高血圧の治療や予防を考えるとき、「お酒をやめたら血圧は下がるのだろうか」「どのくらいの期間で効果が出るのだろうか」と疑問に思われる方は少なくありません。
健康診断で血圧が高めだと指摘され、日常的にお酒を飲む習慣がある方にとって、禁酒と血圧の関係は気になるテーマではないでしょうか。
実は、お酒をやめることで血圧が改善する可能性があることは、多くの研究で報告されています。
- 早い人では禁酒開始から3〜4日で血圧低下が始まる(特に大量飲酒者)
- 多くの人は1〜2週間程度で血圧低下効果が現れる
- 研究では1ヶ月の禁酒で高血圧者の約7割が正常血圧に改善
- 禁酒による血圧低下の程度は飲酒習慣・血圧状態・体質で大きく異なる
特に、日常的に飲酒する習慣がある方が禁酒を始めると、比較的短い期間で血圧に変化が現れることがわかっています。
この記事では、禁酒によって血圧がいつ頃から下がり始めるのか、なぜアルコールが血圧を上げるのか、そして禁酒以外にどのような対策が効果的なのかについて、医学的な根拠をもとに解説していきます。
- お酒をやめてから血圧が下がり始めるまでの期間
- アルコールが血圧を上昇させる仕組み
- 禁酒による血圧改善の具体的な効果
- 血圧を下げるために禁酒と組み合わせたい生活習慣
- お酒と血圧に関するよくある疑問への回答
はじめに(免責・注意事項)
本記事は、高血圧に関する一般的な医学情報の提供を目的として作成されたものであり、特定の診断・治療を推奨するものではありません。
血圧の状態や治療方針は、年齢・体質・基礎疾患・服薬状況などにより個人差があります。降圧薬を含む医薬品の使用や生活習慣の改善を検討される場合は、必ず医師などの医療専門職にご相談のうえ、十分な説明を受けてからご自身の判断で行ってください。
また、本記事で紹介する内容の一部は、一般診療のほか自由診療に該当する可能性があります。保険適用の有無や費用、効果、副作用などについては、必ず受診先の医療機関で最新の情報をご確認ください。
本記事の情報は公開時点の医学的知見やガイドラインをもとにしていますが、今後の研究や法令改正により内容が変更となる場合があります。正確かつ最新の情報を得るために、公的機関(厚生労働省、日本高血圧学会など)や各医療機関の公式情報をあわせてご確認ください。
お酒をやめると数日〜2週間で血圧が下がり始める
禁酒を始めてから血圧がどのくらいの期間で下がるのかは、多くの方が最も知りたいポイントでしょう。
結論から申し上げると、禁酒による血圧低下の効果は思いのほか早く現れることがわかっています。
海外の複数の研究によれば、お酒をやめてから血圧が下がり始めるまでの期間には個人差があるものの、早い方では数日以内に変化が見られ、多くの場合は1〜2週間程度で効果が現れ始めます。
この血圧低下のスピードは、多くの方が予想するよりも速い傾向にあります。
禁酒による血圧改善効果を示した主要研究の比較
| 項目 | イタリア研究 (Soardo 2006) | スペイン研究 (Aguilera 1999) |
|---|---|---|
| 対象者 | 高血圧を伴う大量飲酒者14名 | 大量飲酒者42名(男性) |
| 禁酒前の飲酒量 | 1日200g以上 | 1日100g以上 |
| 禁酒期間 | 30日間 | 1ヶ月間 |
| 効果発現時期 | 3日目から血圧低下開始 | 1ヶ月後に測定 |
| 血圧低下の結果 | 13/14名(93%)が 正常血圧に改善 | 収縮期:-7.2 mmHg 拡張期:-6.6 mmHg |
| 高血圧該当率の変化 | (データなし) | 42% → 12% |
| 測定方法 | 通常血圧測定 | 24時間血圧測定(ABPM) |
イタリアの研究では、1日200g以上のアルコールを摂取していた大量飲酒者が禁酒を始めた場合、禁酒開始から3日目には血圧が有意に低下し始めたことが報告されています。
さらに、その研究では14名の高血圧を伴う大量飲酒者のうち13名が30日以内に血圧が正常範囲まで改善したという結果も示されています。
また、スペインで行われた別の研究では、1日100g以上のアルコールを摂取していた42名の男性が1ヶ月間完全に禁酒したところ、24時間血圧測定による収縮期血圧が平均7.2 mmHg、拡張期血圧が平均6.6 mmHg低下したことが確認されました。
この研究では、もともと高血圧と判定されていた方(24時間血圧測定で昼間の血圧が135/85 mmHg以上)の割合が、禁酒前の42%から禁酒後には12%まで減少したという注目すべき結果が得られています。
つまり、高血圧だった方の約7割が、1ヶ月の禁酒だけで正常血圧に戻ったということになります。
これらのデータは、禁酒が血圧管理において非常に効果的な手段であることを示しています。
ただし、効果の現れ方には個人差があり、飲酒量や期間、体質などによって異なることも理解しておく必要があります。
早い人は3〜4日、平均では1〜2週間で効果が出る
禁酒による血圧低下の効果が現れるタイミングには幅がありますが、多くの研究から以下のような傾向が見えてきます。
まず、禁酒開始後の最初の数日間については、血圧の変化が最も顕著に現れる時期です。
アメリカの大規模研究では、アルコール依存症の治療を受けた1,383名を対象に調査したところ、治療開始後の最初の1ヶ月間で血圧低下が見られました。
特に、治療開始時の血圧が中央値以上だった方では、収縮期血圧が平均12 mmHg、拡張期血圧が平均8 mmHg低下したことが報告されています。
禁酒後の短期間における血圧変化を示した研究
| 項目 | アメリカ大規模研究 (COMBINE Study 2008) | アルコール依存症患者の研究 (Alcohol & Alcoholism 2006) | 週末飲酒パターンの研究 (PRIME Study 2001) |
|---|---|---|---|
| 対象者 | アルコール依存症治療患者 1,383名 | 慢性アルコール依存症患者 147名 | 北アイルランドとフランスの 飲酒者(一般成人) |
| 研究目的 | 治療中の血圧変化を評価 | 禁酒後の血圧変化を追跡 | 飲酒パターンと血圧の 曜日変動を調査 |
| 効果発現時期 | 最初の1ヶ月 | 18日後 | 直近3日間の飲酒が影響 |
| 血圧の変化 | (血圧中央値以上の群) 収縮期:-12 mmHg 拡張期:-8 mmHg | 高血圧該当率が 55% → 21%に減少 | 月曜日:高め 木曜日:低下傾向 |
| 示唆される内容 | 禁酒後1ヶ月で 血圧が大幅に改善 (特に高血圧者で顕著) | 禁酒後2〜3週間で 血圧が大幅に改善 | 週末の大量飲酒が 週明けの血圧を上昇させる |
慢性的なアルコール摂取者147名を対象とした調査では、禁酒開始時点で55%の方が高血圧でしたが、18日後には21%まで減少しており、禁酒が短期間で血圧に好影響を与えることが示されています。
一方、アルコールによる血圧上昇の効果は、飲酒後24時間以内の比較的短い時間で現れることも知られています。
イギリス・フランス比較研究(PRIME Study)では、北アイルランドの週末飲酒パターンでは月曜日に血圧が高く木曜日にかけて低下する傾向が見られ、直近数日の飲酒が血圧に影響することが示されました。
つまり、アルコールの血圧上昇作用は比較的短期間で現れ、また禁酒によってその効果も比較的早く消失する可能性が高いと考えられます。
効果の出方に個人差がある3つの理由
禁酒による血圧低下の効果には個人差があります。
同じように禁酒を始めても、血圧の下がり方は人によって異なるのです。
この個人差が生じる主な理由として、以下の3つの要因が考えられます。
効果の出方に個人差がある3つの要因
| 要因 | 詳細 | 血圧低下への影響 |
|---|---|---|
| 禁酒前の飲酒量と期間 | 長期間・大量飲酒していた方 | 効果がより大きく現れる傾向 |
| もともとの血圧の高さ | 禁酒開始時点で血圧が高かった方 | 改善の余地が大きく効果も大きい |
| 個人の体質や生活習慣 | 年齢、性別、BMI、人種、遺伝、他の生活習慣改善 | 効果の現れ方に違いが生じる |
第一に、禁酒前の飲酒量と期間の違いです。
長期間にわたって大量の飲酒を続けていた方ほど、禁酒による血圧低下の効果が大きく現れる傾向があります。
研究によれば、1日あたりの飲酒量が多い方ほど、禁酒による血圧低下の幅も大きくなることが示されています。
例えば、1日48gのアルコールを摂取していた方が禁酒した場合、1日12gを摂取していた方が禁酒した場合に比べて、血圧低下の効果はより顕著に現れます。
第二に、もともとの血圧の高さです。
研究では、禁酒開始時点で血圧が高かった方ほど、禁酒による血圧低下の効果が大きいことが確認されています。
スペインの研究では、禁酒による血圧低下の程度と、禁酒前の血圧の高さとの間に直接的な相関関係が認められました。
つまり、高血圧の方ほど禁酒による改善の余地が大きいということです。
第三に、個人の体質や生活習慣の違いです。
年齢、性別、体重(BMI)、人種、遺伝的な体質などによって、アルコールが血圧に与える影響の程度は異なります。
また、同時に行っている他の生活習慣改善(食事、運動、ストレス管理など)も、禁酒の効果に影響を与える可能性があります。
アメリカで行われた大規模研究では、禁酒による血圧低下の効果は年齢、性別、BMI、高血圧の既往歴、降圧薬の使用状況にかかわらず同様に見られましたが、個々人での効果の現れ方には違いがあることも報告されています。
なぜお酒を飲むと血圧が上がるのか
お酒が血圧を上げるメカニズムを理解することは、禁酒がなぜ効果的なのかを知る上で重要です。
アルコールが血圧に影響を与える仕組みは複雑で、複数の経路が関与していることがわかっています。
実際に、アルコールは体内で様々な生理学的変化を引き起こし、それらが総合的に血圧上昇につながっていきます。
興味深いことに、お酒を飲んだ直後には一時的に血圧が下がることがあります。
これは血管が拡張するためですが、この効果は数時間程度しか続きません。
その後、アルコールの代謝が進むにつれて、様々な仕組みを通じて血圧は上昇していきます。
こうした二相性の反応があるため、「お酒を飲むと血圧が下がる」という誤解が生まれることもありますが、長期的には血圧を上げる方向に働くことが研究で明確に示されています。
また、飲酒量と血圧上昇の間には明確な関連があることも重要なポイントです。
少量の飲酒であっても血圧に影響を与える可能性があり、飲酒量が増えるほど血圧上昇のリスクも高まります。
このセクションでは、アルコールが具体的にどのような仕組みで血圧を上げるのか、そして飲酒量と血圧の関係について、科学的なエビデンスに基づいて解説していきます。
アルコールが血管を収縮させて血圧を上げる仕組み
アルコールを飲むと、まず短時間は血管が拡張して一時的に血圧が下がることがあります。
しかし、この効果は数時間程度で、その後はむしろ血圧を上昇させる方向に働きます。
アルコールが血圧を上げる主な仕組みは以下の通りです。
アルコールが血圧を上げるメカニズム
| メカニズム | 体内での変化 | 血圧への影響 |
|---|---|---|
| 交感神経系の活性化 | 心拍数増加、血管収縮 | 血圧上昇 |
| ホルモン系への影響 | レニン-アンジオテンシン-アルドステロン系の刺激 | 水分・ナトリウム蓄積、血管収縮 |
| 血管内皮機能の低下 | 一酸化窒素の産生低下、エンドセリン増加 | 血管拡張能力の低下 |
| ストレスホルモンの増加 | コルチゾール濃度上昇 | 血圧上昇 |
交感神経は体を興奮状態にする神経で、この神経が活発になると心拍数が増加し、血管が収縮して血圧が上昇します。
研究によれば、2杯の飲酒で筋交感神経活動(MSNA)が有意に増加することが確認されており、アルコールは交感神経の活動を高めることが明らかになっています。
アルコールを1杯飲んでも筋交感神経活動(MSNA)に変化はなかったが、2杯飲むとMSNAが9~10バースト/分増加した(P < 0.001)。
引用:https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/18055508/
さらに、アルコールはレニン-アンジオテンシン-アルドステロン系という血圧調節に関わる重要なホルモン系を刺激します。
このシステムが活性化すると、体内に水分とナトリウムが蓄積しやすくなり、血管が収縮して血圧が上昇します。
また、アルコールは血管の内側を覆う内皮細胞の機能を低下させることも知られています。
内皮細胞は一酸化窒素という血管を拡張させる物質を産生していますが、アルコールはこの機能を妨げます。
研究では、大量飲酒者では血液中のエンドセリン(血管を収縮させる物質)とPAI-1(血栓形成に関わる物質)の濃度が高く、禁酒によってこれらの物質が1週間以内に減少し始めることが報告されています。
加えて、アルコールは血液中のコルチゾール(ストレスホルモン)の濃度を上昇させることも示されており、このホルモンの過剰は血圧上昇と関連しています。
飲酒量と血圧上昇の関係
飲酒量と血圧の関係については、多くの研究が行われています。
結論として、飲酒量が多くなるほど血圧が上昇するという、ほぼ直線的な関係があることがわかっています。
アメリカ心臓学会の研究では、米国、韓国、日本の成人19,548名を4〜12年間追跡調査した結果、飲酒量の増加に伴って血圧が上昇することが明らかになりました。
この研究によれば、1日あたり純アルコール12gを摂取している方と比較して、1日あたり48gを摂取している方では、収縮期血圧が4.9 mmHg、拡張期血圧が3.1 mmHg高いことが示されています。
1日平均12グラム(米国標準アルコール飲料1杯分弱)のアルコールを摂取した人では、収縮期血圧が5年間で1.25mmHg上昇しました。1日平均48グラムのアルコールを摂取した人では、研究期間中に収縮期血圧が4.9mmHg上昇しました。
引用:https://www.heart.org/en/news/2023/07/31/even-just-1-alcoholic-drink-a-day-may-increase-blood-pressure
さらに、1日1杯程度(純アルコール12g)の少量飲酒であっても、全く飲まない方と比較すると5年間で収縮期血圧が1.25 mmHgわずかに上昇することが確認されました。
つまり、「少しなら大丈夫」とは必ずしも言えないのです。
日本の厚生労働省のガイドラインでも、少量のアルコールでも血圧を上昇させる可能性があることが指摘されています。
高血圧の場合は、たとえ少量であっても飲酒自体が発症リスクを上げてしまうことが示されています。
また、飲酒パターンも重要です。
週末だけ大量に飲む「週末飲酒」も血圧に悪影響を与えることがわかっており、前述の研究では週末飲酒者は月曜日に血圧が高くなる傾向が見られました。
一方で、毎日少量ずつ飲む場合も、慢性的な血圧上昇につながる可能性があります。
飲酒量の目安として、純アルコール換算で1日20gが「節度ある適度な飲酒」とされていますが、これは以下に相当します。
飲酒量の目安
| お酒の種類 | 純アルコール20gに相当する量 |
|---|---|
| ビール | 中瓶1本(500ml) |
| 日本酒 | 1合(180ml) |
| ワイン | グラス2杯程度 |
しかし、高血圧が気になる方や、すでに高血圧と診断されている方は、これよりも少ない量に抑えるか、禁酒を検討することが推奨されます。
禁酒による血圧低下の効果
禁酒による血圧低下の効果は、研究によって一貫して確認されています。
これまでに世界中で行われた多くの臨床研究やメタアナリシス(複数の研究結果を統合した分析)により、禁酒が血圧を有意に低下させることが科学的に証明されています。
無作為化比較試験のメタ解析では、禁酒によって収縮期血圧が平均3.31 mmHg、拡張期血圧が平均2.04 mmHg低下することが報告されており、これが一般的な平均値です。
ただし、効果の大きさは飲酒量や血圧の高さで大きく異なります。
1日100g以上の大量飲酒者が1ヶ月禁酒した場合は7.2/6.6 mmHg、アルコール依存症治療を受けた血圧高めの方では12 mmHg低下したケースもありますが、これらは高リスク群の結果です。
また、禁酒の効果は短期的なものだけでなく、長期的にも持続することが確認されています。
ここでは、禁酒後の期間ごとにどのような変化が期待できるのか、そして実際の研究データではどのような結果が得られているのかを詳しく見ていきましょう。
禁酒を続けることで、血圧だけでなく心血管系全体の健康改善が期待できることも重要なポイントです。
禁酒1週間〜1ヶ月で現れる変化
禁酒を始めてから最初の1週間から1ヶ月の期間は、体に様々な変化が起こります。
血圧の低下もその一つです。
まず、禁酒開始後の最初の数日間では、体内のアルコール代謝産物が排出され始めます。
この時期には、血液中のエンドセリンやPAI-1といった血管収縮や血栓形成に関わる物質の濃度が低下し始めることが研究で確認されています。
禁酒1週間〜1ヶ月で現れる体内の変化と血圧への影響
| 期間 | 体内で起こる変化 | 血圧への影響 |
|---|---|---|
| 禁酒開始〜1週間 | アルコール代謝産物の排出、エンドセリン・PAI-1の減少開始 | 血管収縮物質が正常レベルに近づく |
| 1〜2週間 | 血圧低下が明確に | 多くの方で正常血圧に戻る傾向 |
| 1ヶ月間の継続 | 血圧低下効果が安定、心拍数も低下 | 高血圧者の割合が大幅に減少 |
イタリアの研究では、禁酒後1週間以内にこれらの物質が正常レベルに近づくことが報告されました。
1〜2週間が経過すると、多くの方で血圧の低下が明確に現れてきます。
この研究では、禁酒開始から3日目には血圧が有意に低下し始め、多くの方が正常血圧に戻る傾向が見られました。
1ヶ月間の禁酒を継続すると、血圧低下の効果はさらに安定してきます。
スペインで行われた研究では、1ヶ月間の完全禁酒によって、収縮期血圧が平均7.2 mmHg、拡張期血圧が平均6.6 mmHg低下したことが24時間血圧測定で確認されました。
この研究で特に注目すべき点は、もともと高血圧と判定されていた方(24時間血圧測定で昼間の血圧が135/85 mmHg以上)の割合が、禁酒前の42%から禁酒後には12%まで減少したことです。
また、この期間には心拍数も低下する傾向があります。
同じスペインの研究では、心拍数が平均7.9拍/分減少したことが報告されており、これは心臓への負担が軽減されていることを示しています。
禁酒1ヶ月以上続けると安定して血圧が改善する
禁酒を1ヶ月以上継続すると、血圧低下の効果はより安定し、長期的な健康改善につながります。
複数の研究をまとめた分析によれば、禁酒による血圧低下の効果は継続的に維持されることがわかっています。
アメリカで行われたメタアナリシス(複数の研究結果をまとめて分析する手法)では、15の無作為化比較試験の結果を統合したところ、禁酒によって収縮期血圧が平均3.31 mmHg、拡張期血圧が平均2.04 mmHg低下することが示されました。
さらに、禁酒の効果は飲酒量に応じて異なり、もともと大量に飲酒していた方ほど効果が大きいことが確認されています。
ランセット誌に発表された系統的レビューとメタアナリシスでは、1日2杯以上飲酒していた方が禁酒または減酒すると、用量依存的に血圧が低下することが報告されました。
この研究では、禁酒による血圧低下の効果には閾値効果があり、1日2杯以下の飲酒者では減酒による血圧低下効果が明確でなかったものの、1日2杯以上の飲酒者では有意な効果が見られました。
長期的な禁酒の利点は、血圧低下だけではなく、以下のようなメリットが期待できます。
- 心血管系全体の健康改善
- 肝機能の回復
- 睡眠の質の向上
- 体重管理の改善
- 降圧薬の効果向上
また、禁酒によって降圧薬の効果も高まる可能性があることも報告されています。
実際に禁酒で血圧が下がった人のデータ
実際の研究データを見ると、禁酒による血圧改善の効果がより具体的に理解できます。
禁酒で血圧が下がった研究結果
| 研究名・実施国 | 対象者 | 期間 | 結果 |
|---|---|---|---|
| COMBINE Study(アメリカ) | アルコール依存症治療を受けた1,383名(血圧中央値以上) | 16週間追跡、最初の1ヶ月で測定 | 収縮期血圧12mmHg、拡張期血圧8mmHg低下 |
| イタリアの研究 | 1日200g以上のアルコール摂取の高血圧者14名 | 30日間 | 3日目から血圧低下開始、30日後に13名が正常範囲に |
| アルコール依存症患者調査 | アルコール離脱期の慢性依存症患者147名 | 18日間 | 血圧が平均10mmHg低下、高血圧者が55%→21%に |
アメリカで実施されたCOMBINE Studyという大規模研究では、アルコール依存症の治療を受けた1,383名を16週間追跡調査しました。
この研究では、治療開始前に血圧が中央値以上だった方に限定して分析したところ、治療開始後の最初の1ヶ月で収縮期血圧が平均12 mmHg、拡張期血圧が平均8 mmHg低下しました。
この血圧低下の効果は、年齢、性別、BMI、高血圧の既往歴、降圧薬の使用状況に関わらず同様に見られました。
また、イタリアで行われた研究では、1日200g以上のアルコールを摂取していた高血圧の大量飲酒者14名が禁酒プログラムに参加し、30日間にわたって血圧を測定しました。
その結果、以下のような効果が確認されました。
- 禁酒開始から3日目には血圧が有意に低下し始めた
- 30日後には14名中13名で血圧が正常範囲まで改善
- アルドステロン(血圧を上げるホルモン)とコルチゾール(ストレスホルモン)の濃度が有意に低下
さらに、アルコール離脱期の慢性アルコール依存症患者147名を対象とした調査では、禁酒開始時点で55%の方が高血圧でしたが、18日後には21%まで減少し、血圧が平均10 mmHg低下していました。
これらのデータから、禁酒による血圧改善の効果は、特に大量飲酒者や高血圧を伴う方で顕著であることがわかります。
また、効果が現れる時期も比較的早く、数日から数週間で変化が見られることが多いという点も重要です。
お酒をやめる以外で血圧を下げる方法
禁酒は血圧を下げる効果的な方法の一つですが、他の生活習慣と組み合わせることで、さらに大きな効果が期待できます。
実際に、高血圧の治療ガイドラインでは、生活習慣の総合的な改善が推奨されており、禁酒だけでなく、食事、運動、ストレス管理など、複数の要素を組み合わせることが重要とされています。
研究によれば、DASH食(野菜・果物・低脂肪乳製品を多く含む食事パターン)と減塩を組み合わせることで、血圧低下効果が得られる場合もあることが報告されています。
特に、減塩や適度な運動は、禁酒と同様に血圧管理において重要な役割を果たします。
また、睡眠の質の向上やストレス管理も、血圧を安定させる上で見逃せない要素です。
厚生労働省や日本高血圧学会のガイドラインでも、高血圧の予防と治療には、生活習慣の総合的な改善が第一選択として推奨されています。
これらの対策は、薬物療法と併用することでより効果を高めることができますし、場合によっては薬の量を減らせる可能性もあります。
ここでは、禁酒と併せて取り組みたい血圧管理の具体的な方法をご紹介します。
それぞれの方法は単独でも効果がありますが、複数を組み合わせることで相乗効果が期待できます。
減塩とカリウム摂取で血圧が下がりやすくなる
食生活の改善、特に塩分の摂取を減らすことは、血圧管理において非常に重要です。
令和5年(2023年)の国民健康・栄養調査によると、日本人の食塩摂取量は平均9.8gで、男性10.7g、女性9.1gとなっています。
一方、厚生労働省が推奨する目標量は男性7.5g未満、女性6.5g未満となっています。
日本高血圧学会のガイドラインでは、高血圧患者に対してさらに厳しい1日6g未満が推奨されています。
日本人の食塩摂取量目標量
| 対象 | 1日の食塩摂取目標量 |
|---|---|
| 男性 | 7.5g未満 |
| 女性 | 6.5g未満 |
| 高血圧の方・腎臓病の方 | 6g未満 |
減塩の効果は研究でも確認されており、塩分摂取を減らすことで血圧が低下することがわかっています。
日常生活での減塩のコツとしては、以下のような方法があります。
- 醤油や塩などの調味料を使う前に味を確認し、必要最小限にとどめる
- 麺類のスープやだしを全部飲まないようにする
- 酢や柑橘類の酸味、香辛料、香味野菜などを上手に使う
- おつまみは塩分の少ないものを選ぶ(野菜スティック、枝豆など)
一方、カリウムは体内の余分なナトリウムを排出する働きがあり、血圧を下げる効果が期待できます。
WHOも成人のカリウム摂取増加を推奨しています。
カリウムは野菜や果物、豆類、芋類などに多く含まれています。
- バナナ
- ほうれん草
- アボカド
- さつまいも
- トマト
- 豆類
- 芋類
ただし、腎機能が低下している方は高カリウム血症のリスクがあるため、医師に相談してください。
お酒を飲む際に一緒に食べるおつまみにも注意が必要です。
おつまみには塩分が多く含まれているものが多いため、塩分の少ないメニューを選ぶか、野菜スティックや枝豆など、比較的塩分が少なく栄養価の高いものを選ぶと良いでしょう。
週150分以上の運動で血圧改善をサポート
適度な運動は、血圧を下げる効果が科学的に証明されています。
運動によって血管の柔軟性が改善し、血液循環が良くなることで、血圧が低下すると考えられています。
国際的なガイドラインでは、週に150分以上の中等度の有酸素運動が推奨されています。
これは、1回30分程度の運動を週5回以上、または1回50分程度の運動を週3回行うことに相当します。
厚生労働省のe-ヘルスネットでも、「できれば毎日30分以上」の運動を推奨しています。
血圧改善のために推奨される運動量
| 運動パターン | 具体例 |
|---|---|
| 短時間・高頻度 | 1回30分程度の運動を週5回以上 |
| 長時間・中頻度 | 1回50分程度の運動を週3回 |
| 毎日の習慣 | できれば毎日30分以上 |
運動の種類としては、ウォーキング、ジョギング、サイクリング、水泳などの有酸素運動が効果的です。
特に、ウォーキングは誰でも気軽に始められ、継続しやすい運動としておすすめです。
「ややきつい」と感じる程度の運動強度が目安で、会話ができる程度の息切れがある状態が理想的です。
運動を始める際の注意点として、以下のことを心がけましょう。
- いきなり激しい運動を行うのは避け、徐々に運動量を増やしていく
- すでに高血圧と診断されている方や、心臓病など他の疾患がある方は、運動を始める前に医師に相談する
運動には血圧を下げる効果だけでなく、体重管理、ストレス解消、睡眠の質の向上など、様々な健康上のメリットがあります。
禁酒と運動を組み合わせることで、より効果的な血圧管理が可能になります。
質の良い睡眠とストレス管理が血圧を安定させる
睡眠とストレスも血圧に大きな影響を与える要因です。
質の良い睡眠を確保し、ストレスを適切に管理することで、血圧の安定化が期待できます。
睡眠不足や睡眠の質の低下は、交感神経系を活性化させ、血圧を上昇させることがわかっています。
アメリカ心臓協会は、心血管健康の指標として睡眠を含めており、成人には7〜9時間の睡眠を推奨しています。
質の良い睡眠を得るためには、以下の工夫が有効です。
質の良い睡眠を得る方法
| 睡眠改善の方法 | 具体的な対策 |
|---|---|
| 就寝前の飲食 | カフェインやアルコールの摂取を避ける |
| 睡眠環境 | 寝室を暗く静かに保つ |
| デジタルデバイス | 就寝前のスマートフォンやパソコンの使用を控える |
| 睡眠リズム | 毎日同じ時間に就寝・起床する |
また、アルコールは一時的には眠気を誘いますが、睡眠の質を低下させることが知られています。
特に、深い眠りの時間が短くなり、夜中に目が覚めやすくなります。
禁酒することで、睡眠の質が改善し、それが血圧の安定にもつながる可能性があります。
ストレス管理も重要です。
慢性的なストレスは、交感神経系の活性化を通じて血圧を上昇させます。
アメリカ心臓協会の科学声明では、呼吸誘導法や一部の瞑想法が小〜中等度の血圧低下効果を示すことが報告されています。
ただし、方法によってエビデンスの強度は異なるため、以下のような自分に合った方法を見つけることが大切です。
ストレス管理の方法
| ストレス管理法 | 期待できる効果 |
|---|---|
| 深呼吸 | 副交感神経の活性化、即座にリラックス |
| 瞑想 | 継続的なストレス軽減、血圧低下 |
| 趣味の時間 | 気分転換、精神的な安定 |
| 対話 | 信頼できる人と話すことで心理的負担軽減 |
研究によれば、ストレスと飲酒には関連があり、ストレスを感じると飲酒量が増える傾向があることが示唆されています。
臨床研究では、急性ストレスと慢性ストレスの両方が、アルコール性薬物使用障害の発症、アルコール性薬物乱用治療の開始、そして回復期のアルコール依存症患者の再発促進に影響を及ぼす可能性があることが示唆されています。
引用:https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC6760383/
ストレスに対処するために飲酒するのではなく、健康的なストレス管理方法を身につけることが、長期的な血圧管理には重要です。
厚生労働省のe-ヘルスネットでも、高血圧の予防と治療には、減塩、適正体重の維持、適度な運動、そして禁酒を含む総合的な生活習慣の改善が重要であることが強調されています。
これらの対策を組み合わせることで、より効果的な血圧管理が可能になります。
お酒と血圧に関するよくある質問
ここでは、お酒と血圧に関してよく寄せられる質問とその回答をまとめました。
- 少量のお酒なら血圧に影響しない?
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少量の飲酒であっても血圧に影響を与える可能性があることが、最近の研究で明らかになっています。
アメリカ心臓学会が発表した研究では、1日1杯程度の飲酒でも、全く飲まない方と比較して血圧がわずかに上昇する傾向が認められました。
また、厚生労働省のガイドラインでも、高血圧の場合はたとえ少量であっても飲酒自体が発症リスクを上げる可能性があると指摘されています。
そのため、「少量なら大丈夫」とは必ずしも言えません。
- 禁酒すれば薬を飲まなくても良い?
-
禁酒によって血圧が改善することはありますが、降圧薬を自己判断で中止することは避けてください。
すでに降圧薬を服用されている方は、禁酒の効果が現れてきたとしても、必ず医師に相談した上で薬の調整を行う必要があります。
禁酒と薬物療法を併用することで、より効果的な血圧管理が可能になる場合も多くあります。
血圧の変化については定期的に測定し、医師と相談しながら治療方針を決めることが大切です。
- お酒を完全にやめないと効果はない?
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完全な禁酒が理想的ですが、飲酒量を減らすだけでも血圧低下の効果が期待できます。
研究によれば、飲酒量の減少は用量依存的に血圧を低下させることが示されています。
特に、1日2杯以上飲酒している方が飲酒量を減らすと、有意な血圧低下効果が見られることが報告されています。
ただし、最も効果的なのは完全な禁酒であり、特にすでに高血圧と診断されている方や、大量飲酒の習慣がある方には禁酒が強く推奨されます。
- 禁酒後、どのくらいで健康診断の数値が変わる?
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禁酒による血圧低下の効果は、早い方では数日から1週間程度で現れ始めます。
健康診断で測定される血圧値に明確な変化が見られるようになるのは、多くの場合1〜2週間から1ヶ月程度です。
ただし、効果の現れ方には個人差があり、禁酒前の飲酒量や期間、もともとの血圧の高さなどによって異なります。
継続的に禁酒を続けることで、より安定した血圧低下効果が期待できます。
- 週末だけ飲むのは血圧に影響する?
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週末だけの飲酒であっても、血圧に悪影響を与える可能性があります。
研究によれば、週末に大量飲酒をする「週末飲酒」のパターンでは、週明けの月曜日に血圧が上昇する傾向が見られることが報告されています。
また、たとえ週1〜2日の飲酒であっても、1回あたりの飲酒量が多ければ、血圧上昇や他の健康リスクにつながる可能性があります。
飲酒する場合は、頻度だけでなく1回あたりの量も適切に管理することが重要です。
まとめ
お酒をやめることによる血圧への効果は、多くの研究で確認されています。
禁酒を始めてから血圧が下がり始めるまでの期間は、早い方で3〜4日、多くの場合は1〜2週間程度で効果が現れ始めます。
1ヶ月間の禁酒を継続すると、一般的な平均では収縮期血圧が数mmHg低下し、特に大量飲酒者や高血圧を伴う方では7〜12 mmHg程度の大きな低下が報告されています。
アルコールが血圧を上げる仕組みは、交感神経系の活性化、血管収縮、ホルモン系への影響など、複数の経路を通じて起こります。
飲酒量と血圧の間にはほぼ直線的な関係があり、飲酒量が多いほど血圧が上昇する傾向にあります。
少量の飲酒であっても血圧に影響を与える可能性があることが、最近の研究で示されています。
禁酒の効果をより高めるためには、減塩やカリウム摂取、適度な運動、質の良い睡眠、ストレス管理など、他の生活習慣改善と組み合わせることが重要です。
これらの対策を総合的に行うことで、より効果的な血圧管理が可能になります。
高血圧は「サイレントキラー」とも呼ばれ、自覚症状がないまま進行することが多い病気です。
飲酒習慣がある方で血圧が気になる場合は、まず医療機関を受診し、医師と相談しながら適切な対策を始めることをおすすめします。
禁酒はその中でも特に効果的な方法の一つですが、すでに降圧薬を服用されている方は、必ず医師に相談した上で進めてください。
健康的な生活習慣を身につけることで、血圧だけでなく、心血管系全体の健康維持につながります。
できることから少しずつ始めて、長期的な健康管理に取り組んでいきましょう。
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