「お風呂に入ったら、立ち上がるときにクラッとした」「入浴後にめまいを感じる」このような経験はありませんか。
実は、入浴時には血圧が大きく変動することがあり、特に高血圧の方にとっては注意が必要な場面なのです。
厚生労働省の人口動態統計によると、高齢者の浴槽内での溺死・溺水による死亡者数は近年増加傾向にあり、令和3年には約4,750人、令和4年には5,824人にのぼり、交通事故死亡者数の約2倍という深刻な状況です。
- 温熱作用で血管が拡張し、風呂上がりは入浴前より血圧が低下する
- 副交感神経優位で血管拡張と心拍数低下が起こり、血圧が下がる
- 発汗による脱水で血液量が減少し、血圧が下がりやすくなる
- 急な立ち上がりで血液が下半身に溜まり、起立性低血圧を起こす
- 降圧剤服用者は薬の効果と重なり、血圧低下がより大きくなる
この背景には、入浴時の急激な血圧変動が主な要因の一つとして考えられています。
入浴は日本人にとって欠かせない生活習慣であり、疲れを癒し心身をリラックスさせる大切な時間です。
しかし、入浴時の血圧変動のメカニズムを理解し、適切な対策を取ることで、より安全に入浴を楽しむことができます。
本記事では、入浴時の血圧変動の仕組みから、高血圧の方が注意すべきポイント、安全な入浴方法まで、わかりやすく解説していきます。
- 入浴中と風呂上がりの血圧がどのように変化するか
- 血圧が変動する原因とそのメカニズム
- 高血圧の方が入浴時に気をつけるべきリスクと症状
- 安全に入浴するための具体的な方法
- 温泉や公衆浴場を利用する際の注意点
はじめに(免責・注意事項)
本記事は、高血圧に関する一般的な医学情報の提供を目的として作成されたものであり、特定の診断・治療を推奨するものではありません。
血圧の状態や治療方針は、年齢・体質・基礎疾患・服薬状況などにより個人差があります。降圧薬を含む医薬品の使用や生活習慣の改善を検討される場合は、必ず医師などの医療専門職にご相談のうえ、十分な説明を受けてからご自身の判断で行ってください。
また、本記事で紹介する内容の一部は、一般診療のほか自由診療に該当する可能性があります。保険適用の有無や費用、効果、副作用などについては、必ず受診先の医療機関で最新の情報をご確認ください。
本記事の情報は公開時点の医学的知見やガイドラインをもとにしていますが、今後の研究や法令改正により内容が変更となる場合があります。正確かつ最新の情報を得るために、公的機関(厚生労働省、日本高血圧学会など)や各医療機関の公式情報をあわせてご確認ください。
お風呂に入ると血圧はどう変わる?
入浴時の血圧変動は複雑で、入浴前、入浴中、風呂上がりと、それぞれの段階で血圧は大きく変わります。
一般的に、寒い脱衣所で衣服を脱ぐと血管が収縮して血圧が上昇し、その後熱いお湯に入るとさらに血圧が上がります。
しかし、体が温まってくると血管が拡張して血圧は下がり始め、風呂上がりには入浴前よりも低い血圧になることが多いとされています。
この血圧の変動幅は、お湯の温度が高いほど大きくなる傾向があります。
研究によると、日本人が好む42度程度のお湯では、血圧が約20mmHg上昇し、心拍数が約40回/分増加することが報告されており、このような血圧の変動は体に大きな負担となる可能性があります。
このような血圧の乱高下は、特に動脈硬化が進んでいる方や高齢者にとって大きな負担となる可能性があります。
研究では、高齢者の50~70%が熱い湯を好む傾向があることが報告されており、このような高温入浴は血圧の変動をより大きくする可能性があります。
入浴前から風呂上がりまでの血圧の流れ
入浴による血圧変動は、いくつかの段階を経て起こります。
まず、寒い脱衣所で裸になると、体温が急激に下がり、体は熱を逃さないように血管を収縮させます。
この時、血圧は急上昇します。
次に、熱いお湯に入ると、その刺激で交感神経が活発になり、血圧はさらに上昇する可能性があります。
しかし、体が温まってくると、今度は血管が拡張し始めます。
温熱作用により皮膚の血管が広がり、血液が全身に行き渡るようになると、血圧は徐々に下がっていきます。
浴槽につかっている間は、水圧によって下半身の血液が心臓に戻りやすくなり、心拍数が増加することもあります。
風呂上がりには、拡張した血管の影響で血圧が入浴前よりも低くなることが一般的です。
研究では、入浴後30分から60分程度は血圧が低い状態が続くことが確認されています。
入浴後に夕方の家庭血圧を測定する場合には、入浴による降圧作用を排除するために、被験者には入浴後 60 分以上待ってから測定を行うように指示する必要があります。
引用:PubMed Influence of nighttime bathing on evening home blood pressure measurements: how long should the interval be after bathing?
この時、急に立ち上がると、重力の影響で血液が下半身に溜まり、脳への血流が一時的に減少して、めまいや立ちくらみを起こすことがあります。
血圧が上がりやすいタイミングと下がりやすいタイミング
血圧が上がりやすいのは、入浴の初期段階です。
特に、寒い環境から急に熱いお湯に入った時、また42度以上の高温のお湯に入った時には、血圧が大きく上昇する可能性があります。
これは、急激な温度変化に対する体の防御反応として、血管が収縮するためです。
一方、血圧が下がりやすいのは、体が十分に温まった後と、風呂上がりの時間帯です。
温熱効果により血管が拡張し、全身の血液循環が良くなることで、血圧は自然と低下していきます。
また、入浴中に汗をかくことで体内の水分が減少し、これも血圧低下の一因となることがあります。
日本温泉気候物理医学会の研究によると、入浴後の血圧低下は、風呂上がり直後から数時間続くことが報告されており、特に高齢者や降圧剤を服用している方では、この血圧低下がより顕著に現れる可能性があることが指摘されています。
風呂上がりの血圧変動は誰にでも起こる現象
入浴時の血圧変動は、健康な方にも起こる自然な生理現象です。
若く健康な方であれば、体の調節機能がしっかり働くため、血圧変動による影響は少ないと考えられます。
しかし、高血圧、動脈硬化、心臓病などの持病がある方、また高齢者の場合は、血圧の変動に体がうまく対応できず、さまざまなリスクが高まる可能性があります。
研究では、地域在住の高齢者を対象とした調査で、入浴前から入浴30秒後にかけて脈拍が15回/分以上上昇した群では、収縮期血圧が約30mmHg上昇することが報告されています。
入浴前から入浴30秒後にかけてPRが15/分以上上昇した群のSBPは,入浴30秒後に約30 mmHg上昇した.
引用:J-STAGE 地域在住高齢者における入浴直後と出浴直後の血圧及び脈拍変動
このような急激な血圧変動は心臓や脳血管への負担となる可能性が示唆されていますが、これは病態生理的な推測であり、実際の脳出血発症との直接的な関連を追跡したものではありません。
また、出浴時にはめまいや立ちくらみ、転倒の危険性が指摘されています。
このように、入浴時の血圧変動は誰にでも起こりますが、その影響の大きさには個人差があります。
自分の体の状態を理解し、適切な対策を取ることが、安全な入浴につながります。
なぜお風呂で血圧が変わるのか?3つの理由
入浴時の血圧変動には、温度変化、自律神経の働き、水圧、そして脱水状態など、複数の要因が複雑に関わっています。
これらの要因を理解することで、なぜ入浴時に血圧が変動するのか、そしてどのように対策すればよいのかが見えてきます。
血圧変動のメカニズムを知ることは、高血圧の方が安全に入浴するための第一歩となります。
理由①:温度の変化で血管が縮んだり広がったりする
温度変化は、入浴時の血圧変動における最も大きな要因の一つです。
人間の体は、体温を一定に保とうとする機能が備わっており、外部の温度が変わると、体はさまざまな反応を起こします。
寒い環境では、体温を逃さないために血管が収縮します。
これは、皮膚の血管を細くすることで、体表面からの熱の放散を防ぐためです。
血管が収縮すると、同じ量の血液を流すためにはより高い圧力が必要となるため、血圧が上昇します。
特に、暖房のない脱衣所や浴室では、室温が10度以下になることもあり、裸になった瞬間に体表面全体の温度が急激に下がることで、血圧が大きく上昇する可能性があります。
一方、温かいお湯に入ると、今度は血管が拡張します。
温熱作用により、皮膚の血管が広がり、血液が全身に行き渡りやすくなります。
血管が拡張すると、血液が流れるスペースが広くなるため、血圧は下がっていきます。
しかし、最初に熱いお湯に入った瞬間は、その刺激で一時的に血圧が上昇することがあるため、注意が必要です。
政府広報オンラインによると、42度のお湯で10分間入浴すると、体温が38度近くに達し、高体温による意識障害を起こす危険性が高まることが報告されています。
また、入浴後の血圧低下は、お湯の温度が高いほど大きくなる傾向があることも確認されています。
理由②:自律神経が体をコントロールしている
自律神経は、私たちの意識とは関係なく、体の機能を自動的に調節している神経システムです。
自律神経には、交感神経と副交感神経の2種類があり、この2つがバランスよく働くことで、血圧や心拍数などが適切に保たれています。
交感神経は、緊張や興奮を促す神経で、活動時に優位になります。
寒い環境に身を置いたり、熱いお湯に入ったりすると、交感神経が刺激されます。
交感神経が活発になると、血管を収縮させるホルモンが分泌され、心拍数が増加し、血圧が上昇します。
特に、42度以上の熱いお湯に入ると、交感神経が強く刺激され、体が覚醒状態になり、血圧が上がりやすくなります。
自律神経の働きと血圧の関係
| 項目 | 交感神経 | 副交感神経 |
|---|---|---|
| 主な役割 | 緊張・興奮を促す(活動モード) | 休息・リラックスを促す(休息モード) |
| 活発になる状況 | 寒い環境、熱いお湯(42℃以上)など | ぬるめの入浴(38〜41℃)、安静・就寝前など |
| 体への影響 | 心拍数が増加し、血管が収縮。体が覚醒状態になる | 心拍数が低下し、血管が拡張。体が落ち着く |
| 血圧への影響 | 上昇する | 低下・安定する |
一方、副交感神経は、リラックスや休息を促す神経です。
体が温まり、ぬるめのお湯にゆったりと浸かると、副交感神経が優位になります。
副交感神経が活発になると、血管が拡張し、心拍数が落ち着き、血圧が下がります。
38度から41度程度のぬるめのお湯に10分から15分程度浸かることで、副交感神経が働き、リラックス効果とともに、血圧の安定が期待できます。
このように、入浴時の温度設定によって、どちらの神経が優位になるかが変わり、それに伴って血圧も変動するのです。
高血圧の方は、副交感神経を優位にするようなぬるめのお湯での入浴が推奨されています。
理由③:汗をかいて体の水分が減る
入浴中は、体温が上がることで汗をかきます。
汗によって体内の水分が失われると、血液の量が減少し、これが血圧の変動に影響を与えます。
脱水状態になると、血液の粘度が高くなり、血液が流れにくくなります。
また、血液量が減ることで、心臓が全身に血液を送り出す際の圧力も変化します。
軽度の脱水であれば、体は血圧を維持しようとしますが、脱水が進むと、血圧が下がりやすくなります。
特に風呂上がりは、入浴中に失われた水分の影響で、血圧が低下しやすい状態にあります。
この時に急に立ち上がると、重力の影響も加わって、脳への血流が一時的に減少し、めまいや立ちくらみを起こす可能性が高まります。
そのため、入浴前後での水分補給の重要性が指摘されています。
入浴前にコップ1杯程度の水分を摂取することで、入浴中の脱水を予防し、血圧の急激な低下を防ぐことができる可能性があります。
また、入浴後にも水分補給を行うことで、体内の水分バランスを整え、血圧の安定につながると考えられています。
高血圧の人がお風呂で気をつけたいこと
高血圧の方にとって、入浴時の血圧変動は特に注意が必要です。
高血圧の状態が続くと、血管に負担がかかり、動脈硬化が進行することがあります。
このような状態で急激な血圧変動が起こると、さまざまな健康リスクが高まる可能性があります。
また、降圧剤を服用している方は、薬の効果と入浴による血圧低下が重なって、血圧が下がりすぎることもあるため、より慎重な対応が求められます。
ここでは、高血圧の方が入浴時に注意すべき具体的なリスクと、その際に現れる可能性がある症状について解説します。
急な血圧変化で起きる危険な病気
急激な血圧変動は、心臓や血管に大きな負担をかけることがあります。
特に、血圧が急上昇した時には、脳出血や心筋梗塞などの重篤な疾患を引き起こすリスクが高まる可能性があります。
日本の研究では、介護現場における入浴前の収縮期血圧が160mmHg以上の場合、入浴事故のリスクが3.63倍に増加し、拡張期血圧が100mmHg以上の場合は、リスクが14.71倍に増加することが報告されています。
このことから、入浴前の血圧が高い状態では、入浴自体を控えることが推奨される場合があります。
また、血圧が急降下する場合にも注意が必要です。
風呂上がりに血圧が急激に下がると、脳への血流が不足し、めまいや失神を起こすことがあります。
浴室内で意識を失うと、浴槽内で溺れてしまう危険性があるため、特に注意が必要です。
実際に、厚生労働省の統計によると、高齢者の浴槽内での溺死・溺水による死亡者数は、交通事故による死亡者数を大きく上回っており、その多くが入浴時の血圧変動に関連していると考えられています。
高血圧で治療中の方は、普段から血管に負担がかかっている状態にあるため、急激な血圧変動がより深刻な影響を及ぼす可能性があります。
こんな症状が出たら要注意!入浴中の体のサイン
入浴中に体調の異変を感じたら、それは血圧が大きく変動しているサインかもしれません。
早めに気づいて対処することで、重大な事故を防ぐことができます。
血圧が上がりすぎている時には、以下のような症状が現れることがあります。
- 頭痛
- 動悸
- 息苦しさ
- 顔が赤くなる
- 汗が大量に出る
- 胸が苦しいと感じる
このような症状を感じたら、すぐにお湯から出て、涼しい場所で休息を取ることが大切です。
一方、血圧が下がりすぎている時には、以下の症状が現れることがあります。
- めまい
- 立ちくらみ
- 目の前が暗くなる感じ
- ふらつき
- 気分不快
- 吐き気
これらは、起立性低血圧と呼ばれる状態で、立ち上がった時に血圧が急激に下がることで起こります。
特に風呂上がりは血管が拡張しているため、起立性低血圧が起こりやすい状態にあります。
東京消防庁の救急搬送データによると、入浴中の事故で救急搬送される高齢者の約9割が重症以上と診断されており、年によっては4~5割が死亡に至る深刻なケースとなっています。
このような重大な事故を防ぐためにも、少しでも体調に異変を感じたら、無理をせずにすぐに対処することが重要です。
入浴中に異変を感じた場合、まず浴槽の栓を抜いて水位を下げ、可能であれば浴槽のへりにつかまりながらゆっくりと姿勢を変えることが推奨されています。
また、一人で入浴している場合は、大声で助けを呼ぶことも大切です。
冬に多い「ヒートショック」とは
ヒートショックとは、急激な温度変化によって血圧が大きく変動し、それが原因で健康被害が生じることを指します。
入浴時のヒートショックは、冬季に特に多く発生することが知られています。
消費者庁の報告によると、入浴中の事故は11月から4月にかけての寒い時期に集中しています。
また、研究では、東京都における入浴中の心肺停止が1月は8月の約10.7倍発生することが報告されています。
これは、暖かい居室と寒い脱衣所・浴室との温度差が大きくなることが主な原因と考えられています。
ヒートショックのメカニズムは次のようになります。
- 寒い脱衣所に移動
暖かい部屋から寒い場所へ移動すると、寒冷刺激により血管が収縮し、血圧が急上昇する。 - 熱いお湯に入浴
さらに高温刺激で交感神経が働き、血圧が一段と上昇する。 - 体が温まり血管が拡張
しばらくすると血管が広がり、血圧が急降下する。 - 血圧の乱高下が発生
この急激な変動により、心筋梗塞・脳卒中・不整脈などを引き起こすリスクが高まる。
高血圧、糖尿病、脂質異常症などの生活習慣病がある方は、動脈硬化が進行していることがあるため、血圧変動による影響を受けやすいとされています。
また、高齢者は体温調節機能が低下しているため、若い方に比べてヒートショックのリスクが高いことが指摘されています。
政府広報オンラインでは、ヒートショック予防のための具体的な対策が紹介されており、脱衣所や浴室を事前に暖めておくこと、お湯の温度を41度以下にすること、入浴時間を10分以内にすることなどが推奨されています。
高血圧の方のための安全な入浴方法
高血圧の方でも、適切な方法で入浴すれば、安全にお風呂を楽しむことができます。
重要なのは、血圧の急激な変動を避けることです。
そのためには、お湯の温度、入浴時間、浴室の環境など、いくつかのポイントに注意する必要があります。
また、入浴前後の水分補給や、入浴のタイミングも大切です。
ここでは、高血圧の方が安全に入浴するための具体的な方法を、科学的な根拠とともに解説します。
これらのポイントを押さえることで、入浴による健康リスクを減らし、リラックス効果を最大限に得ることができます。
適切なお湯の温度と入浴時間
お湯の温度は、入浴時の血圧変動に大きく影響します。
高血圧の方には、38度から41度程度のぬるめのお湯が推奨されています。
42度以上の熱いお湯は、交感神経を刺激して血圧を上昇させるため、避けた方が良いとされています。
ぬるめのお湯には、副交感神経を優位にする効果があります。
副交感神経が働くと、体がリラックス状態になり、血管が拡張して血圧が下がりやすくなります。
また、ぬるめのお湯であれば、体への負担も少なく、安全に入浴を楽しむことができます。
適切なお湯の温度と入浴時間
| 項目 | 推奨内容 | 理由・効果 |
|---|---|---|
| お湯の温度 | 38〜41℃(ぬるめ) | 副交感神経が優位になり、リラックス効果・血圧安定・体への負担軽減 |
| 入浴時間 | 10分以内 | 深部体温の過度な上昇や脱水を防ぐ。意識障害リスクを低減 |
| 入浴方法 | 半身浴(みぞおち程度) | 水圧負担が少なく、心臓への影響を抑えながら体を温められる |
| 安全対策 | 温度計・タイマーを活用 | 温度と時間を「見える化」して安全管理を徹底 |
入浴時間についても注意が必要です。
消費者庁の資料では、湯につかる時間は10分以内を目安とすることが推奨されています。
長時間の入浴は、体温の上昇や脱水を引き起こし、意識障害のリスクを高める可能性があります。
実際、41~42度のお湯で約10分間入浴すると、深部体温が約1℃上昇し38度近くに達し、高体温による意識障害を起こす危険性があることが報告されています。
また、肩まで全身浴をするよりも、みぞおちあたりまでの半身浴の方が、心臓への負担が少ないとされています。
全身浴では、水圧によって心臓に多くの血液が戻ってくるため、心臓への負担が大きくなります。
半身浴であれば、水圧の影響を最小限に抑えながら、体を温めることができます。
温度計やタイマーを活用して、お湯の温度や入浴時間を「見える化」することも、安全な入浴のために有効な方法です。
入浴前と風呂上がりに水を飲もう
入浴中は汗をかくため、体内の水分が失われます。
脱水状態になると、血液の粘度が高くなり、血栓ができやすくなるほか、血圧の変動も大きくなる可能性があります。
そのため、入浴前後の水分補給は非常に重要です。
入浴前には、コップ1杯程度の水を飲むことが推奨されています。
これにより、入浴中の脱水を予防し、血液の流れを良好に保つことができます。
水分補給は、血液の粘度を下げる効果があるため、血栓の形成を防ぐ可能性があります。
入浴後にも、失われた水分を補給するために、水やスポーツドリンクなどを飲むことが大切です。
特に高齢者は、喉の渇きを感じにくくなっていることがあるため、意識的に水分を摂取する必要があります。
ただし、入浴中に喉が渇いたと感じたら、無理に我慢せず、一度浴槽から出て水分補給をすることも検討してください。
また、入浴前後だけでなく、就寝前や起床後にも水分補給を行うことで、一日を通して体内の水分バランスを保つことができます。
なお、アルコールには利尿作用があり、飲酒後は脱水状態になりやすいため、飲酒後の入浴は避けることが推奨されています。
アルコールによって血管が拡張しているところに、入浴による血管拡張が加わると、血圧が急激に下がり、意識を失う危険性が高まります。
脱衣所とお風呂場を暖かくしておく
ヒートショックを防ぐためには、室温の管理が非常に重要です。
暖かい部屋と寒い脱衣所・浴室との温度差が大きいほど、血圧の変動も大きくなります。
脱衣所には、電気ストーブやヒーターなどの暖房器具を設置して、入浴前に温めておくことが推奨されています。
脱衣所を暖めておくことで、裸になった時の寒冷刺激を減らし、血圧の急上昇を防ぐことができます。
浴室についても、事前に温めておくことが大切です。
浴槽のふたを開けておいたり、入浴前にシャワーでお湯を高い位置から流して湯気を立てたりすることで、浴室内の温度を上げることができます。
浴室暖房がある場合は、入浴前に運転しておくと良いでしょう。
消費者庁の資料では、脱衣所や浴室の温度について、温度計を活用して「見える化」することが推奨されています。
具体的な温度を確認することで、適切な温度管理がしやすくなります。
また、入浴前にかけ湯をすることも効果的です。
心臓から遠い足先の方から、徐々に肩まで温かいお湯をかけることで、体をお湯の温度に慣らすことができます。
これにより、急にお湯に入った時の血圧の急上昇を防ぐことができるとされています。
食後・飲酒後は避ける|入浴に適したタイミング
入浴のタイミングも、安全性に影響します。避けるべき状況を知っておくことで、入浴による事故のリスクを減らすことができます。
まず、食後すぐの入浴は避けることが推奨されています。
食後は、消化のために血液が胃腸に集まっており、この状態で入浴すると、さらに皮膚の血管に血液が流れ、脳への血流が不足する可能性があります。
高齢者では食後低血圧が起こりやすく、食後60~120分に血圧が低下しやすいことが知られています。
食後1~2時間以内に血圧が低下することが多く,食後 2 時間以内の血圧測定では血圧レベルを過小評価する可能性がある.
引用:日本老年医学会「高齢者の生活機能を考慮した高血圧管理 「高齢者高血圧診療ガイドライン2017」 の活用」
そのため、食後は少なくとも1時間、できれば2時間程度の時間を空けてから入浴することが望ましいとされています。
飲酒後の入浴も危険です。
アルコールには血管を拡張させる作用があり、血圧を下げる効果があります。
この状態で入浴すると、入浴による血圧低下と重なって、急激な血圧低下を引き起こす可能性があります。
飲酒後は、アルコールが十分に抜けるまで、入浴を控えることが推奨されています。
また、降圧剤などの医薬品を服用した直後の入浴にも注意が必要です。
薬の効果と入浴による血圧低下が重なると、血圧が下がりすぎる可能性があります。
特に高齢者では起立性低血圧や食後低血圧により、転倒・失神のリスクが増すことがあります。
薬を服用している方は、主治医に入浴のタイミングについて相談することをお勧めします。
体調が悪い時、特に発熱している時や血圧が普段より高い時には、入浴を控えた方が安全です。
起床直後も、血圧や脈拍の変動が大きい時間帯であるため、起きてから1時間程度経ってから入浴する方が安全とされています。
温泉や銭湯に行くときの注意点
温泉や公衆浴場は、日本の文化として多くの人々に親しまれています。
自宅のお風呂とは異なる開放感や、温泉特有の成分による効能を期待して、温泉地を訪れる方も多いでしょう。
しかし、高血圧の方が温泉や公衆浴場を利用する際には、自宅での入浴以上に注意が必要な点があります。
温泉のお湯は一般的に温度が高めに設定されていることが多く、また広い浴槽では長時間入浴しがちです。
さらに、旅行中の興奮や疲れなども、体調に影響を与える可能性があります。
ここでは、高血圧の方が温泉や公衆浴場を安全に楽しむためのポイントを解説します。
温泉を安全に楽しむために知っておきたいこと
温泉には、さまざまな健康効果が期待できるとされています。
環境省が日本温泉気候物理医学会の協力を得て策定した基準では、軽度の高血圧は温泉の一般的適応症に含まれており、適切に利用すれば、高血圧の改善に役立つ可能性があることが示されています。
研究では、夜間の温泉入浴と翌朝の血圧低下との関連が報告されています。
特に、就寝前の温泉入浴は、翌朝の血圧を低下させる可能性が示唆されています。
高齢者において、夜間の温泉入浴は翌朝の収縮期血圧の低下と有意に関連していました。
引用:PubMed Central Night-Time Hot Spring Bathing Is Associated with a Lower Systolic Blood Pressure among Japanese Older Adults: A Single-Institution Retrospective Cohort Study
ただし、これは適切な方法で入浴した場合の効果であり、誤った方法での入浴は逆に危険を伴います。
温泉を利用する際には、まず自分の体調を確認することが大切です。
旅行の疲れがある場合や、いつもより血圧が高いと感じる場合は、無理をせず休息を優先しましょう。
また、温泉施設の多くでは、入浴前に血圧を測定できる設備が用意されていることがあります。
特に高血圧で治療中の方は、入浴前に血圧を確認することをお勧めします。
温泉のお湯の温度は、施設によって異なりますが、多くの場合、自宅のお風呂よりも高めの温度に設定されています。
熱いお湯が好きな方も多いかもしれませんが、高血圧の方は、できるだけ温度が低めの浴槽を選ぶことが推奨されています。
また、温泉には露天風呂があることも多く、開放的な雰囲気でついつい長湯をしてしまいがちですが、入浴時間は10分程度を目安にし、長時間の入浴は避けましょう。
海外の研究でも、治療によりコントロールされている高血圧患者が40度程度の温浴に10分間浸かった場合、血圧は一時的に下がるものの、症状を伴うような過度の血圧低下は起こらず、概ね安全であることが報告されています。
高血圧治療を受けている患者のほとんどにとって、温水浴槽に10分間浸かることは安全であると考えられます。
引用:PubMed Central Are hot tubs safe for people with treated hypertension?
ただし、個人差が大きいため主治医への相談が前提であり、高温や長時間の入浴では異なる結果となる可能性があります。
熱すぎるお湯や水風呂は避けよう
温泉には、さまざまな泉質があり、それぞれ異なる特徴を持っています。
環境省の資料によると、泉質によっては、特定の病気や状態の方に禁忌とされているものがあります。
高血圧の方が特に注意すべきは、高温の温泉です。
温泉地によっては、源泉の温度が非常に高く、42度以上の高温泉となっている場合があります。
このような高温泉は、交感神経を刺激して血圧を上昇させる可能性が高いため、高血圧の方は避けた方が良いとされています。
環境省の基準では、塩分制限が必要な病態(腎不全、心不全、虚血性心疾患など)の方は、塩化物泉などの飲用を避けることが明記されています。
浴用での経皮吸収は少量とされていますが、塩分制限が必要な方は、温泉の泉質について主治医に相談することをお勧めします。
避けた方がよい泉質や入浴スタイル
| 避けた方がよい内容 | 理由・リスク |
|---|---|
| 高温泉(42℃以上) | 交感神経を刺激し、血圧上昇や心臓への負担を招く |
| 塩化物泉(塩分濃度が高い温泉) | 腎不全・心不全・虚血性心疾患などで塩分制限が必要な方には不向き |
| 温冷交代浴(熱湯と水風呂を交互に入る) | 急激な血圧変動により、心筋梗塞や脳卒中のリスクが高まる |
| 熱いお湯への長時間入浴 | 深部体温上昇・脱水・血圧上昇による意識障害の危険 |
| 繰り返しの入浴(1日に何度も入る) | 体への負担が蓄積し、血圧や循環機能に悪影響を与える |
入浴スタイルについても、いくつか注意点があります。
まず、熱い温泉に入った後、すぐに冷たい水風呂に入るという行為は、血圧の乱高下を招く可能性が高く、非常に危険です。
温度差が大きいほど、血管への負担も大きくなります。
温泉施設によっては、温冷交代浴を推奨している場合もありますが、高血圧の方や心臓に問題がある方は、このような入浴方法は避けることが推奨されています。
また、温泉地では、一日に何度も入浴する習慣があることも珍しくありません。
しかし、繰り返しの入浴は、体に大きな負担をかける可能性があります。
特に、毎回長時間入浴したり、熱いお湯に何度も入ったりすることは、避けた方が良いでしょう。
何度も入浴するのは体に負担がかかる
温泉地を訪れると、つい長時間入浴したくなるものです。
しかし、長時間の入浴には、いくつかのリスクがあります。
まず、体温の上昇です。
長時間お湯に浸かっていると、体温が上がり続け、高体温の状態になることがあります。
体温が38度を超えると、意識障害を起こすリスクが高まります。
特に温泉のお湯は温度が高めであることが多いため、より短時間で体温が上昇する可能性があります。
次に、脱水の問題です。
長時間入浴すると、大量の汗をかき、体内の水分が失われます。
脱水状態になると、血液の粘度が高くなり、血液が流れにくくなります。
また、脱水によって血圧が不安定になり、めまいや失神を起こす可能性も高まります。
こうした脱水による血液濃縮は、血栓形成のリスクを高める可能性があるとされています。
長時間・繰り返し入浴による主なリスクと影響
| リスクの種類 | 起こる理由 | 主な影響・症状 | 注意点・対策 |
|---|---|---|---|
| 体温の上昇 | 長時間入浴により深部体温が上昇 | 38℃を超えると意識障害のリスク増大 | 10分以内を目安に短時間入浴を心がける |
| 脱水の問題 | 発汗により体内の水分が失われる | 血液が濃縮し、血栓・めまい・失神のリスク上昇 | 入浴前後に十分な水分補給を行う |
| 心臓への負担 | 水圧・温熱で心拍数が増加 | 不整脈・心筋梗塞などのリスク増加 | 入浴回数を1〜2回に抑え、無理せず休息を取る |
さらに、心臓への負担も増加します。
入浴中は、水圧や温熱の影響で心拍数が増加し、心臓が活発に働いています。
長時間この状態が続くと、心臓への負担が大きくなり、特に心臓に問題がある方では、不整脈や心筋梗塞などのリスクが高まる可能性があります。
一日に何度も入浴する繰り返し入浴についても、同様のリスクがあります。
それぞれの入浴時間は短くても、一日のトータルでの入浴時間が長くなると、体への負担は大きくなります。
温泉地では、朝風呂、昼風呂、夜風呂と、一日に3回以上入浴することも珍しくありませんが、高血圧の方や高齢者の方は、一日の入浴回数を1〜2回程度に抑えることが推奨されています。
温泉を楽しむためには、「短時間で、回数を控えめに」という原則を守ることが大切です。
また、入浴の合間には十分な休息と水分補給を取り、体調の変化に注意を払いましょう。
よくある質問(FAQ)
- 風呂上がりに血圧が下がるのは危険ですか?
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風呂上がりに血圧が下がるのは自然な現象ですが、急激に下がりすぎると危険な場合があります。
特に降圧剤を服用している方は、薬の効果と入浴による血圧低下が重なり、めまいや失神を起こす可能性があるため、浴槽からゆっくり立ち上がることが大切です。
- 高血圧の薬を飲んでいる場合、入浴で注意することはありますか?
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降圧剤を服用している方は、入浴による血圧低下がより大きくなる可能性があります。
薬を飲んだ直後の入浴は避け、入浴前に血圧を測定することをお勧めします。
また、浴槽から立ち上がる時は、必ず何かにつかまりながらゆっくりと立ち上がるようにしましょう。
- 朝と夜、どちらに入浴する方が血圧への影響が少ないですか?
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起床直後は血圧や脈拍の変動が大きい時間帯であるため、起きて1時間程度経ってから入浴する方が安全です。
夜の入浴は、副交感神経を優位にして睡眠の質を高める効果が期待できますが、就寝直前よりも1〜2時間前に入浴する方が良いとされています。
- サウナは高血圧の人でも利用できますか?
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サウナは急激な温度変化と高温環境による血圧の乱高下を招きやすく、高血圧の方には推奨されません。
特に高温サウナから水風呂へ移動する行為は、血管に大きな負担をかけるため避けるべきです。
個別の適応については、必ず主治医に相談してください。
- 入浴中にめまいを感じたらどうすればよいですか?
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すぐに浴槽の栓を抜いて水位を下げ、浴槽のへりにつかまりながら姿勢を低くします。
可能であれば大声で助けを呼び、無理に立ち上がらないようにしましょう。
めまいが治まらない場合や、意識がもうろうとする場合は、すぐに医療機関を受診してください。
まとめ
入浴時の血圧変動は誰にでも起こる自然な現象ですが、高血圧の方にとっては特に注意が必要です。
本記事で解説したように、入浴時には温度変化、自律神経の働き、脱水状態などが複雑に関わり合って血圧が変動します。
安全に入浴するためのポイントは、お湯の温度を38〜41度程度に保つこと、入浴時間を10分以内にすること、脱衣所や浴室を事前に暖めておくこと、そして入浴前後に水分補給をすることです。
また、食後すぐや飲酒後の入浴は避け、体調が悪い時には無理をせず入浴を控えることも大切です。
高血圧で治療中の方は、入浴前に血圧を測定し、160/100mmHg以上の場合は入浴を控えることが推奨されています。
また、降圧剤を服用している方は、薬の効果と入浴による血圧低下が重なる可能性があるため、より慎重な対応が必要です。
温泉や公衆浴場を利用する際には、高温のお湯や長時間の入浴、温冷交代浴などは避け、自分の体調に合わせて無理のない範囲で楽しむことが大切です。
入浴は日本人の生活に欠かせない習慣であり、適切な方法で行えば、心身のリラックスや疲労回復に大きな効果があります。
本記事で紹介したポイントを参考に、安全で快適な入浴を心がけましょう。
もし入浴時の血圧管理について不安がある場合は、かかりつけの医師に相談することをお勧めします。
個々の健康状態に合わせた具体的なアドバイスを受けることで、より安心して入浴を楽しむことができるでしょう。
政府広報オンライン 交通事故死の約2倍?!冬の入浴中の事故に要注意!
武田薬報「疲労回復に導く入浴の効果」
九州大学学術情報リポジトリ Effect of water bath temperature on physiological parameters and subjective sensation in older people
J-STAGE 温泉入浴の効能と心血管機能に与える影響
J-STAGE 地域在住高齢者における入浴直後と出浴直後の血圧及び脈拍変動
厚生労働科学研究成果データベース 「入浴と各種生体機能」
J-STAGE 入浴介護に関連した体調不良・事故発生と入浴前血圧,体温との関連:症例対照研究
東京消防庁「 STOP! 高齢者の事故~転倒・おぼれ・窒息事故を防ごう ~」
消費者庁 冬季に多発する高齢者の入浴中の事故に御注意ください! -自宅の浴槽内での不慮の溺水事故が増えています-
厚生科学指定型研究入浴関連事故研究班(日本法医学会・日本温泉気候物理医学会・日本救急医学会)「気をつけて!冬のお風呂の死亡事故」
環境省「あんしん・あんぜんな 温泉利用のいろは」
消費者庁「冬季に多発する高齢者の入浴中の事故に御注意ください!-11 月 26日は「いい風呂」の日-」
日本老年医学会「高齢者の生活機能を考慮した高血圧管理 「高齢者高血圧診療ガイドライン2017」 の活用」
環境省「温泉法第18条第1項の規定に基づく禁忌症及び入浴又は飲用上の注意に掲示等に関する新旧対照表 (案)」
PubMed Central Are hot tubs safe for people with treated hypertension?
消費者庁「サウナ浴での事故に注意 ー 体調に合わせて無理せず安全に ー」
Chinese Medical Journal Effects of a carbohydrate-electrolyte beverage on blood viscosity after dehydration in healthy adults
厚生労働省「健康づくりのための睡眠ガイド 2023」
PubMed Reduction in central blood pressure after bathing in hot water


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