脂質異常症とは

血液の中に脂質が必要以上に増えた、または減った状態が「脂質異常症」です。血液がドロドロになり、さまざまな病気を引き起こします。脂質異常症のこわさは自覚症状がまったくないことです。
痛みを感じたり、体の異変が目に見えたりすることはありません。

健康診断などでコレステロール値を測れば数値が異常であることはわかりますが自覚症状がないため対策されることなく放置されがちです。ところが、体は確実にむしばまれていますので注意が必要です。

脂質異常症は

  • 悪玉コレステロールが増える「高LDLコレステロール血症」
  • 善玉コレステロールが減る「低HDLコレステロール血症」
  • 中性脂肪が多い「高中性脂肪血症(高トリグリセライド血症)」の3タイプに分かれます。

脂質異常症診断基準(空腹時採血)

LDLコレステロール140mg/dL以上高LDLコレステロール血症
120~139mg/dL境界域高LDLコレステロール血症
HDLコレステロール40mg/dL未満低HDLコレステロール血症
トリグリセライド150mg/dL以上高トリグリセライド血症
Non-HDLコレステロール*170mg/dL以上高non-HDLコレステロール血症
150~169mg/dLL境界域高non-HDLコレステロール血症

*non-HDLコレステロール=総コレステロール-善玉コレステロール(HDLコレステロール)

「脂質」というとネガティブなイメージを抱きがちですが、炭水化物(糖質)とたんぱく質に並ぶ三大栄養素のひとつで、体にとって重要な成分です。

脂質とは、体内にある脂のことを指し「コレステロール」「中性脂肪」「リン脂質」「遊離脂肪酸」などの種類があります。これらは肝臓で作り出されますが、その一部は食事で小腸から吸収されます。そのため、脂質を取り入れた食事が必要なのです。しかし、とりすぎてしまうと血液中の脂質が増えてしまい脂質異常症につながる恐れがあります。

4つの主な血中脂質

コレステロール

細胞膜やホルモン、胆汁酸の材料。過剰にとると動脈硬化などの原因になり不足すると血管が破れやすくなります。

中性脂肪

食事からとるエネルギーが足りなくなったときに、予備のエネルギーとして使われます。

リン脂質

細胞膜の成分となるほか、細胞の中と外を水や物質が行き来できるという、細胞膜の働きを維持します。

遊離脂肪酸

体に貯蔵されていた中性脂肪を、いざエネルギーとして使うときに分解されて生じる脂質です。

脂質異常症の要因

脂質異常症の要因として考えられることは、大きく分けて2つあります。

1つは「遺伝・体質」。これによる脂質異常症は「原発性」といわれます。
もう1つは「ほかの病気や薬」「生活習慣の乱れ」です。これによる脂質異常症は「二次性」といわれます。「原発性」と「二次性」の要因は重なることも多いため、脂質異常症になりやすい体質の人が生活習慣を乱すと、発症リスクがどんどん高くなるといえるでしょう。

治療をする際には、どれが原因かということの見極めも重要です。

原発性

遺伝

●「家族性高コレステロール血症」
親のどちらかがLDLコレステロール値が高くなる遺伝子を持つ

●「家族性複合型高脂血症」
親のどちらかがLDLコレステロール値と中性脂肪が高くなる遺伝子を持つ

体質

●遺伝子の個人差によって脂質に異常がでる
早くから動脈硬化が起きるリスクがあるため家族に脂質異常症や心筋梗塞を発症している人がいる場合は、定期的に血液検査を受けて予防や対策に努めましょう。

二次性

生活習慣の乱れ

●食生活
食べすぎ、動物性脂肪や糖分のとりすぎ、アルコールの飲みすぎなど

●運動不足喫煙
バランスのよい食事や運動の習慣化、喫煙などの生活習慣を改善しましょう。

ほかの病気や薬

●病気の影響
糖尿病、甲状腺機能低下症、ネフローゼ症候群、肝臓病など

●薬の影響
圧薬、ホルモン剤、免疫抑制剤、向精神薬など

まずは脂質異常症の原因である病気を治療することからはじめましょう。薬が影響している場合は変更等を医師へご相談ください。

脂質異常症を放っておくと

脂質異常症が進むと、血中脂質が増え血液がドロドロになり、血管壁を傷つけることでその傷からLDLコレステロールが血管の中側に入りこみます。これが原因で動脈硬化が引き起こされると、心筋梗塞などの心血管疾患や脳梗塞などの脳血管疾患に至ります。

脂質異常症を放っておくと、ほかの生活習慣病を合併するリスクがあります。ほかにも、脂質のバランスに異常が出ることで腎臓や肝臓まで悪影響を及ぼします。こうした危険性を十分に理解し、早めに病院にかかることが必要です。

医学者が提唱する健康習慣

生活習慣病の改善・予防の目標として、アメリカ・カリフォルニア大学のブレスロー教授が提唱した「ブレスローの7つの健康習慣」は世界的に有名です。
その中で彼は生活習慣と身体的健康度との関係を調査し、健康度には7つの健康習慣が関係していると述べています。
「ブレスローの7つの健康習慣」は以下の通りです。

  1. 喫煙をしない
  2. 定期的に運動をする
  3. 飲酒は適量を守るもしくは飲酒をしない
  4. 1日7~8時間睡眠をとる
  5. 適正体重を維持する
  6. 朝食を食べる
  7. 間食をしない

脂質異常症の治療をするうえで定期に必要な検査について

脂質異常症には自覚症状がほとんどありませんが、脂質異常症を長い間放置していると、動脈の内膜にLDL(悪玉)コレステロールなどの脂質が蓄積し、プラークと呼ばれるコブのようなものができます。このようにプラークができることで、動脈硬化が起こります。脂質異常症の治療をする方は、現時点で合併症がどれだけ進行してしまっているか、また治療によってしっかりと合併症の進行を抑えることができているかを定期的に検査して確認することが非常に大切です。

以下に、脂質異常症の治療を継続していくうえで定期的に必要となる検査について、それぞれご説明します。

ABI

脂質異常症によって血管がどれだけ傷んでいるか、「動脈硬化」の状態を把握するための検査です。ABI検査では、両手と両足の血圧を同時に測定します。正常では足首の血圧の方が上腕の血圧より高いのですが、動脈硬化が進むと足首の血圧が上腕の血圧よりも低くなります。つまり、上腕や両足という比較的太い血管がどれだけ詰まっているかを血圧によって推定する検査です。

頸動脈エコー検査

頸動脈エコーでは、超音波を用いて首筋を走る頸動脈の中を画像としてみることができます。頸動脈は動脈の中でも太い血管であるにもかかわらず、体表から浅いところにあるので観察がしやすく、また動脈硬化が発生しやすい部位でもあります。頸動脈を観察して大きな異常が確認された場合、全身の動脈でも同じような異常があるのではないかと推定できます。

動脈硬化も症状がなく徐々に進行していくため、少なくとも1~2年に一度、定期的にその進行の程度を確認することが大切です。特に脂質異常症だけでなく、高血圧、糖尿病も一緒に合併している場合は更に動脈硬化は進行しますので、1年に一度することをお勧めします。

脂質異常症の治療

健康診断や人間ドックで、脂質の数値に異常があると指摘された場合、まずは内科を受診して詳しい検査をしてから、医師と相談し治療方針を決めましょう。問診では自覚症状の有無、生活習慣、病歴などについて医師に伝えます。遺伝の場合もあるので、家族の病歴もしっかり伝えましょう。

治療で重要なのは、脂質管理の目標値を設定し、コントロールすることです。脂質管理の目標値の設定は冠動脈疾患を経験しているかどうかで変わってきます。脂質管理の目標値が決定したら状態にあった治療をスタートします。

治療のベースは生活習慣の改善です。

今までの生活を見直し、健康的な生活を心がけることで目標値を目指しましょう。

脂質異常症の治療には、主にLDLコレステロール値を下げる薬、中性脂肪値を下げる薬が使われます。
LDLコレステロール値を下げる薬として有効なのがスタチンです。
この薬によって、コレステロールが肝臓で合成されにくくなります。

また、中性脂肪値を下げる目的で主に使われているのは、フィブラート系の薬です。
いずれもほかの疾患がある場合には副作用が起きないか、経過を観察しながら治療を進めます。

生活習慣の改善について

脂質異常症の原因はさまざまですが、最も多い原因はやはり食事です。
食べすぎ・飲みすぎ・朝食抜き・ドカ食い・栄養バランスの偏りなどで食生活に乱れが生じ、脂質異常症につながる可能性が高まります。

脂質異常症の改善は、食事の内容を見直し、食べすぎを防ぎ、体重をコントロールすることからはじめましょう。

現代の食生活で特に注意したいのは、「塩分」「糖分」「脂質」です。
塩分の取りすぎは高血圧症に、糖分や脂質のとりすぎは肥満糖尿病脂質異常症につながります。

脂質異常のタイプで違う食事のポイント

LDLコレステロール値が高いタイプ

<なりやすい人の食生活>

  • コレステロールや飽和脂肪酸をとりすぎている
  • トランス脂肪酸を含む食品をとりすぎている
  • 食物繊維を含む食品をとる量が少ない

<こう改善する!>

  • 肉の脂身・内臓・皮、チーズ、クリームなどを控える
  • 揚げ物、マーガリンを含む洋菓子を控える
  • 海藻類、根菜、大豆などを積極的にとる(水溶性食物繊維)

HDLコレステロール値が高いタイプ

<なりやすい人の食生活>

  • 炭水化物をとりすぎている
  • 揚げ物やトランス脂肪酸を含む食品をとりすぎている
  • 食物繊維を含む食品をとる量が少ない

<こう改善する!>

  • 炭水化物を控え、エネルギー量を減らす
  • 揚げ物、マーガリンを含む洋菓子を控える
  • 水溶性食物繊維、青背の魚をとる

中性脂肪値が高いタイプ

<なりやすい人の食生活>

  • 炭水化物、甘い物、アルコールをとりすぎている
  • 食物繊維を含む食品をとる量が少ない
  • 多価不飽和脂肪酸をとる量が少ない

<こう改善する!>

  • 適正エネルギー量を守って食事をする
  • アルコール、お菓子、ジュースを控える
  • 食物繊維、青背の魚をとる

用語解説

飽和脂肪酸とは

ラードやバターなど肉類や乳製品の脂肪に多く含まれる脂質。溶ける温度が高いため体内で固まりやすいうえに、中性脂肪やコレステロールを増やす。

トランス脂肪酸とは

不飽和脂肪酸の1種。マーガリン、ショートニングをはじめ、それらを原材料に使ったパン、ケーキ、ドーナツなどの洋菓子、揚げ物などに多く含まれる。日本ではまだ使用されていますが、海外では使用が禁止されているところも・・・

多価不飽和脂肪酸とは

悪玉コレステロールを減らし、血液凝固を抑える脂質。ただし、n-6系多価不飽和脂肪酸をとりすぎるとLDLコレステロールだけでなくHDLコレステロールも減ってしまう。

改善のコツ

脂質改善のポイント

肉なら低脂質の部位、魚なら青背魚を選びましょう。できたら、グラスフェッドや天然のものを選びましょう。
肉や魚の量より野菜の量を多くする(野菜は無農薬、自然農法がおすすめ)

調理・献立のポイント

肉や魚は、調理法で脂質をカット!
野菜は加熱してカサを減らす
濃い味、食べすぎや塩分過多の原因に注意!

食べ合わせポイント

脂質に作用する栄養を効率よく摂取する

  • コレステロールを排出する=食物繊維+脂質
  • ビタミンの吸収率をアップ=ビタミンA+油脂類
  • 抗酸化作用をアップする=ビタミンE+ビタミンA・C
  • 脂質の酸化を防ぐ=不飽和脂肪酸+抗酸化ビタミン
  • コレステロールの上昇を防ぐ=DHA・EPA+大豆イソフラボン

脂質異常症に効く運動療法

脂質異常症の予防や改善には、有酸素運動がおすすめです。
有酸素運動を行うと、血液中の中性脂肪をはじめ、皮下脂肪や内臓脂肪をエネルギー源として
燃焼させます。さらに血液の循環もよくなるため、中性脂肪やLDLコレステロールが減りHDLコレステロールが増えるのです。

ほかにも、血圧や血糖値を低下させる、免疫力を高めるといったさまざまなメリットがあります。
1日30分の有酸素運動が脂質コントロールに効果的!

また、水分補給も大切です。水分が不足することで血液が流れにくくなり、血栓ができやすくなるので血中コレステロールの値が高く血液がドロドロの人は注意が必要です。こまめに水分補給をしてサラサラな血液を維持しましょう。

冷たすぎる水は血液の温度を下げ、血管を収縮させるので避けましょう。
一気にたくさんではなく一口ずつゆっくり飲むのが効果的!

さらに喫煙習慣のある人は喫煙習慣の見直しも必要です。
そもそも喫煙は脂質異常症に関係あるのか?と思いがちですが、タバコは体内の活性酸素を増やし、悪玉のLDLコレステロールを酸化させるうえに、善玉のHDLコレステロールを減らしてしまいます。
さらにタバコの煙に含まれる有害物質は血栓を作りやすくし、動脈硬化を進行させ、脳卒中や心筋梗塞などの合併症を引き起こします。

こうした喫煙のデメリットを解消するために思い切って禁煙に踏み切りましょう。
自分では難しいと感じたら、禁煙外来を受診しましょう。喫煙状況に応じて医師のアドバイスが受けられる外来で、依存度チェック、カウンセリング、禁煙補助薬の処方などで、禁煙をサポートします。

対象者に条件はあるものの、治療には健康保険が適用されるしくみがあるので、受診の際に確認しましょう。

脂質異常症を改善する生活の中でも運動・水分補給・禁煙・アルコールの適正摂取・睡眠とストレスケアは習慣化したいポイントです!