、急に血圧を下げるのではなく、段階的に目標の血圧に近づけていきます。
急に血圧を下げすぎることは避けなければなりません。
なぜなら、長年高血圧を持っている方の脳の血管は、高い血圧に慣れてしまっているため、血圧が急に下がると脳への血の流れが足りなくなり、かえって脳梗塞を引き起こす危険があるからです。
高血圧性脳症の治療に使われる主な薬
| 薬の名前 | 種類 | 特徴 |
|---|---|---|
| ニカルジピン | カルシウム拮抗薬 | 脳の血管への選択性が高い、脳への血流を保ちながら血圧を下げる |
| ラベタロール | αβ遮断薬 | 心臓の負担を減らしながら血圧を下げる |
| ニトロプルシド | 血管拡張薬 | 状況に応じて使用 |
| エスモロール | β遮断薬 | 状況に応じて使用 |
治療に使われる代表的な血圧を下げる薬には以下のようなものがあります。
ニカルジピンは、血管を広げる薬の一種で、脳血管拡張作用が比較的強く、脳への血流を保ちながら血圧を下げることができるため、高血圧性脳症の治療でよく使われます。
ラベタロールは、心臓の負担を減らしながら血圧を下げる効果があり、高血圧性脳症の治療でよく使われます。
その他、状況に応じてニトロプルシドやエスモロールといった薬も使われることがあります。
血圧を下げる治療と同時に、症状に応じた治療も行われます。
けいれん発作がある場合は抗てんかん薬を使い、脳のむくみが強い場合は脳の圧力を下げる治療を行うこともあります。
また、高血圧性脳症の原因となった元の病気(腎臓の病気や褐色細胞腫など)がある場合は、その治療も同時に行われます。
治療中は、血圧、心拍数、尿の量、血液検査の値などを頻繁に確認し、患者さんの状態を継続的に評価します。
神経の評価も定期的に行い、症状の改善や悪化を早く察知します。
血圧と症状が安定すれば、24時間以内を目安に口から飲む血圧を下げる薬に切り替えることができます。
適切な治療で多くの人が回復している
高血圧性脳症は、適切な治療により良好な経過が期待できる病気です。
早く診断され、適切な治療を受けた患者さんの多くは、神経の後遺症を残すことなく回復しています。
医学の文献によると、高血圧性脳症で適切な治療を受けた患者さんのその後の経過は一般的に良好で、多くの場合、神経の障害は完全に回復するか、軽い障害だけが残る程度であると報告されています。
特に妊娠高血圧症候群(子癇)に関連したケースでは、適切な管理により比較的良好な経過をたどる例が多いとされていますが、重症例では注意が必要です。
高血圧性脳症の予後に関するデータ
| 項目 | 割合・数値 | 研究出典 |
|---|---|---|
| 死亡 | 約19% | システマティックレビュー(Frontiers in Neurology, 2020) |
| 何らかの機能障害が残る | 44% | システマティックレビュー(Frontiers in Neurology, 2020) |
| 1年間の死亡率(発症後) | 10.4% | フランスの大規模研究(Hypertension, 2023) |
| 1年間の心不全発症率 | 8.6% | フランスの大規模研究(Hypertension, 2023) |
| 1年間の末期腎不全への進行率 | 9.0% | フランスの大規模研究(Hypertension, 2023) |
ただし、すべての患者さんが完全に回復するわけではありません。
一部の患者さんでは、永続的な神経の後遺症が残る可能性があります。
システマティックレビューによると、、高血圧性脳症を発症した患者さんのうち、約19%で死亡が報告され、44%で何らかの機能の障害が残ったとされています。
PRESは当初、良好な予後をもたらす可逆的な良性疾患として説明されていましたが、患者の19%に死亡が認められ、44%に様々な程度の機能障害が報告されています(9、10)。
引用:Frontiers in Neurology Posterior Reversible Encephalopathy Syndrome: Clinical Features and Outcome
その後の経過が悪くなる要因としては、脳梗塞や脳出血の合併、治療開始の遅れ、慢性腎臓病や心臓病などの他の病気の存在などが挙げられています。
画像検査の特徴もその後の経過に影響を与えます。
脳梁(左右の大脳をつなぐ部分)への病変の広がり、広い範囲の脳のむくみ、脳出血の合併、MRI上で元に戻らない脳の損傷を示す所見がある場合などは、その後の経過が悪いことと関連することが報告されています。
高血圧性脳症から回復した後も、長期的なフォローアップが大切です。
一度高血圧性脳症を発症した方は、再発のリスクが高いことが知られています。
また、将来的に心臓や血管の病気や腎臓病を発症するリスクも高まります。
フランスで行われた大規模な研究では、高血圧性脳症を経験した患者さんの1年間で亡くなる確率は10.4%、心不全の1年間の発症率は8.6%、末期腎不全に進む率は年間9.0%と、かなり高い値が報告されています。
HEの予後は不良でした(死亡:10.4%/年、心不全:8.6%/年、末期腎不全:9.0%/年、虚血性脳卒中:3.6%/年、出血性脳卒中:1.6%/年、認知症:4.1%/年)。
引用:American Heart Association Journals Characteristics and Prognosis of Patients With Hypertensive Encephalopathy: A French Nationwide Cohort Study
そのため、退院後も定期的に病院を受診し、血圧管理を続けることが非常に大切です。
血圧を下げる薬をきちんと飲み続け、定期的に血圧を測り、生活習慣の改善に取り組むことが再発予防につながります。
医師の指示なく勝手に薬をやめることは、再発のリスクを大きく高めるため、絶対に避けるべきです。
また、高血圧性脳症の原因となった元の病気(腎臓の病気やホルモンの病気など)がある場合は、その治療も続けて行う必要があります。
多くの職種(医師、看護師、薬剤師、栄養士など)のサポートを受けながら、総合的な健康管理を行っていくことが、長期的なその後の経過の改善につながります。
よくある質問
- 高血圧性脳症は突然起こるものですか
-
高血圧性脳症は、血圧が急に上がることで発症しますので、その意味では突然起こる病気といえます。
ただし、多くの場合、何かのきっかけがあります。
慢性的に高血圧を持っている方が血圧を下げる薬の服用をやめたり、腎臓の働きが急に悪くなったりすることで血圧が急に上がり、発症に至ることが多いです。
症状は通常、血圧が上がってから12〜48時間後に現れ始めるとされています。
- 高血圧の薬を飲んでいても発症することはありますか
-
はい、血圧を下げる薬を飲んでいても高血圧性脳症を発症する可能性はあります。
特に、複数の薬を飲んでいるのに血圧のコントロールが良くない方や、何らかの理由で薬の効果が急に弱まった場合などにリスクが高まります。
また、飲み忘れや自己判断で薬をやめることで、血圧が急に上がることもあります。
大切なのは、処方された薬をきちんと飲み、定期的に血圧を測って医師の指導を受けることです。
- 一度発症すると完全には治らないのでしょうか
-
高血圧性脳症は、早く適切な治療を受ければ多くの場合で完全に回復が期待できる病気です。
脳のむくみは元に戻る可能性があり、血圧を適切に下げることで症状が良くなります。
ただし、治療開始が遅れた場合や、すでに脳出血や脳梗塞といった元に戻らない変化が起こっている場合は、後遺症が残る可能性があります。
また、一度発症した方は再発のリスクが高いため、継続的な血圧管理が大切になります。
- 予防するために日常生活で気をつけることは
-
最も大切なのは、普段から血圧を適切に管理することです。
血圧を下げる薬を処方されている方はきちんと飲み続け、定期的に血圧を測りましょう。
生活習慣面では、以下のことが推奨されます。
- 塩分を控える(1日6g未満)
- 適正体重を保つ
- 週に150分以上の適度な運動をする
- お酒を飲みすぎない
- タバコを吸わない
- 十分な睡眠をとる
- ストレスを適切に管理する
また、定期的に病院を受診し、血圧や腎臓の働きなどをチェックしてもらうことも大切です。
- 家族に高血圧の人がいると自分もリスクが高いですか
-
家族歴は高血圧の大切なリスク要因の一つです。
両親や兄弟姉妹に高血圧の方がいる場合、ご自身も高血圧を発症するリスクが高くなる傾向があります。
ただし、遺伝的な要因だけでなく、家族で似た生活習慣を共有していることも影響している可能性があります。
家族に高血圧の方がいる場合は、若い頃から定期的に血圧を測り、生活習慣に気をつけることで、高血圧の発症や高血圧性脳症のリスクを減らすことができます。
まとめ
高血圧性脳症は、血圧が急に上がることで脳に障害が起きる重大な病気です。
慢性的な高血圧とは違い、数時間から数日以内に適切な治療を行わなければ、重い後遺症や死に至る可能性がある緊急性の高い状態です。
- 発症の主な原因:血圧を下げる薬を自己判断でやめる、腎臓の病気、妊娠高血圧症候群
- 見逃してはいけない症状:突然の激しい頭痛、吐き気、目の見え方の異常、意識の障害、けいれん
- すぐに救急車を呼ぶべき状態:けいれん発作、重度の意識障害、脳卒中様の症状
- ストレスとの関係:慢性的なストレス、働きすぎ、睡眠不足が血圧を上げ、間接的にリスクを高める
- 治療のタイミング:数時間以内の治療開始が回復のカギ
- 治療方法:点滴で慎重に血圧を下げる
- 予後:早期治療で多くの方が回復、治療が遅れると後遺症のリスク
- 血圧を下げる薬をきちんと飲み続ける(医師の指示なく中断しない)
- 定期的に血圧を測る
- 塩分を控える(1日6g未満)
- 適正体重を保つ
- 週に150分以上の適度な運動をする
- お酒を飲みすぎない
- 禁煙する
- 1日7〜9時間の十分な睡眠をとる
- ストレスを適切に管理する(深呼吸、瞑想、趣味など)
- 定期的に病院を受診する
発症の主な原因としては、血圧を下げる薬を自己判断でやめてしまうこと、腎臓の病気や妊娠高血圧症候群、その他の元の病気による血圧の急上昇が挙げられます。
突然の激しい頭痛、吐き気、目の見え方の異常、意識の障害、けいれんといった症状が現れた場合は、すぐに病院を受診するか、救急車を呼ぶ必要があります。
ストレスは血圧を上げる大切な要因で、慢性的なストレスや働きすぎ、睡眠不足は高血圧性脳症のリスクを高めます。
リラックス法、適度な運動、十分な睡眠など、日常的なストレス管理が予防につながります。
高血圧性脳症の治療は、主に点滴による薬を使って、慎重かつ適切な速度で血圧を下げることが中心となります。
早く適切な治療を受ければ、多くの方で完全に回復することが期待できます。
一方、治療が遅れると後遺症が残る可能性が高まります。
予防の鍵は、日頃からの適切な血圧管理にあります。
血圧を下げる薬を処方されている方はきちんと飲み続け、定期的に血圧を測り、医師の指導のもとで血圧をコントロールすることが最も大切です。
また、塩分を控える、適正体重を保つ、定期的な運動、禁煙、お酒を飲みすぎない、ストレス管理といった生活習慣の改善も、高血圧の予防と管理に大きく役立ちます。
高血圧性脳症は確かに深刻な病気ですが、適切な知識を持ち、日頃から血圧管理に気をつけることで、そのリスクを大きく減らすことができます。
血圧が高めだと指摘されたことがある方は、症状がなくても定期的に病院を受診し、必要に応じて治療を始めることをお勧めします。
また、突然の激しい頭痛やその他の異常な症状を感じた場合は、ためらわず病院を受診してください。
早く見つけて早く治療することが、健康を守る最良の方法です。
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